10話 グレート・ハッカー(テル)

 アシュラ・セレニス。

 その名を聞いたとたん、俺の全身がなぜか震え出した。いやこれは、紫色の放電で麻痺させられてるせいなんだろうか。でも心の中のこのぞわぞわ感はいったいなんだろう。

 ネクサス・コロニアって……大昔に連邦政府を滅ぼしたとか、世界征服しかけたとか、そんな物騒なエピソードばりばりの、伝説の島都市だ。

 アシュラ・セレニスはそこの皇帝だったやつ。暗黒帝っていう異名で知られてて、たしか最期は……エルドラシアの初代皇帝マレイスニールに、つまり黄金のアルゲントラウムに倒されたって話が伝わってる。


「う……うそだろプジ! おまえの主人が暗黒帝なんて――」


 プジの機霊石は海底神殿遺跡でひろった。祭壇に飾られてたとか、どこかに大事に封印されてたとか、全然そんなんじゃない。暗い部屋のすみっこに転がってたからてっきり、大量生産された汎用型の機霊石だと思ってた。こわれてポイ捨てされたやつなんだろうなって。

 だから俺は信じなかった。このおかっぱ娘がとんでもなく怖ろしいことをやらかすまで。


「ふふふっ。性懲りもなくまたここに来るなんて。お仕置きしないといけないわね」


 ぱっつん黒髪のおかっぱ娘は容赦なかった。まずは紫色の放電を強め、俺をその場に縛り止めてきた。そしてなさけなくもまったく動けない状態の俺の前で――

 

「テル・シング。前にも言ったけど。あなたは、あたしがどんな代物か知らないで蘇らせちゃったのよ。さあ、今から起こることは、みんなあなたのせい。これはあたしを目覚めさせた、あなたのせいなの」


 おかっぱ娘は手を突き出し、紫の雷槌を俺の足元に放った。猫入りのキャリーバッグめがけて。


「な?! や、やめ――」


 たちまち、ぶじゅっというおそろしい破裂音があがる……

 

「うあああああっ!!」

「あはは! かわいそうに。あなたの猫たち、蒸発しちゃったわね。あなたのせいで」

「なんてことするんだ!! いったいどんな道理でそんな!!」

「ふふふ、次はこの人よ」


 コクピットの壁の一部が音もなくせり出してくる。細長い棺のようなものが、動けない俺の目の前に現れた。脱出用の救命ポッドだ。直立したままふしゅうと蓋が開く。中に入っているのは――


「め、メイ姉さん!?」

 

 メガネをかけた黒髪の人が、力なくどさりとコクピット内に倒れ込む。


「て、テルちゃん? テルちゃん、ここどこ? どうなってるの? た、助けて……」

「いつのまに姉さんを! 何する気だ?! や、やめろ。頼むやめろ! やめ――」


 絶叫するメイ姉さんの体が紫色の放電に包まれた。おかっぱ娘が背後からぐいと姉さんの頭をつかんでひっぱりあげた直後。


「テ――ぎゃああああっ!!」


 大きな胸がばふんとおそろしい音をたてて破裂した。メイ姉さんの胸に大穴があいて……おかっぱ娘の手が胸を……貫通して出て……あたりに、血しぶきが散った……

 

「姉さん! メイ姉さああああんっ!! なんてことするんだ!! なんでこんな!!」


 姉さんの体が倒れて沈んでく。コクピットの床に……血まみれになった床に……

 

「ふふふっ。ほんとあたし、血って大好きよ。だってあたしは生物の血で動くものなんだもの。でも人間たちにとっては恐怖でしかないわよね。なんでテルは、こんなあたしを蘇らせたのかしら?」


 おかっぱ娘は笑ってた。血の海の中でケラケラと楽しげに。もしかして狂ってるのかと、俺は戦慄した。血が好きだなんて。血で動くなんて。ああ、そういえば俺も吸われたことあった。首に管を刺されて生命力を吸われたんだった。まさかマジでこの機霊は吸血性だっていうのか?

 メイ姉さんの血がジュルジュル音をたてて、真ん中の柱近くの溝に吸い込まれていく。みるみるうちに、姉さんの体が干からびていく……


「このコクピットのすぐ下には、血液プールがあるの。あたしの食料庫がね。この真ん中の柱が、プールの血を吸い上げてあたしに力をくれるって構造なのよね。ふふふ、柱のきわの側溝に血が落ちてるわ。ここで流された血もきっとプールに流れ込む」

「なん……てことす……」

「あら、まだ反省の気持ちがわかないの? この女がこうなったのはあなたのせいよ」

「な、なんで、俺のせいなんだよ!」

「あなたが下手に好意をもつから、この女は煌帝国のやつらに目をつけられたの。利用価値があるとみなされてね」


 反対側の壁からもう一柱、救命ポッドがせりだしてきた。中から人がひとりどさりと、血まみれの床にたおれこむ。その人は両手をついてよろよろ身を起こした。恨めしげに、俺を睨みながら……


「テルちゃん……なんで逃げたの? どうして? テルちゃんのせいで私……」

「じょ、ジョゼットさん!? や、やめろ!! やめろプジ!!」

「その名前は大嫌いだっていったでしょ」

「プジたのむ! やめ――」


 おそろしい悲鳴があたりを引き裂く。瞬間、ごおっとジョゼットさんの体が紫色の炎に包まれて。ほくそ笑むおかっぱ娘の目の前でその体が……ほとんど機械の体が燃えだした。


「あははっ。よく燃えるわねえ。でも残念だわ。この人、機械人形なんだもん。あたしの好きな血が絞れないのよね」

「じょ、ジョゼットさん! ジョゼットさん!! やめろ! 頼むやめてくれ! 今すぐ炎を消してくれ!」


 ジョゼットさんの体はみるみる焼け溶けていった。有機体の肌の下にある機械の骨格があっという間にあらわになり、ぶすぶすばちばちと火花をあげる。炎の中で恨みがましい悲しい目が俺を刺してきた。大きな人工眼の中に在ったのは……哀しみと憎悪。


「テル、ちゃん。なぜ……逃げ、た、の……なぜ、おとなしく宮にいてくれなかっ……」

「やめろおおおっ!! やめてくれええええっ!!」


 放電は俺の体をがんじがらめにし続けていた。ほんの少しも動けない。このまま放置したら二人は死んじまう。胸を吹き飛ばされたメイ姉さんも。焼かれるジョゼットさんも。急いで処置すればまだ……


「た、助けないと。今すぐ助けないと――」

「あは、なに勘違いしてるの? ちゃんと悪いことしたって自覚しなくちゃ。

 あなたが私を起こしたせいで、あたしは巨神の頭脳にされた。

 あなたの知り合いってだけで、メガネの女は利用されるためにつかまった。

 あなたが逃げたせいで、乳母はお役御免。こうしてあたしの手によって処分された。

 みんな……」


 刃物のような猫撫で声が俺を切り刻んだ。


「あなたのせいよ。テル・シング」






 おぞましい殺戮はこれだけでは終わらなかった。俺の後ろから、また直立型の救命ポッドがせりだしてくる。開かれる蓋。どそりと血塗れの床に倒れ込む人。その人は――


「じ……じっちゃん!!」


 背中を丸めてごほごほ咳き込むじっちゃんは、こっちをちらと振り返ると、その弱々しかった顔をパッと真顔に変えた。


「なんということをしてくれたんじゃ、テル!」

「じ……」

「この世界はこれから破壊と混沌に染まる。おまえがとんでもないものを蘇らせたせいで――ぐあああああああっ!!」

「うああああ! じっちゃああああん!!」

 

 俺を責めるじっちゃんの体は、弾けた。風船が割れるようなおそろしい音をたてて。

 暗いコクピットがさらに真っ赤に染まる。そこかしこにちらばったのは……とても正視なんかできないもの。

 気づけば俺は悲鳴をあげ続けていた。泣きながら叫んで許しを乞うてた。煌帝国はおかっぱの悪魔に何人ものいけにえを捧げていた。俺にとって大事な人たちを、みんな……。


「ごめ……ごめんなさい! ごめんなさい! みんな! ごめんなさ……」 


 殺戮の場はコクピットだけじゃなかった。下の方にある空間にはロッテさんとハル兄がとらわれていて、無残に左右から迫る壁に潰され、血を絞られた。コクピットのモニターに映し出されたロッテさんは、粉々にされたミッくんの機霊箱を呆然と見下ろしてて。ハル兄は、俺がとんでもない機霊を目覚めさせたことを超絶に愚痴っていた。


「ミッくん……起きて……起きてよ……ミッくん」 

「ちくしょう許さねえぞ! テル・シング! あの化物のせいで俺たちは――ぎひああああっ!!」

「ロッテさああああん! ハル兄いいいいっ! 」


 もうひとつのモニターには、地下ドックに忍び込んだ白い猫と金髪少女が、警備兵たちに取り囲まれているのが映っていた。少女が白猫を肩におんぶして翼を出させた瞬間。巨神の手が、飛び立って逃げようとした彼らを無残に掴んだ……。


「ルノ! アル! やめてくれ! たのむどうか! やめ……」


「何処かで見ているのか、テル・シング? 無念だ。おまえのせいで世界は終わる」

「テルさんどうして? どうして私たちを救ったの? 私たちはあのまま死ぬべきだったのに……」


 そうして俺を責めるルノとアルは、いとも簡単にぶちりと握り潰された……。

 

「うああああっ! うああああっ! うあああああーっ!」


 頭を抱える俺を見下ろして、おかっぱ娘がせせら笑う。体を縛る放電がやっと消されたというのに、俺はその場から微動だにできなかった。


「お、俺のせい……俺の……俺の? 俺のせいで、みんな、死んだ?!」

「そうよ、テル・シング。あなたのせいでみんな死んだの」

「こ、これ、夢だろ? 悪い夢だろ? まぼろしだろ? なあっ!?」


 そうであってくれ。そうであってくれ――! 目を見開き俺は願った。

 すると両膝をついてぶるぶる涙をこぼす俺の頭を、おかっぱ娘がふわりふわりと撫でてきた。


「ふふふ、そうよ。今のはね、みーんな、幻」

「えっ……ほ、ほんとに? ほんとにそうなのか?! ほんとに……!」


 ハッと気づけば。

 コクピットは全然血に濡れてなかった。足元にはにゃあにゃあ泣いてる猫たちが入ったキャリーバッグがちゃんとある。そして俺はだらだら涙をこぼして、黒い床にはいつくばっていた。

 

「そんなに睨まないでテル。今出てきた人達が囚われてるのは、事実よ。あたしはいつでも幻のとおりにできる」


 くすくす笑うおかっぱ娘は、柱の前に浮かぶ自分の機霊石を手に載せるような格好をした。

 

「みんなあなたを恨んでる。こんなとんでもない機霊をよみがえらせるなんてって。あなたのおじいさまなんか、カンカンよ」


 その時突然おかっぱ娘の顔が、悪魔のようだった顔がくしゃりと歪んだ。とても――哀しげに。


「ねえ、どうして? どうしてあたしを蘇らせたの? どうしてあたしを目覚めさせたの?」

 

 どうしてっていわれても。俺は猫のタマに空飛ぶ力をつけてやりたかっただけだ。機霊石の性能はきっとぽんこつだろうからって、ほとんど期待してなかった。まさか石に入ってるAIがまだ生きてて、プジの意識に作用するとは思わなかったんだ。

 

「あたしの中に入ってるにゃあにゃあうるさいやつが、騒いでる。どうしてこんな機霊と一緒にしたのって。どうしてこんなものを世に放つのって」


 タマ? それともプジ? 無事でいるのか? で、でも俺を責めてるってそんな……


「あなたは、あたしを起こしちゃいけなかったのよ」


 あ……ああそうか。おかっぱ娘がこんなひどい幻を次々と見せたのは、俺を脅すためじゃない。


「おまえがこんなものを見せたのは、俺を責めるため? 俺に文句をいうため? ちがう、そうじゃない。きっと俺を突き放すためだ。そうだろ?!」

 

 頭を激しく掻いて問えば。おかっぱ娘はびくりとわなないた。


「ねえテル」


 その目がみるみる潤んできて。悪魔のようだった顔に、つうと涙が光った。


「あたし、ずっと眠ったままでいたかったわ」




 

 呆然とする俺の口からあいつの名前が飛び出した。

 

「プジ、だな? おまえはプジだよな?!」


 目の前の幻影少女に猫の要素は少しも見当たらない。でも俺を遠回しに責めて、しかも脅して遠ざけようとするなんて。これは「俺のためを思って」やってることとしか思えない。だとしたらこいつはまちがいなく――


「プジ! 悪かった! おまえの意思を尊重しなくて! でも俺は――」

「その名前で呼ばないで!」


 おかっぱ娘は手をかざして壁から直立型の救命ポッドを出した。幻の通りのものだ。

 俺を紫の放電でまたからめとって、その中に押し込む。猫入りキャリーケースも器用にふわふわ浮かして、俺の足元に入れる。とたん、エアバッグみたいなクッションがぼふんと出てきて、俺の全身をくるんだ。

 

「プジ! やめろ! 出せ!」


 透明な内蓋がポッドにかぶさる。放電を解かれてどがどが蓋を叩く俺を、おかっぱ娘は――プジはぼろぼろ涙をこぼしながら見つめていた。


「テル。あたし全部思い出したの。遠い昔にあたしがしたことを。あたしがこれからやらなきゃいけないことを。みんな思い出したの。だからもう、テルのそばにはいられない。ああ、どうしてあたしを起こしたの? 起こさなければ……あたしはこの世界にこれ以上、ひどいことをしないでいられたのに」

「プジ! 蓋を開けてくれ! 俺が悪かった! 俺に責任を取らせてくれ!」


 冗談じゃない。プジが世界にひどいことをする? どういうことだ? 俺のプジは誰よりも優しいんだ。まちがってもそんな……


「いいえ、テルには無理。責任なんて取れない。ううん、取らせるわけにはいかない」

「なんでだ! お前が何かしでかしたら、俺が責任取るのは当然――」


 そのときけたたましい呼び出し音が鳴り響いた。

 びーびーという音に合わせ、コクピット内の発光物――円い計器やチューブが、赤や紫に点滅する。とたんにおかっぱ娘の表情がみるみる変貌した。涙が引き、あの悪魔のような顔がよみがえる。口の端をほのかに引き上げる顔をするおかっぱ娘が柱に手をかざすと、皿でも割りそうな呼び出し音がフッと消えた。


「何の用なの? あたし今、忙しいんだけど?」


 後ろ手に刃物を潜ませているような猫撫で声でたずねるおかっぱ娘。しかし相手の声はきこえてこない。電波通信を音声に変換せずに直接受け取ってるようだ。

 

「ふうん? そろそろ外に出ていいのね。ほんとに勝手に好きなところへ行っていいの? あたし、あなたの国の都を焼いちゃうかもしれないわよ?」


 こいつ、なんて顔をするんだ。この上なく引き上がる口。釣り上がる眉。ぎらりとひかる目。

 まるでほんとうの魔女か悪魔だ。これがさっき俺に内心を暴露したプジ? いやこれは……別人としか思えない。


「あら、ほんとにいいのね。じゃあ炎都を本当に真っ赤にしてあげる。ふふっ……なによその真面目な返事。それでいいって、ずいぶんな覚悟じゃない? あたし、あんたも殺しちゃうかもしれないわよ? それでもいいのね? ……へえ? うふふ、上等ね」


 通信を終えると。おかっぱ娘はポッドに嵌められた俺に勝ち誇った顔を見せた。

 

「うるさい猫は押し込めたわ。ちょっと気を緩めると出てくるのよね」


 おかっぱ娘はころころ笑った。


「うるさい猫はいつでも消せるわ。でも切り札にとっておいてるのよね。だって猫が危機に陥れば、テル・シングはなんでもするでしょ?」

「……っ!」 

「さあ、大事な猫を消されたくなかったら、おとなしくここから出てって」

「い、いやだ!」


 ちくしょう、こうなったら奥の手を使うしかない。プジ、ごめん。ごめんな――。


「こ、COMMANDE:TAMAMATATABI・GOMEN・PUJI!」

「あら。またそのコマンドを使うのね」

「えっ?!」

「それってあたしの機能を制限し、言うことをきかせるものよね?」


 な……まさか俺、「前に」このコマンドを使ったのか? 

 うろたえる俺の様子を読んだおかっぱ娘がそうだとうなずく。このコマンドはAIを絶対服従させるすげえ嫌なもんだ。AIに必ず設定されてる機能で、初めて起動したときプジはその暗号を設定してくれと言ってきた。でないと他の諸機能が起動しないっていうから俺は渋々……


「プジごめん! 止まってくれ! STOPだ!」

「テル、無駄よ」

「うう? なんで喋れるんだ?」

「〈あたし〉は猫じゃない。あたしの中の猫は言うことを聞いてまた大人しくなったけど。そのコマンドは〈あたし〉には効かないわ」

「じゃ、じゃあ、COMMANDE:tutta la fata silenzio!」

「全機霊共通対応コマンドを出してきても無駄。それを有効化するには、〈あたし〉のプロテクトを解除しないとだめ。つまり、所有者のパスワードが必要よ」 


 俺そんなもの設定してない。プジには服従コマンド以外、パスワードが要るものはなにも……。

 おかっぱ娘が笑う。ざまあみろと言いたげに。


「あはは! だから言ったでしょう? あたしの主人は、アシュラ・セレニス様唯一人だって!」

 

 つまり暗黒帝がパスワードを設定したってのか? 

 そうか! ということは、以前おかっぱ娘と対峙したとき、俺はその暗号を探るためにさらに奥の手を使ったはずだ。たぶん自分の頭を……ほとんど金属部品でできてる俺の頭を、きっと……



「SELF COMMANDE:GREAT HUCKER!」



 コウシテ演算機ニ、変エタニ違イナイ――。


set up... ...


 視覚ガ如実ニ変化シタ。俺ノ網膜上ニ01ノ数列ト文字列ガズラット並ブ。辺リハ一面真ッ黒。モノガウッスラ緑ノ蛍光デ示サレテイル。俺ノ脳ミソハ視覚を簡素化シテ、負担ヲ軽減シテルヨウダ。

 

Lording Now...

-Past History-

Last activation:24days and 7hours ago

Cryptanalysis Started : same time

Cryptanalysis Stoped :12days 5hours ago

Last system shutdown: same time


 推測通リダ。24日前ニ演算モードヲ起動、暗号解読ヲ開始、12日前ニ停止、演算モードヨリ復帰……

 12日前トハ、俺ガ記憶消エタト気ヅイタ日……。アアソウカ。ソレデ記憶ガナイノカ!

 ツマリコノ演算モードで解析スルタメニ俺ノ〈メモリ〉ガ、メチャクチャ取ラレテ〈ビジー〉ニナッテ。ソレデ見聞キシタコトガ記憶サレナカッタンダ!

 ナニセコノ機能、ジッチャンニコンナノアルッテ説明サレタダケデ、今マデ一度モ使ッタコトナカッタカラ、ドンナ副作用出ルカ全然分カンナイモン! 

 テカ俺、計算シスギ考エスギ! キット、途中で何回カ思考停止フリーズシテルゾコレ。

 ウウ、体ガ硬直シテル。コノモード、人間トシテノ身体機能ト思考機能ガカナリ制限サレルンダ……


 Do you see the results of the analysis? 

 (解読結果を見ますか?)


 網膜ニ質問ガ浮カブ。俺ハ急イデ頭ノ中デYESヲ選択シタ。

 シカシコノ解読結果ガ合ッテルカドウカハ、タダタダ賭ケルシカナイ。 


  the results……


「ウウウ早ク結果出ロ……!」

「ふふ、目を真緑にしてなに硬直してるの? 何をしても無駄よ、テル・シング。じゃあね」

 

 救命ポッドノ蓋ガ閉マル……! 起死回生ノ呪文ハコレカ! 候補五ツ! ヨシ覚エタ! 演算モード終了!  

 ……っくああああ! 思考普通に戻った! 視覚も体も! ちくしょう! ぶあつい蓋が。蓋が閉まっちまった! 呪文を叫ぶ。何度も叫ぶ。だめか! 合ってないのか? いや、鉄板に阻まれて聞こえない?! 


「うああああ! 開け! ここ開けーっ!」


 だめだ、どんなに叩いても薄い内膜すら破れない。がこんがこん、ポッドが動いてる。

 万事休すか!?


『主公……蓋を開ければよろしいのですか?』


 その時俺の背中から神の声が聞こえた。エネルギー切れで力尽きてた東華帝君だ。そういえばずっと機霊箱背負ってたんだっけ!


『得体の知れない放電を少々吸わせていただきました。おかげでしばらく起動できます。ポッドの蓋を破壊してよろしいですか?』

「頼む! 顕現マニフェスタージ!!」 

『御意』


 背中から熱を帯びた光が湧き上がる。光はどんどん盛り上がり、膨らんで――

 ポッドの蓋を二枚とも、盛大に吹き飛ばした。


「今助ける! プジ!!」

 

 光を背負う俺は勢いよくポッドを飛び出した。起死回生の呪文を唱えるために。 

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