第1話 

ピコピコと動く画面の中の二つの点。

これがロボットの目になる。

ロボットの部品は全て街に落ちている廃材から集めてきた。

顔となる部分は誰かの家で使われていた型の古いパソコンだ。


やはり廃材だったからか画面の端の方が少し割れていて

電源が入ったはいいものの、不規則に画面は点いたり消えたりしていた。


『はじめまして。』


無機質な声が画面裏のスピーカーからながれる。

画面の中の二つの点は私がいる方向を向いていた。

人物がどこにいるのかを感知するためのセンサーと

画面に取り付けた内蔵カメラはきちんと作動しているらしい。


私はロボットが聞き取れるように少しだけ

ゆっくりとしたスピードで話しかける。


「はじめまして。」


長らく声を出していなかった喉は

からからに乾いていたことを知った。


ロボットはピコピコと瞬きをした後、

コンピューターの起動音にも似た音を出し

私の言葉を理解しているようだった。


まだまだ自然に話すことは難しいらしい。

もう少し調節をしなければいけない。


私がそう考えていると、

ロボットは言葉の理解を終えたらしい。


『私は、貴方をなんと呼べばいいですか。』


ロボットが出す言葉はすべて一定の音だった。

一定の音は人間の私にとって聞き取りづらい。

言語のイントネーションの調節もしたほうがいいらしい。


顎に手を置いて私は少し考え込んだ。

名前など何とでも呼んでくれてよかった。

このロボットを作ったのは私なのだから、

博士、父さん、マスター…

それとも自身の名前で呼ばれるか。


数分ほど考え込んで

私はロボットの問いに答えた。


「私のことは ”友人”と、呼んではくれないか?」


またもや機械的な音を出し

私の言葉を理解しようと、ロボットは何度も瞬きをする。


『わかりました。友人。』


このロボットは今日生まれたばかりの赤子同様だった。

人を認知するのも、言葉を理解するのも

遅いのは当たり前なのだ。


私は小さく微笑んでロボットの目が映る画面を撫でる。


「今日は起動できるかどうか、確認したかっただけなんだ。

もういいよ、ゆっくりおやすみ。」


そう言うと

ロボットは最後の言葉だけ読み取ったのか

『おやすみなさい、友人。』と言い残し、

画面を暗くしてスリープ状態へ入る。


ロボットが眠ったことを確認しながら

私は机にこのロボットの設計図と新しい紙を広げた。


何年もかけて作り上げたロボットは

試作段階でまだ完成はしていない。

今日起動させた時もいくつもの問題点が上がっている。


それなのに

私の体は喜びと興奮と期待で爆発しそうだった。


さっきの問題点を改善すると共に、

人間の感情の種類や色彩や音が分かるよう改良しようか。

腕は付けようか、足は付けようか、見た目はどうしようか。

記憶機能も搭載することにしよう。

私と何かをしたとき憶えられるように。


やることは山積みで、暫く使っていなかった頭は熱を出しそうだったが、

ペンを持つ手は次々と浮かんでくる案にきちんと付いてきている。


まるで少年時代に若返ったようだった。


私はこれから、

このロボットに多くのことを教えていくのだろう。

そして多くのことを学ばされるのだろう。

それは父でもなく、作り手だからでもなく、

たった一人の友人として。






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ロボットと私 @ishikoro_0

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