第22話 乙女たちの初戦ー下

 アヤナ達のいる所から少し離れた場所で、弓を持って、大木の森を駆け抜けている少女のような姿をしたおかっぱ頭が特徴のサクヤがいた。そして、突然、ピカッと光って、その後すぐに雷の音がした。落ちた場所の方からは火が上がり、燃えている。サクヤはその方向からアヤナの圧気を感じ取ることが出来た。

「アヤナちゃん!今行くよ!」

サクヤはスピードを上げ、アヤナがいるであろう火が上がっている方向に進んだ。

「何が起こったわけ?」

レナとエリが自分達の突き刺そうとしてきたので、殺気混じりに怒りをぶつけたら、一瞬辺りがピカッと明るくなったと思ったら、敵の二人はパタリと倒れ込み、さらに木々が燃え始めていた。そして、自分の体はビリビリと放電している。サエを見れば、意識が無いように見えたので駆けつける。

「サエ、しっかりして!何なのコレ?」

「あのぉー、あのアヤナちゃん!」

声がしたので後ろを振り向くとサクヤが立っていた。

「どうしてサクヤがここに?」

アヤナにそう言われたので、今までのいきさつを深刻そうに話し始める。

「教官と一緒にアヤナちゃん達を探しに来る途中にね、オロチに遭遇して。それでね・・・」

流れを一通り聞いたアヤナは敵と遭遇した時のオロチの教官クラスであろう不敵な笑みを浮かべている印象のある八薙について思い出す。

「何とか逃してもらったのね。サクヤ。それにしても水波教官でも、あの女に」

「このままじゃー。アヤナちゃん!」

「わかってる。その前にこれ」

倒れてる三人を見つめる。このままには出来ない。特にオロチの二人はどうにかしなければならない。目覚めればまた襲ってくることが予想される。

「このまま、殺すの?」

「それはサエを起こしてからにする」

そう決めたアヤナは敵が目覚めない内に先にサエを起こしいく。

「これに助けられたけど、私以外に何で。それにこのビリビリ感は一体?」

「アヤナちゃんの力だよ。解放されたの、雷の力が!」

「私がやったの?コレ。すごいじゃん!」

力が解放されたことにより、アヤナは亜人として一段階強くなったことになる。そして、この力をコントロール出来るようになれるかどうかがこれから問われてくる。すると、アヤナは自分の手を倒れているサエに近づけようとする。

「これで起きるかな?」

「琴吹さん驚くよ!」

「サエなら大丈夫!」

サクヤが困った表情でアヤナに忠告し、止めようとするがそれを聞かず、サエに触れるとビリッと電気が走る。サエの体はビクッと波打つように動くとサエは目を覚ました。

「空が見える。私はなぜ、倒れた?」

「ごめん。私の力が無意識にさぁー!」

アヤナが上からサエを覗き込む。こうなった原因は自分であるとサエの問いに悪びれた感じで答える。

「琴吹さん!」

「おかっぱが!・・・どういうこと?」

さらに、サクヤもサエを上から続けて、覗き込むとなぜサクヤがこんなところにいるのか不思議だった。そして、サクヤの名前を眼中に無く、うろ覚えだった為、外見のイメージのまま呼んだ。

「そのことも含めてさぁー、話しがしたいの!」

「それで?」

サエは上体を起こし、アヤナから話を聞く。アヤナはサエが倒れた後のことやサクヤがここにいる理由について説明を始めた。

「まさか。アヤナがもう力を、信じられない!しかも、気絶までさせられるなんて、一生の不覚!」

「一応はあんたと並んだことになるわね!」

アヤナは自慢げにサエに言ってみた。

「自分の物に出来なければ、意味ないし、変わらない。よって私には敵わない」

「気絶したくせに。強がり!」

両者、ライバル意識を燃やしていた。サエは落ち着いた表情をしているが、内心では自分が下だと思っていたアヤナにこの様な形で気絶させられるとは夢にも思わなかった。それにアヤナがここで亜人としての力をこのタイミングで解放するとは想像すらしていない。天才で無ければ、入隊後、しばらくしてから解放されるのが一般的だった。今期、自分以外天才に値するものはいないと思っていたが、それが目の前に現れてしまった。それによって今までに無かった張り合いというものがサエの中で芽生えた。そして、アヤナはというと、これまで見下され続けてきていて、模擬戦闘や稽古で負ける度に悔しいという気持ちを抱いていた。サエと出会ってから初めてのことだったかもしれない。元の世界ではほとんど敵なしだっただけに。それで、今回、無意識にしろ、自分の力によって気絶させたことで、アピールしようと自慢げに言ってみるが正論で否定され、また悔しい気持ちになってしまった。

「アヤナちゃん!敵が・・・」

サクヤの言葉でハッと我に返り、次はサクヤがなぜここに現れたのかついて説明を始めようとする。

「そうね。時間が無かった!」

「おかっぱがここにいる理由はおかっぱから聞きたい。状況がよくわかるから」

「あ、あのぉー。おかっぱじゃないの名前。木花サクヤって言うの!それでねぇー・・・」

それからサクヤの口からここに来るまでの出来事などを話す。オロチの隊長各と思われる女性と遭遇し、水波が行く手を阻止する為に戦い、終盤は激しい戦闘に突入するが、敵に力の差で押され、倒されてしまった。

「殺されたのか?」

サエは水波の生死を確かめる為に聞いた。生死によって今後の状況が変わってきてしまうからである。

「殺されてないと思う。私はその前に逃してもらったの。二人にこのことを知らせる為に」

「人質として連れていかれたのよ。きっと。あの男、聖斗と会ったのよね?」

聖斗たちとの遭遇が抜けていたので、アヤナが付け足す。その時のアヤナの表情は険しかった。この話をサクヤから聞かされた時は、自分が止めなければと思ってしまった。自分はかつて止められる側の人間だったが、この世界に来てから立場がひっくり返ってしまったのだから。

「止めようとしたけど、力不足で」

「奴らを止められるとすれば姫城教官ぐらいだ。いつまでもここにいるわけにはいかない!最悪、この島の神器が奪われるよ!その前にこいつらを・・・」

サエは視線をアヤナの雷の力で気絶したレナとエリに移す。

「どうする?このままにするわけにはいかないし」

「殺すのは無し。人質ならなくても情報ぐらいにはなるはず。今はとりあえず、二人の武器を取り上げる!」

「そうね!私が行く」

警戒しつつ、倒れている所のレナに近づく。まだ、動きそうな感じはしないが状況的に油断は出来ない。そして、倒れている近くにノコギリの武器が落ちていたので、音を出来るだけ立てないように拾おうとした。次の瞬間、今までピクリともしなかったレナが突然、アヤナに襲い掛かる。

「それは渡さない!」

取り上げようとしたレナの武器をさらに取り返されそうになり、レナにアタックし阻止しようとするアヤナだが、僅差でレナの手に戻ってしまった。

「大人しくしな!」

取り返した武器をアヤナに突きつける。

「しまった!」

レナはアヤナを逃げられないように捕まえて、首元にノコギリを近づける。そして、その流れを瞬時、予想したサエもとっさに立ち上がり、エリの武器を取り上げ、逆に人質し、まずは均衡状態にしようとする。しかし、気づいたエリも目を開き、起き上がり、サバイバルナイフの武器を奪われないようにサエの動きの流れを読んで、阻止しようとした。

「ちっ!なら・・・」

サエは急速に風を纏い、一気にエリを蹴り飛ばす。

「その前に先に動けばいいだけ!」

「ダメ。これは速い。今の私じゃーあ。ああっ!」

サエの風を纏っての蹴り飛ばしで後ろに飛んだエリを抑え込むためにすぐに落ちているサバイバルナイフを拾い上げ、エリの元へ行く。

「怪しい動きを見せれば・・・」

サエはサバイバルナイフに風を纏わせ、エリにそれを突きつけた。それが触れるだけで自分の皮膚が切れ、醜いものになることがエリは想像出来た。

「わかっているわ。大人しくする」

「おかっぱ!」

サエは珍しいことに声を張り上げ、サクヤを見た。そのサクヤはすでにレナに向けて弓矢を構えている。

「サクヤもやる時はやるのよ!」

「黙れ!」

レナはアヤナを黙らそうとする。

「あのぉー。アヤナちゃんを解放して。あなた達が詰んでいますよこの状況」

「だからと言って、放すわけがないでしょ!」

「サクヤ!」

「おかっぱ!」

アヤナとサエがサクヤのこの姿を見るのは初めてだった。こんなことが出来るタイプとは思っていなかったからだ。

「あなた達と違ってすぐに命を奪うことはしたくないの。まずは話しをしましょう!」

サクヤは話し合いを提案する。オロチの今回この様な襲撃をした理由を知りたかったからだ。

だからと言ってサクヤはレナに向けている弓矢を相手が武器を下げない限り緩めることはない。

「じゃあ。聞かせてもらえる。聖斗達のことを?」

「おかっぱ!敵に情報を渡すな!」

「待って!サエ」

敵の行動を敵にこんな状況で教えるのはありえないこと。しかし、アヤナはサクヤを様子を見てサエを止める。サエはアヤナを見つめた。

「ありがとう!アヤナちゃん」

「ねぇー。武器を下ろさない?落ち着いて話しが聞けないと思うのだけれど」

レナに武器を下ろすことを提案するアヤナ。自分が目の前の刃物から解放される為に言っているわけではない。両者武器を向けたままでは話し合いが進まないと思ったからだ。

「そんな罠で騙させると思っているのかしら?」

ノコギリの刃が首元にギリギリまで近づけるレナはさらに気を張ると共に、圧気も上げ、警戒する。サクヤも弓矢を放つギリギリの所で弓の弦を張った。

「サクヤ、大丈夫落ち着いて!だから、こうなるから言ってるわけ!」

「怪しい。敵にスキなど見せない!」

「相当、疑心暗鬼ね。気持ちはわからなくないけど、お互い決着をつけるにしてもこのままじゃあー、先に進めないわ」

疑っているレナに武器を近づけられながらも、説得を試みたアヤナ。

(こっちにいて本当に良かった!)

アヤナは向こう側の人間で無くて、良かったとこの二人の様子を見て改めて思うのだった。

「話しが終わるまで、そうする。良い?」

サエにサバイバルナイフを突きつけられ捕まっているエリに同意を求めると首を軽く縦に振り、頷いた。

「じゃあ、みんな、一斉に武器を下ろしてちょうだい!」

アヤナの言う通りに両者一斉に武器を一時的に下ろすが、どちらかが約束を破ればこの場にいる誰かが確実に死ぬことになることがこの場いる乙女たちには理解できた。

「サクヤ!話していいわよ!」

「うん!私達二人はあなた達の教官に追い詰められて、私は逃してもらえた」

レナとエリは表情をニヤッとさせる。

「お前たちじゃ、勝てるレベルの人ではない!あの人の力は恐ろしいの!」

レナが声高々に自慢する。それを見たサエは怒りを向け、殺気を出しそうになっていた。

「サエ!」

「わかっている!」

アヤナの言葉でサエは正気に戻った。サエがここまで感情を出すのは久しぶりだった。これにはアヤナも初めて見たので驚いている。

(サエがここまで感情を出すなんて、初めてみた!)

「それで、その前に二人組が私達を突破して、先に校舎の方向へ行ってしまったんだけれど・・・」

「セイト、ジン!」

それを聞いたエリが二人組の名を呟く。

「その二人、たぶん死んじゃうと思うよ!」

「そうね。あの人、敵に容赦ないと思うし、恐ろしいくらい強いから」

二人が強くても、姫城には敵わないと強調するアヤナ。

「そんなもので、私達を脅せるとでも?」

「脅しているつもりはないの。私達の提案を断るなら、あなた達二人の命が縮んでしまうの!」

サクヤを睨むを二人。強い殺気が注がれていたが、サクヤの表情は変わらない。

「何が言いたい?」

レナはサクヤの意図を聞きたかった。サクヤは言葉で否定しているが、これは誰がどう聞いても脅し言葉にしか聞こえなかった。オロチが脅す時に平気に使う手口なのだが、目の前のおかっぱで見た目が弱そうな人間が使ってきたので、言葉と見た目のギャップによる偏見でついイラッとして殺気を向けた。そして、殺気を向けられながらも、サクヤは怯えることなく、話しを続ける。

「余計に殺気立たせてしまうと思うけれど、武器を私達に渡して、投降してほしいの!」

サクヤはお願いという優しい言葉を使っているが、実質は延命か短命かの二択を迫ってきている。

「さぁー、どうする?」

(サクヤも以外に怖いわね!)

サエが追い打ちをかけるように、選択を迫る。アヤナはここサクヤの二人に対する脅しが始まってからここまで黙ってしまっていた。まさか、こんな言葉が優しい口調にしてもサクヤから出てくるとは今までは考えられなかった。

「二人で、話をさせてもらえないかしら?」

自分たちの身の振り方、この状況を切り抜け、これからどうするかをエリと相談したかった。選択肢など自分たちには一つしか無く、相談する必要などないが、あえて話をしたいと思ったからだ。

「うーん。それは申し訳ないけど認められないの!」

「当たり前!お前らオロチなど信用出来るわけがない。もう、時間は与えられない」

レナは表情を強ばらせ、黙ったまま。その様子を見たアヤナはレに捕まっている状態にもかかわらず口を開く。

「死にたくなければ、私も解放することね!殺しはしないから」

「お前っー!」

「レナ!ダメ。挑発よ。それと、どうするかはあなたに任せるわ」

アヤナは黙っていたが、ここで条件を追加し、畳み掛ける。そして、さらに動揺し焦る表情を見せるレナとエリ。

「もう、負けなの。だけど、これ以上言い訳して抵抗するなら・・・」

「アヤナちゃんの言う通り。まずは・・・」

そう言うと、サクヤはエリの方を見る。手には弓矢を持ったままである。

「鬼畜共がぁー!」

レナが声を荒げてアヤナ達に吠える。

「お前らテロリストに言われたくない」

サエが一言で言い返した。

「これがあなた達の返事ってことで良いの?」

サクヤはレナが言ったことが提案に対する返事なのか確認をする。レナは気づき声を荒げたことを後悔し、焦って、訂正する。

「違う。魔が差してしまった。それで、提案を受け入れる」

「さっきの威勢はどうしたのやら!」

サエが挑発するが、レナは我慢し殺気を向けて来ることはない。

「ありがとう。まずはアヤナちゃんを解放して」

アヤナからレナは離れた。

「琴吹さん。解放して?」

「なぜ?」

「サエ!そうしないとこいつらと同じになっちゃう」

この有利な状況でなぜ、敵を解放するか不思議に思ったがアヤナの言葉で納得する。サエはエリから離れる。すると、レナは突然、エリにノコギリの武器を持って駆け出す。

「そうくるか!」

「まずいじゃん!」

レナはエリを刺そうとしていたがそれを防ぐべく、サエがまずエリのサバイバルナイフを持ち、止めに入る。アヤナはエリを守る感じでいた。

「レナ!」

「こうなったらエリを殺して、あたしも死ぬしかない!」

「それはさせない!」

レナの武器とサエの武器がぶつかり、金属音が聞こえた。

「勝手に死なないで。どうするかは私達が決めるの」

サクヤはそう言いながらも、弓矢を構え再びレナに向ける。

「おかっぱ!私に当てるなよ」

「琴吹さん。そんなに下手じゃないよ!」

「あたし達をどうするつもり?」

レナが自分に弓矢を向けてきているサクヤに聞く。

「あなた達が怪しいことをしない限りはこちらからは何もしない。聞きたいことと・・・」

サクヤの話が止まる。代わりにサエが答える。

「おかっぱ。こんな奴らに遠慮する理由などない。お前ら二人は人質だ!さぁ、武器を足元に落として、離れろ」

「もしも、何かすれば?」

レナが後ろに引いて、武器を落とそうとする前に、聞いてみた。オロチなら言うまでもないこと。

「それはあなた達と同じはず」

言われた通り、ノコギリの武器を地面にポトッと落とし、そこから距離を取った。

「私が預かるわ!」

アヤナが拾いにいく。すると、サエが四人に声をかけ、リーダーシップをとろうとする。

「急いで引き返すよ!お前らもついてこい」

「あたし達は人質。逆らわないわ。エリもそうでしょ?」

「うん!」

そして、五人は水波を探すべく、校舎の方向に向かって、大木の森を移動し始めた。

「この強大な圧気は姫城教官なの?誰かと戦っているみたいね!」

亜人の脚力を持って、駆け足で移動していると、アヤナは突然、二つ大きな力を校舎の方から感じ取った。

『八薙教官!』

レナとエリは笑みを浮かべて八薙教官が向こうで戦っているということがわかった。

「水波教官!」

サクヤは水波を心配する。自分を逃した後、どうなってしまったのだろうかと、八薙が校舎にいるということはただでは済んでいないことがわかってしまった。

「急ぐよ!」

サエがそう言うと、さらにスピードを上げて、この大木の森を駆け抜けていく。その間も姫城と八薙の圧気の衝突を感じる五人が養兵所の校舎に向かって行った。

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