第21話 乙女たちの初戦ー上
聖斗達が先に行った後、乙女だけとなった大木の森の中のとある場所ですでに戦いが始まっていた。それも両者共に初めての実戦であった。実は実戦が初めてであるということはお互い知らないことである。
「お前たちはあたしらの餌食になってもらうわ!」
レナのセリフから始まる。レナとエリがやることはただ一つ、目の前にいる敵でたるアヤナとサエの息の根を止めるか又は動けないようにして、セイトとジンを追いかけることだった。レナ達としては息の根を止めて行きたい。それは、オロチとして初の実戦で敵を殺せないのは恥でしかないし、上官達に知られれば、さらなる矯正を受けるか悪ければ殺されてしまう可能性がある。
後者だけは絶対に避けたい。ここまで生き抜いてきた意味が無くなってしまう。
「二人は一旦、様子を見る感じよ。レナ!」
レナの後ろにいるエリはアヤナとサエの心を感じ取り、後方でレナに敵の動きを随時、伝えていた。
「どうかしらねぇー」
図星であるがそれをこの場で正直に認めるわけがないので、否定もせず、肯定もしないアヤナ。そして、片手に持っている両刃のノコギリ型の武器を振り回しながら襲いかかる。
「大人しく殺されて楽になりなさい!」
それをギリギリで回避したアヤナ。さっきからこのようなやり取りが続いていた。
「あっぶないー!それに、前の私みたいなこと言っちゃって!」
「武器相手に武器がないのは厳しい。どうする?」
「マジでピンチね!このままだと」
今、アヤナとサエには武器が無い。オロチが急襲してくるなど、一ミリも想像していなかったからだ。しかも、助けにくる気配が今の所、感じられないし、向こうも手がいっぱいなのだろうと想像するサエ。そして、アヤナは目の前敵の言うセリフに悪い意味で懐かしさを感じてしまった。
「命乞いの相談かしら?」
「あなた達は私達に合った時点で、死しか選択は残されてないよ!」
アヤナ達が話している様子だったので命乞いでもしているのかと不敵な笑みを浮かべて挑発してみる。続けて、後ろのエリも選択肢などないと否定し、動揺を誘おうとする。
「私も、前によくやってた。あの手口!」
「その話、興味深い。今度、聞かせてほしい!」
そして、目を合わせると、アヤナはエリに向かっていく。
「来る!」
「今度はないわ!」
エリは相手が攻撃を仕掛けてくると感じたので、すぐにそれをレナに知らせた。レナもその兆候、特に目の前の敵が会話の後に目を見合わせていたのを見たので、初動に遅れは取らない。アヤナはレナに対して、武器を持っている以上はまともには攻撃するのは危険なので、まずは下半身から圧気を纏いながら崩しに行くことに決めた。しかし、レナがすぐに武器を振り下ろしてくるのでとっさに後ろに引いた。
(やっぱり不利ね!)
一方、サエはアヤナがレナと対峙しているスキに後ろに控えているエリに近づき、攻撃を仕掛けようとする。そして、ここでサエは圧気の能力を発現させる。それは、聖斗と同じ”風の力”で、サエの方に風が吹いて、体に風を纏った。
「セイトと同じなんだー!」
エリがサエの力を見て、動揺する表情を見せることない。それは、聖斗で体感済みであるからだった。
「でも、セイトより弱そうな感じかな!それで、本気?」
サエの風の力の威力と聖斗の力を見比べてそう感じた。そして、実際にサエの攻撃はエリの予知能力”心感”で避けられていく。エリは新米のオロチの中でもこの力が群を抜いており、教官からも一目置かれている。
「さぁー!」
そう言うと、エリからサバイバルナイフがいきなりサエに向かって突き出してきた。一旦、後ろに引くと、アヤナもいた。
「今度はこっちから行こうかしら?グズグズ出来ないし!」
「長くなると、私達だけ置いていかれそう」
「エリの血、もらっていいかしら?」
その意味を理解したようで、エリは自らのサバイバルナイフの刃先を使って、腕に軽く刺すと血液が出てくる。サバイバルナイフにある程度着いた血液をレナのノコギリに垂らし、その着いたエリの血液をエリはベロでペロリと舐めた。
「何をするつもり?」
その様子を見ていたアヤナは企みを聞いてみた。
「そのうち身にしみてわかるわ!」
エリは不敵な笑みを浮かべて、言う。
「恐らく、あの女は強くなったかもしれない!厄介になった!」
(効き出す前にダメージを与えないと)
サエは唐突にレナに対して、風を纏い、今まで以上の威力を持って、攻撃を繰り出す。
「残念!遅いわ!」
レナはスッと攻撃を避けると、手に持っているノコギリで斬りつける。斬りつけられたサエは痛みを堪え、傷の所を手で抑える。そして、レナは片手に持つ、ノコギリを眺めた。
「血がない。深く入れたと思ったけど、うまくズラしたところかしら!」
予想がズレて、ノコギリには血液がついていなかった。
「サエッ!」
アヤナはサエのダメージを喰らい、それを堪えている姿を見るのは始めてだった。養兵所の准士達の中では自分の含めても一番強い実力があると今までサエを見てきて感じていたからである。
「次は逃さない!もたもたしてられないの!」
レナはそう言い、傷を抑えているサエの所に余裕のある表情でゆっくり近づいていく。
(まずい。サエが!)
その様子を見て、サエの所に行こうとするが、別の所からアヤナに向かって話かけてきた。
「私のこと、忘れないで欲しいな!」
エリがサバイバルナイフをアヤナに向かって、正確に振り回してくる。アヤナも一度はスレスレで回避し、自ら圧気の力で反撃しようとするが、軽々と避けられていく。攻撃の手応えがまるでなかった。さらにエリもそこにサバイバルナイフを振り回し攻撃を入れてくる。アヤナの避ける動きが正確に読まれ、ついに避けきれず、切られてしまう。
「このままじゃ。殺される!」
アヤナとサエには絶望に陥りつつある。その様子を見て、笑みを浮かべているレナとエリがいた。
「トドメと行こうかしら。エリ?」
「これで私達も脱皮よ!どっちから先にする?」
エリはアヤナとサエをどちらから先に殺ろうかという怖い相談をしていた。エリも樹海の頃と比べると、ある意味度胸もつき、見違えるようになった。あの矯正所で聖斗も含め,何かが変わってしまったということだけは言える。
「同時にどうかしら?」
「うん。どっちが先に息が止まるか、楽しみね!」
エリはアヤナを、レナはサエの目前にいて、今にも手にかけようとしている。
「最後に言うことは?命乞いでもいいし、泣き叫んでもいいわよ!」
「甘いよ。エリ!教官に怒られるわ!」
アヤナとサエに最後の情けをかけてあげた。それは敵の取り乱す行動を見てみたいからだった。
レナとしては教官の教えの通りに実行した方が良いと思ったからである。
「あんた達を見て、本当の意味でわからせてもらったわ。かつての自分の愚かさをね!」
「アヤナ!」
アヤナは元の世界でやってきたことの異常さが身にしみてわかった。しかし、以前においても人を手に掛けるようなことまではしなかった。そして、目の前に二人というよりオロチはその異常さを凌駕していた。
「もし、こいつらの所で目を覚ましていたら・・・」
この世界に来て、最初に目が覚めた場所がアマテラスではなくオロチだったしたら、恐らく今の自分はいないと思ってしまう。目の前の二人のように殺戮を楽しむような人間になっていたのだろうと想像してしまった。
「迷いの無い、あんた達以上の愚かなキチガイになっていたかもしれないわね!」
そのセリフを聞いていたサエは目を見開いて、アヤナを見ていた。
「私達以上?ふざけたことを!」
レナがサエの首にノコギリを突きつけた。
「だから、私を本当に怒らせない方がいいって意味!」
「もういい。エリ!」
アヤナのセリフを聞いて、キレてしまったレナはエリにこれ以上は減らず口しか聞けないから殺ってしまおうという意味で言った。そして、その瞬間、エリがアヤナの胸辺りを突き刺す手前でアヤナが放った一言。
「私を怒らせるなぁ。八つ裂きにするよ?」
その瞬間、辺りが時間が止まってしまったかのような感覚になる。それは、アヤナから放たれた殺気混じりの圧気だった。レナとサエはこの殺気に恐怖する。
「何よ。これは?」
「心臓が押しつぶされそうな感じ!」
エリはアヤナの殺気にあてられ、心臓が押しつぶされるほど苦しみに襲われる。
「こんなの教官の時、以来だわ!何でこんな女が」
「レナ。上!」
そして、さらに次の瞬間、レナ達の頭上が光ったと思ったら、レナもエリも目の前が真っ暗になり、意識を失った。その場で意識があったのは一人だけだった。
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