第20話 聖ノ島の攻防②

 聖斗とジンは大木の森を駆け抜けていた。しばらくして道が開けてくると、大きい広場に出た。ここは島の中心部で、周りは大木の森に囲まれ、向こうには校舎の様な建物が見えた。目的の場所は校舎の裏のその先にある。

「姿が見えないな。セイト?」

八薙と再び別れて、この中心部に近づくまでの間、強い圧気を感じていたのだが実際に森を抜け、養兵所のある中心部に来ても、どこにいるかすぐには把握出来ない。

「こんなに、圧気をむき出しにして。どこにいる?」

相手がこんなに圧気をむき出しにしているにもかかわらず聖斗もジンも具体的な居場所をなぜか特定出来なかった。

「どうする?」

ジンが聖斗に聞く。

「俺たちの様子を窺っているようだな。でも、出てこないんなら素通りさせてもらうか!」

「このまま大人しくしててもらえば、力も消耗しなくて済む!」

姿をすぐ見せず圧気を放ち、この先に行かせない為の脅しかもしれないと聖斗は思ったので、それならそれで勝手にやっていろということでジンもこの先が本番だと考えていたので、次の行動が決まった。

「あの建物の向こう側だ!」

「本来ならこんなところ破壊するところだがな!」

二人は校舎の裏側にいくため、校舎を駆け登って、越えようと速いスピードで動こうとしたら、校舎の中から人形の物体が目の前に現れ、行く手を遮ろうとしてくる。その人形は例の圧気を放出している存在そのものだった。

「やっぱり出てきたか。アマテラス!」

「・・・」

相手はこちらを見定めしているのか聖斗のセリフに無言の返事だったが少しして口を開く。

「当たり前だ。オロチの小童共よ!」

聖斗とジンはお互いの目を合わせると、それぞれ圧気を片腕に纏わせる。聖斗は風、ジンは熱を持って攻撃体勢に入ろうとしていた。それを様子を見ている姫城は動揺する表情を見せない。敵の力を冷静に見極めていた。

「怖くもなんともないってか?」

「今のでわかったが、貴様ら小童の力では我は殺せぬ。言っておくが我は自信過剰ではないぞ!」

そして、二人は同時に姫城に攻撃を繰り出す。

「どけっ!ババァ!」

「どくわけがあるまい。小童よ!ババァは余計だ!」

聖斗の汚い言葉に姫城は怒るわけでもなく、ただそれに対して正論を返した。姫城レベルではこのような精神攻撃などは通じない。さらに、二人の同時攻撃も簡単に弾くと、二人は一旦、距離を取った。

「男ということもあって、あの小娘共よりは力があるな!だが、我には通じぬ!」

姫城を改めて見ると、無傷の状態だった。まるで、オロチの教官達を相手にしているかのような感覚である。さっきまでの水波とは違う雰囲気を感じる。

「教官を相手にしているみたいだな。セイト?」

「殺れるスキがあるなら、やるだけだ。ダメなら振り切る」

聖斗が飛び出て、再び風を纏い手を鋭利な手の形にして、攻撃をする。風が手の回りを高速回転しているので、触れれば傷だらけになり、酷ければ触れたものがグチャグチャになってしまうこともありえる。姫城はその攻撃をスッと避けた。さらに二発目と三発目と続けて攻撃をセイトは繰り出すが軽々と避けていく。

「お前は東条と同じ感じがする。異質なニオイがな!」

アヤナが他の准士達とは違うと前から少し気づいていた。その感じが敵のセイトからも同じ感覚があったので聞くことにした。それに対して聖斗は意味深なことを言う。

「俺たちは、異質ってより異物だからな?」

「異物か!東条とお前には何か関係があるようだ!それに、他にも聞かせてもらわなければな」

「何をだ?」

姫城は自分の予想が正しいかどうかを確かめる為に、敵にあえて確認する。それに本土からの一報も気になっていた。

「小娘共しかいないこの島になぜ?お得意の殺戮か?それとも・・・」

「神器だ!後、それは余裕があればついでの話だ」

表情が厳しくなる姫城。それと共に圧気による威圧感が増していく。

「セイト。スキが無くなるぞ!」

「親切に教えているのに、その態度はひどいな!」

聖斗は敵に対して目的をわざわざ教えているのにそれは無いだろという意味で言った。そして、ジンは自分たちをナメてもらっていた方がチャンスが生まれるかも知れないから、挑発はあまりしない方が良いということだった。

「俺の本心さ!」

挑発であることを否定した聖斗。一方、姫城の様子は聖斗達をやりとりを厳しい視線で見ていた。

「視線が痛いな?」

「忘れていたわけじゃないぞ!」

姫城の方から歩きながら距離を詰め始める。聖斗達は当然、いつ攻撃を繰り出されてもいいように身構える。

「立場と状況がわかっていないようだな。貴様ら!貴様らは本土で何を企んでいる?」

今回のオロチの動きの核心に関わることについて姫城は問う。

「主力部隊が動いているらしいな。詳しくは知らないし、いづれわかることじゃないか!」

セイトが不敵な笑みを浮かべて答える。姫城は顔を上げ、月夜の夜空を見ながら考える。

(かなり深刻なことになっているかもしれんな。魔将クラスがおそらく・・・)

「貴様ら末端はわからぬかもしれんが、オロチはこの国で再び内戦を起こしたかも知れぬのだ。これがどれほど罪深いことか!」

姫城には本土で何が起こっているのか何となく見当がついているような口ぶりである。

「内戦。・・・結構なことじゃないか。オロチは混沌から始まる!」

「俺たちは、行き着く先まで行くのさ!」

ジンは平気な顔でそれを肯定し、セイトはどうなろうが最後まで止まらないということを言った。

その態度に姫城は相変わらずと思う。現役の時もテロリストオロチを相手にしてきて、こんな神経のネジ曲がった者ばかりだったのである程度慣れていた。ただ、聖斗の方はというと何か引っかかる感じがしたが今は気にしないことにした。

「貴様らオロチはキチガイばかりだな。さて、まだ知っていることを話してもらおうか?」

それを言った途端、押しつぶされそうな圧気による威圧感、さらに殺気がセイトとジンを襲ってくる。

「教官並の殺気だ。凄まじいな?」

「意識が飛んだら、確実に殺されるな。あのババァに!」

セイト達の視界から姫城が瞬間的に消えると、自分達の目の前に現れ、火の圧気を纏った足で二人共、大木の森の入り口にある大木まで蹴り飛ばされる。そして、間に合わず受け身は取れなかった。火の力を纏っていた為、聖斗は多少のダメージを喰らい、戦闘服の一部が燃えてしまう。一方ジンも喰らいはしたが熱と火の圧気を備わっていたので、軽く済んだ。

「これじゃーあ。先に行けそうにない。ジン、あれをやるぞ!」

「あれか。今はそれしかないか」

どこからか風が急に聖斗の周りに吹き込み、密集する。一方、となりに立っているジンからは勢いのある火が現れる。熱の力も加えているので通常の火の力よりも勢いが強力になっていた。

「小僧共は何かをしてくるようだ!圧気が高密になっておる」

聖斗に密集していた風が姫城に向けて強く吹き込んでいく。この風は常人が受ければ、ダメージを受けてしまうが姫城はもちろん微動だにしない。

「この次、辺りだろう!」

姫城は次が本番だと予想した。強い風は止まらず、イダに姫城に吹き込んでいる。すると、ジンが動きを見せる。炎に近いような勢いのある火を風の流れに一気に流し込む。

「なるほど!今の小娘達では受けきれぬな。だが、我はこの程度、経験済みだ!」

流し込んだことによって、火の旋風となり、速いスピードで姫城に襲いかかろうとしている。到達は目前だった。その時、姫城は剣を鞘から抜いて、片手で持つ。

「小童共にしてはここまでやるとはなぁー!」

剣を振り上げ、攻撃を目で捉え、そして振り下げると、聖斗とジン二人の融合技攻撃は、一振りできれいに一刀両断されてしまう。姫城は二人の後ろの森の中を見つめていた。

「こうなったら、逃げ切って合流するしかないな。セイト?」

「今の俺たちじゃーあ、あのババァには傷一つつけられない」

そう言っていると、姫城が瞬間的な速度で目の前に近づいて、二人に剣を向ける。

「貴様らの相手はもう終わりにする。後ろの先へ行かなければならないようだ!」

後ろと言ってきたので、二人は後ろの方を感じ取ると、ニヤッとした。

「あの水女はもう、終わりだっ!あの人には敵わない」

「だから、その前に貴様らをここで終わりにする」

姫城の剣から勢いよく火が出ると同時に圧気も急激に上昇し、辺りを瞬間的に飲み込み支配する。聖斗とジンの圧気も抵抗できずに飲み込まれてしまう。それにより、その場から逃げることもましてや動くことさえも出来なくなってしまっていた。そして、剣の火の勢いは圧縮されて、落ち着いていくが、触れればただでは済まない。最悪、死ぬだろうと二人はその様子を見て悟ってしまった。

「命令を果たせないまま、殺される。なら、わかっているな。セイト?」

「自爆か!こんなババァに負けて・・・」

少し青白い火を纏った剣を二人に向ける。

「これが貴様らも小娘達も到達していない亜人上位の力だ!我の力は炎。それに、オロチのお得意の自爆も考えているようだが、その前に貴様らを焼却する」

試しに姫城は二人の後ろの方にはいていた少し太めの木に向けて、横振りで火の斬撃を飛ばすと当たった木はあっという間に燃え、一分足らずで黒焦げになってしまった。それを振り向いて見た二人は一瞬硬直してしまう。こんな恐怖と絶望は矯正所以来のことだった。

「こんな所で死んでたまるかよ!冗談じゃねぇー。でも、死が逃れられないならやってやるよ!」

「セイト!」

聖斗は怒りと殺気、さらに無念という感情を向ける。二人の圧気が爆発的に上がっていく。

「これは!」

爆発的に跳ね上がった二人の圧気の様子を見て、感じた姫城は一気に二人に向けて剣を振り下ろし、終わらせようとする。

「ふふ、二人を殺さないでくれるかしら。マキちゃん!」

振り下ろした剣は針のような槍で止められていた。その衝撃で火の粉が飛び散り、辺りが燃える。

「やはり、貴様か!八薙」

「ふふ、あの時、以来だわ!それと、後ろに誰がいると思う?」

姫城は八薙の後ろの方をよく見ると、人が倒れていた。

「水波!八薙、貴様っー?」

すごい勢いで姫城は八薙を睨む。八薙に対する威圧が尋常では無かった。二人の様子を見れば、すでに気絶している。剣を止めた衝撃が飛び散り、その際に体が耐えられなくなってしまったからだった。

「まだ、殺していないわ。さて、どうしようかしらねぇー?」

「我も貴様に吐いてもらうことがある!」

八薙は笑みを浮かべ一方、姫城は鋭い睨みでお互いを威圧し、そして、一瞬の静寂の後、両者の力が久しぶりに衝突するのだった。

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