第3話 得体の知れぬ力
今日の夜は二人にとって今までにないほど、長く感じていた。こんなことがあったであろうかと記憶を探ってみたものの、思い当たらなかった。夜は時間と共にさらに深くなっている。そして公安を名乗る男はアヤナと聖斗の闘いの中に入り、それを止めた。あの闘いは普通の人間の闘いではなかった。常人が巻き込まれればただでは済まなかったであろう。アヤナと聖斗はもはや、一般人と呼ばれる存在ではなくなってしまった。それは両者共、いやアヤナは前から薄々気づき始めていたが、聖斗は闘いにおいてその自覚があまりなく違和感はあったものの、公安の男に自分の力について言われるまではっきりと気づくことが出来なかった。
「まぁ、とにかく君達は一応監視対象になってるわけで、これからよろしく頼む」
「俺たちの力ってやつの説明がされてないんですけど、結局は」
「あたしたちって、ようは超能力者みたいなものなの?国家機密になっちゃってるわけ」
男は二人の力についてほとんど話していないことに聖斗は納得していない。それに早く解放してほしいというのが本音のところである。公安がこの力を認識しているということ、しかも世間には公表していないとなるとこれは国家機密なのではないかと思うようになってきた。おまけに“監視対象”なのだと言われればなおさらだ。
「君の言う通り、国家機密だよ。それにこの力については超能力だと思ってくれてかまわない。この力そのものは場合によっては、一般に言われているスプーン曲げなどとは比べものにならないものだと理解して欲しい。これ以上は・・・・。あっ、それに俺の名前をおしえないといけないな。片桐レイジだ」
男は“片桐レイジ”と名乗った。しかし二人はまだ納得などはしていなかった。わかったことと言えばこれまでの普通の生活が送ることが出来なくなってしまうのではないかという不安だけである。特にアヤナは高校生である。アヤナの場合、普通の高校生活を送っているかといえば疑問があるが。そのアヤナが口を開いた。
「肝心なことをまだ言ってませんよね。あたしたちが中心って?」
「お前は自分の力に気づいていたんだよな?それでさっきの連中とつるんで悪さもやっていたみたいだけど。」
聖斗が口を挟んできた。片桐から話を聞く前にアヤナ本人にも話を聞いておきたかった。
アヤナは自分よりも随分前からその力を使っていたみたいである。アヤナは目を逸らしながら喋った。
「気づいたのは一年ぐらい前。たまたまでそしていろいろあって、あいつらとつるむようになって、さっきお前にやったようなことをやってきたわけ」
「君の行動は前からある程度こちらで把握していた。本来なら・・・。しかし、君の力を認識してしまった以上は通常の対応をとるわけにはいかなくて。君や君達を放置する結果になってしまったが」
「いつも誰かに見られているような気かしたけど、ストーカされてたわけ。怖い」
「君が力を使ってあんなことをよくやっていたからだ。おとなしくしていれば四六時中見張ることもなかったんだ」
「お前の方がよっぽど怖いことしてたよな。さっきまで」
「同感だな」
「そっちがむきになるから。ああなったわけ」
アヤナは聖斗がおとなしくしていれば、あそこまでやらなかった。グループの行動を止めていたと言いたいようである。さらにつけ加えて聖斗に言う。
「だいたい電車の時のバイブ音がうっさかったのが悪い。イライラしたんだから」
「そのバイブ音であそこまでやるのは、問題だよ。第三者からして君達がやっぱり悪い。それに君はリーダーみたいだから、代表してケジメをつけようか」
「わかりました。やりすぎました。ごめんなさい」
「許すかわりに、あいつらとは付き合うな。それで終わりだ」
聖斗はアヤナを見つめながら、真剣な表情でいった。言われた本人は目線を逸らした。
「うん。わかったわ」
「さて、君がいった肝心なことだが・・・・」
一区切りついたところで。片桐がアヤナの後に喋り始めた。二人はまだ肝心なことを聞いていないのだ。そして話によれば、アヤナが覚醒し、力を使い始めたことにより“ある者”に感知されてこちら側に入り込まれて、さらに今日、聖斗に覚醒の兆候が表れたことにより“ある者”がこちらに入ってきて、調査しにきたようなのであるということ。さらに二人が力を行使してぶつかったことで、ターゲットにされてしまう可能性が高いと判断しこれ以上力を使わせない為に、遠くから監視していたが急きょ止めに入った。
「やっぱりストーカじゃん。ていうか、こちら側とかある者ってそもそも何なの?」
アヤナはアヤナは片桐に対して敬語を使っていたが、話を聞いている内にやっぱりストーカだと思い、いつの間にか、ため口になっていた。
直後、バイブレーションが鳴り出した。テンポの速いバイブレーションで・・・
ブゥーブゥーブゥーブゥー・・・・・
「あたしじゃない」「俺でもない」「俺だ」
片桐の携帯のようだ。携帯を取り出し、電話にでた。携帯は今時のスマートフォンではなくPHSのようだ。
「もしもし、俺だ。何か変化があったか?」
「それが・・・・・」
電話相手がちょっと間を置いて、片桐に告げる。相手は片桐の同僚であるようだ。
「奴らがそちらに。もう間にあわないかもしれません」
片桐の顔は険しくなり、瞬時に周囲を警戒した。睨みによる圧迫により周囲が緊張した。アヤナと聖斗も唾が飲み込めなくなってしまった。二人の力に比べれば、片桐の力はさらに上をいっている。片桐は睨みなるもので周囲を威嚇している。
(あまり長くやらない方がいいな。今の二人では耐えられないからな)
「手が離せなくなるだろうから、一旦切るぞ」
そう言って、電話を切る。二人を見ると、固まってしまっている。無理もないことである。
「来たようだな。早く出てこい」
片桐は大きな声で叫んでみる。相手の出方を伺っているからである。向こうからも圧迫が襲ってきた。片桐はかわせるが二人は限界かもしれないと感じた。そして、奴らは片桐達の前に現れた。片桐は上を見上げると人が電柱の天辺に立っていた。
「何しに来た。お仲間なら返すことは出来ないが、それともこの二人か?」
「・・・・」
「アニメ見ているみたいだな」
「誰なの」
緊張感の中、聖斗はのんきなことをいっている。二人組みは片桐の聞いていることに答えず無言である。片桐は二人組みのことを何か知っているようだ。
「仲間を返してもらいたいのは、もちろんだが、それより後ろの二人が気になるな。連れていくよ」
「うん」
謎の二人組みは声からして男子と女子である。フードを被っていて顔はよくわからない。ただわかることは、聖斗とアヤナより年下、小学生か中学生ぐらいだろうか。しかし、話しを聞くと、大人ような雰囲気を持っているのが伝わってくる。そして、話しているのは男子の方で、うなずいたのは女子である。
「子供なわけ。とんでもない感じがするんだけど」
「あまくみたらいけない。見た目は子供みたいだが、中身は違うんだ」
「どういうことですか。某マンガですか?」
「あれ昔見てたわ。最近はみないけど」
「緊張感ないな君たち。ちなみに“あれ”とは?」
片桐は“あれ”についてアヤナに聞いた。子供と思われる二人組はこちらを見つめている。何をしゃべっているんだ?というような不思議な表情をしていた。
「なるほど。それに近い」
「っことは、ただのガキってわけじゃないわけか」
「これから、あたしたちをさらうっていってるけど、犯罪じゃない」
「あいつらにここの法律は通用しないんだよ。なぜなら・・・」
とその時、二人組の男子が瞬間的に距離を縮めきた。三人の後ろに回り込み、手刀を首にあてられた。あてられたのは片桐だった。片桐は立っている態勢を崩し、倒れこんだ。
「と・に・か・く逃げるんだ」
片桐はギリギリ意識を保っていたが、時間の問題である。聖斗とアヤナを見上げて“逃げろ”と言っている。二人の力では確実にヤラレル可能性があるからだ。
「しっかりしろよ。俺たちで逃げ切れるのかよ」
「ただの手刀じゃないみたい。単なる手刀だったら倒れるわけないから。私たちみたいな力をもってるし、使いこなせてる」
アヤナはこの未知の恐怖の中、相手の力を分析しているようだ。
「どうするんだよ?」
「あたしとやった時の勢いはどうしたの?それに男でしょ?あたしだって怖いんだから」
気付くと相手の男子は女子の隣に戻っていた。こちらの様子を見ている。片桐はついに意識を失った。二人の動揺がさらに増して、表情が固まってしまっている。
「逃げるか、戦うか」
「逃げても追いつかれるだろうし、二人でやってもどうなるか・・・最悪死ぬかも」
聖斗は「嘘だろ?」と心で思った。それが、表情にも表れていた。それにアヤナは見てくれはギャルだが、以外に分析力があるというか、頭が良いようだ。少し前に不良達といた時の無茶苦茶な感じとは違っていると思った。
「私たちの持っている力で思い切ってやるしか、ここを切り抜けられない」
「片桐って人はこんなんだから、頼れねぇーし。やっぱ怖ぇーけど覚悟するしかないよな」
そして、聖斗はスーツのジャケットを脱ぎ、アヤナも制服の上着を脱いだ。ちなみにアヤナの通う高校の制服はセーラー服ではない。
「僕たちとやるつもり?」
「やめたほうが良いよ。勝てないから」
余裕な表情で二人にいった。負けるわけがないといったところだろうか?
「まぁーいいけど。かかってきていいよ。」
「うん。力の差がわかっちゃって泣いちゃうかも」
「ふざけたこといってんじゃねぇー」
聖斗が女子の言ったことを聞いて、イライラし始めた。と、同時に睨みなる力を発動した。それをとなりで感じたアヤナは聖斗を抑えようとした。アヤナにはわかっていたからだ。
「挑発に乗らない。乗らないで。子供なんだから」
「危ねぇー」
アヤナの言葉を聞いて、聖斗の睨みなる力が少し安定した。
「そこの派手なおねぇさん、子供じゃないよ」
「!」
「片桐さんのいったことは本当なのか?」
男の子が子供であることを否定した。片桐の言ったことは本当のようである。でも、どう見ても姿は子供にしか見えない。
「そうだよ。そこのおじさんの言うとおり。でも、これ以上のことは言うつもりはないよ」
「うん、知らなくていいこと」
「でも、知りたいなら、大人しく僕たちに連れていかれて」
二人組は詳しいことは教えるつもりはないようである。しかし、どうしても知りたいなら拉致を受け入れろということだろう。先手必勝、アヤナから攻撃をした。攻撃した相手は
男の子の方である。足を崩そうとした。だが、わかっていたのでかわされる。アヤナは睨みなる力を発動している。聖斗より強い感じである。
「それじゃ、僕を倒せないけど」
アヤナは男の子を睨んでいる。
「この力の本来の使い方を見せてあげるよ」
男の子から圧迫感が放たれた。・・・
「どうしよう。強い」
男の子はアヤナの方に近づいてくる。アヤナは動けないでいた。隣の聖斗も同じでいるが、何とか動こうともがいている。
「あんたじゃ無理でしょ」
「でもよー」
アヤナは睨みなる力を高めている。
「その力の使い方、少しはわかっているみたいだね」
「まぁーね。まだ、何となくやっているけど」
「でも無駄だよ」
アヤナは吹き飛ばされた。男の子の睨みなる力である。聖斗の後ろの方まで行ってしまった。吹き飛ばされ倒れてしまったので足を擦り剝いている。聖斗はアヤナに駆け寄ろうとしたがもう一人の女の子に阻まれた。聖斗からすればいつの間に動いたかである。
「うん、ダメだよ」
「どけよ」
「擦り剝いただけ。平気よ」
「うん、今度は私ね」
女の子が攻撃を仕掛けようとしている。目を一瞬瞬いた。腹に正拳をくらってしまった。聖斗は腹を手で押さえた。痛みに耐えられず、しゃがんだ。
「やりすぎないでよ。死んじゃうから」
「うん、わかってる。でも、男なの?弱すぎかも」
ドクン・・ドックン・・・ドクン
「あぁー、何だって?」
ここにいる人間に心臓音のような音が聞こえたような気がした。アヤナは気づき、聖斗を見た。
「彼の気配が変わったね。まさか・・・」
「あれー、傷ついちゃった。あなた、弱いんだもの」
「それじゃねぇー」
男の子の方は何かを予感しているのだろうか。そして、女の子は聖斗をナメテいる様子で弱いと言った。しかし、聖斗が声を荒げたのはそれが理由ではないと否定した。
「俺に男か?って言ったことだよ」
「うん、それなの。だって、弱いのに男かなぁーって思ったから」
突如、夜の遅い人気のない道に強い風が吹き抜けた。
ビュュューン
アヤナが目を見開くと、聖斗は、体中に風を纏っている。二人組は驚きの表情をしている。
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