第4話 異世界の存在

 聖斗は女の子に男なのか、疑問を持たれそして“よわい”と言われ続け、何かがプチンとキレテしまったようだ。その瞬間、強い風が道を吹き抜け、聖斗は風そのものを纏っている。それを見た得体の知れない、子供の姿をした子供の雰囲気でない二人組の反応はというと。

「まさか、この世界で覚醒するものがいるとは予想外だよ」

「うん、信じられない」

「あんたこれ?」

怒っていた聖斗はアヤナに見つめられていることに気づいた。

「ん?」

「気づいてないわけ?」

アヤナに言われ、自分をよく見てみると、自分の周りで風が回っていることに気づいた。

「どうなってんだ?俺のところに風が」

「まだ、わかっていないみたいだね」

男の子が言った“まだ、わかっていない”という言葉が気になるところだが、聖斗の周りに集まっている風とはいったい何なのか?二人組はどうやら、この不思議な現象について知っているようなそぶりである。この強い風のおかげで聖斗達が立っている道端はごみなどで散らかってしまっている。

「もう、終わりにしないとね。時間の無駄だ」

男の子は不思議な力を出そうとしている。その為、着ていたコートを脱いだ。すると鎧を体に装着しているようである。

「僕の力を見せよう。力はこうゆう風に使うのさ」

男の子がそう言うと、周囲の空気が重たくなってきた。聖斗やアヤナの時とは、明らかに違う差である。そして、男の子は目を閉じ、手を振りかざし、目を開いた。その時・・・

聖斗を見ると、頭を抱え始めた。聖斗に何か起こっているようだ。

「何、どうしたの?」

アヤナがそれを見て、聖斗に聞いた。聖斗は苦しい表情をしながら答えた。

「あいつが目を閉じて、開いたら、頭の中に妙な音が聞こえてきて、耳をふさいでも鳴り止まないんだ」

男の子は手を振りかざした状態で聖斗に言う。

「君には音に聞こえるかもしれないが、正確に言うとね。念波を送っているんだよ」

聖斗は男の子に殴りかかろうとするが、かわされ腕を掴まれてしまう。

「くっそー。当たらねぇー」

男の子に暴れて抵抗してみるが、抑えこまれてしまう。

「こいつー」

そして、男の子は聖斗の頭に手を置く。

「やめろ。何、するつもりだ?」

「君の力じゃぁ、僕には勝てない。今、楽にしてあげるよ」

「殺すつもりなの?」

アヤナは緊張している状態で男の子に聞いた。

「まさか」

男の子が聖斗の頭に手を置いた、数十秒後、聖斗を纏っていた風は消えていき、そして聖斗は体全体の力が抜け、気絶してしまった。

「気絶させられたの?」

気絶させられた聖斗を見て、アヤナは焦る。片桐も聖斗も倒れて、一人になってしまい、絶対絶命である。このままでは確実にアヤナはやられるだろう。それをわかっているから、アヤナは焦っているのだ。

「あぁ・・・。しまった、油断してたな」

後ろから声が聞こえてきた。アヤナは後ろを振り返ると、片桐が目を覚ましていた。

「はぁー、良かった。大丈夫なの?」

「済まなかったね。もう、大丈夫だ。がんばってくれたみたいだね」

気絶していたはずの片桐は目を覚まし、立ち上がり、アヤナと倒れた聖斗を守るかのように前にでた。聖斗が向こうに捕まっていることにすぐ気づいた。

「まずい」

片桐がそう言うと、空気が変わった。睨みの力を使い、二人組に圧力をかけた。二人組の力より明らかに上であることを二人組は感じ取った。アヤナも力を感じ、びっくりである。

「早く彼を返してもらおうか。俺が本気になったら、ただじゃ、済まないことはわかるよね」

「・・・・」

二人組は黙っている。片桐がはったりで言っているのではないことを理解しているからである。片桐が出した力そのもので。

「ねぇー、ミウ?」

「うん」

男の子はミウと呼ばれた女の子に声をかけた。ミウは男の子が言いたいことが何となくわかっていた。ミウも片桐の力量を感じとっていた。

「ここまでにしよう」

「うん、わかった」


ガサ ガサ ガサ


ミウは着ているコートの内側から何かを取り出した。よく見ると端末である。片桐はミウが持つ端末を見て、理解したようである。

(あいつら、まさか)

「逃がさないよ。聞きたいことがまだあるからねぇ」

「逃げるって、どこに?・・・」

片桐はすぐさま、気合を上げて、そして男の子達と距離を詰めた。攻撃を仕掛けたが男の子に受け止められる。しかし、さっきの聖斗達とは違い苦しい様子である。ミウは取り出した端末を操作する。すると、二人組の空間が歪み始めた。

「うそ、何これ?」

アヤナの前でさらに信じられないことが起こっている。今さらながら、アヤナの理解を超えている状況である。少しずつ、二人組の姿が足元から無くなり始めている。

「そいつを抱えて」

ミウはうなずき、聖斗を抱える。抱えられた、聖斗も歪み始めた。アヤナは立ったまま、何も出来ないでいる。これが力の差なのであろう。アヤナはそれを心の中で痛感している。

「僕達の役目はここまで。さよなら」

歪みのスピードが上がり、ミウと聖斗があっという間に消えてしまった。片桐の攻撃は歪みが始まったことにより、無効かされてしまった。男の子は顔だけが残っている状態である。片桐もこうなってしまっては、見つめることしが出来なくなぅてしまった。

「くそ」

そして、男の子の姿も消え、完全にそこからいなくなってしまった。



片桐は、いつまでも自分の力不足だったことを後悔せず、次をどう動くか、考えていた。それは、長く続くことはなく、携帯を取り出した。ちなみにスマートフォンではない。

片桐は、誰かと連絡を取っているようだ。そこにいるアヤナはただ見ているだけになっている。

「ああ、そうゆうことだ。頼む!」

そう言って、電話を切る。携帯をズボンのポケットにしまって、アヤナの方に振り向いた。

「待たせて、悪かったね!さっきの続きになるけど君に話さなければならない」

「あいつらは誰で、あいつはどこに連れ去られたわけなの?」

「さっきもいったが、これは国家機密だ。口外してはならない。いいね?」

アヤナに国家機密であることに念を押した。それに先ほどの出来事も含まれている。片桐からはそんな感じが伝わってきた。

「・・・うん」

今までの生活にもう、戻れないであろうことに思いをめぐらせ、“コクリ”と頭を縦に振った。片桐はアヤナの覚悟を確認して、今までのことを、語り始めた。


「感じていたかも知れないがあの二人はねぇ、この世界の人間じゃない。異世界人だ!異世界はオカルトの話じゃないんだ。政府はすでに把握し、調査してきた・・・」

その後も片桐の話は続いた。二人組の力、そしてアヤナと聖斗が使っていた力は向こうの世界が発祥であるようだ。それは、“気”のカテゴリーに入り、この世界で言われている“気”とは中国大陸では歴史のある気功法があるがそれとはスケールや概念が違う。さっきの襲撃を見ればわかることであるが。

「さっき、仲間を捕まえているっていってたけど」

アヤナは思い出したかのように突然聞いた。

「本当だよ。番記者に嗅ぎつけられないように極秘に拘束してある」

「だから、あいつらは仲間を取り返しに」

「君達の力に気づいて、そのついでに連れていこうとしたようだ。俺の失態だ。危険に巻き込んで済まない」

片桐は少しうつむいた。

「で、これからどうするの。あたしは?」

「・・・上に報告しなければ。それから、対応が決まってくる。公務員の俺が言うのもあれだが、決まるのが時間かかるからな。本当に厄介だ!」

片桐は愚痴をこぼす。公務員としてこれを言うのは問題だろう。しかし、これが現実なのだから。結果、今まで対応の遅さが後手になってしまったことがいくつもある。人命を失ったことも・・・・

アヤナはこれを見て、公務員は大変そうで自分はなれないなと思った。片桐はそう言って、視線をアヤナに戻した。

「それに、君の行動で変わってくる場合もありえる。彼についてはこちらでどうにかする。実際、国民が拉致されているからね。踏み込むことになるだろう?」

“踏み込む”とは何をするのであろうか?気になるところである。政府上層部はどこまで、向こうの情報をつかんでいるのだろうか。いづれにしても、アヤナは向こうと深く関わっていくことになるのだろう。それに、向こうにも恐らく、“ロックオン”されている可能性が高い。そして、片桐は今更なことを言う。

「君は、確か東条アヤナさんで間違ってないかな?」

「今、言います?」

「暇が無かったじゃないか」

「まぁ」

アヤナは今さら聞くか?と思い、それを言ったが片桐は暇が無かったと言われて納得した。

すると、片桐は腕時計を見て、驚いていた。

「こんな時間か!高校生である君が外を出歩いているのは問題なんだ」

「いつも、こんな感じだけど」

「はぁー、今日はとにかく帰るんだ。良いね?」

片桐はため息を吐いた。アヤナの一言を聞いて、こりゃーこれから大変だなと思った。

「わかりましたよ」

「それと、携帯の番号を教えてくれるかな。すぐに連絡を取れるようにしておきたい」

二人は番号を交換した。片桐が自分の番号を教えたのは、アヤナに何かあったときの為だということである。

「別れる前に忠告しておく。君はすぐに、大きな決断をすることになるだろう。その決断によっては君の全てが大きく変わることになる。さっきも言おうとしたが、君は君自身と向き合わなければならない。今までのことを含めて。それだけだ、じゃあ」

片桐はアヤナの目みながら言った。その、アヤナは目を下にそらせた。いろいろなことが頭に浮かんできたのだろう。そして、片桐はそれ以上を言わず、その場を去った。立ってぼぉーっとしていたアヤナはしばらくして、人気の無い道を歩きだした。時間はちょうど日付が変わった頃だった。

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