第17話

 皇帝さんに気を取られて、思わず反撃されたら熊さんにしちゃったみたいに、オート・プリティーヘルリビジョン(日本語訳、思わず殺す)が繰り出されちゃうっ!

 と、止まって! 私の腕!

 こんな、無意識でやったら皇子さんの頭が私の握力で粉々になっちゃうよぉー!

 駄目っ、止まらないっ!


「はぁっ!」


 はぁ……。危ない……。

 何とか私の拳は、反撃しようとした皇子さんの二ミリ横にずれて地面を粉砕させていた。

 よ、良かった……。皇子さんに怪我はないみたい。

 ふぇぇ……。怖かったよぉ。怖くて、泣きそうになっちゃう。女の子だもん。


「勝負有りましたな」


 何とか地面で止まってくれた拳さんを引き上げながら、私は皇子さんからそっと離れた。

 やだ。まだ足がブルブルしちゃってる……。力の制御が上手くいかないから歩くたびに地面割っちゃうよぉ。

 

「軍神貴様っ! 次期皇帝陛下になんたる無礼をっ!」


 きゃっ! 行成、大臣さんが私の肩を掴んでくる。

 もう。乱暴しないでよ。大臣さんの顔面が地面みたいに割れちゃうところだったんだよ? 気を付けて欲しいな。


「無礼?」

「次期皇帝陛下に土を付けるなどっ! この無礼は命を持って……痛っ!!」

「無礼は貴殿の方ではないか?」


 私は、触られた手を払い落として大臣さんを睨みつける。

 二重! 二重意識っ! 私の顔、怖くないもん。少しでも迫力が乗せなきゃ……っ!


「貴殿は、皇子をなんたる方だと心得ておるのかっ!!」

「ひぃっ!」


 可愛い悲鳴をあげても、許さないんだからっ!


「貴殿は、皇子を勝たせよと申すのか。この無礼者がっ! 強き方にする手加減など、真の無礼以外何者でもないっ! 強き方ならば、その強さを認め自身の持てる限りの力でぶつかるのが真の武道っ! その武道を曲げる者が何の強さを持ってして誰が付いて来られるのかっ!! 貴殿は皇子の強さを認めっ、負けを称えっ、肩を貸すのが真の家臣としての役割であろうっ! 土をつくほどの戦いをされた皇子を、侮辱する事はこの軍神白剛が許さぬっ!!」


 私はただの女子高生だけど、それぐらい魂で分かるよ!


「しかし、このお方は……っ!」

「もう良い。下がれ」


 私が大臣さんに言い返す前に、皇子さんが土を払いながら大臣さんを止めてくれた。

 やだ、優しい……っ!

 これ以上我儘言うおじさんは、女子高生パンチをお見舞いしなきゃいけないのかなって思ってたのに。


「邪魔をしたな」

「邪魔ですと? まさか。私も貴殿の武道への真っ直ぐな姿勢に気付かされることが出来ました。また、よければお相手を。ただ、私では力不足になってしまうかもしれませぬが……」


 剣の腕はどう考えても私の方が格下だもん。剣の稽古相手には向いてないって、皇子さんも思ってるはず。

 私が剣士女子高生だったら、良かったんだけどなぁ……。


「ふっ。今の俺にとっては嫌味だな」


 そう笑うと、皇子様は家臣達を引き連れて帰っていく。

 えっー!?

 嫌味じゃないのにぃ! ちょっと言葉足らずだったのかな?

 んー。もっとフレンドリーに……、例えば……。


 今日はお相手ありがぴょん(ウサギ)

 皇子さんめっちゃ強くて、軍神困っちゃいました(笑顔、汗)

 剣は滅茶苦茶下手な私だけど(困り顔)、良かったらまたお相手して下さいね(ハートハート)

 待ってまーす(キラキラ)

 

 ズッ友だよ!(スタンプ)


 ラインなら絵文字やスタンプを交えてこんな風にお話し出来たのに。

 皇子さん、ラインやってないかな……?

 あ、でも私トラックに轢かれた拍子に携帯落としちゃったし、んー。

 だとすると、スモール信号で……。

 そんな事をウジウジ考えていると、皇子さんが引き連れて来た人の最後の人と目が合ってしまう。

 あれ?


「香奏……?」


 なんで、香奏さんが皇子さんの取り巻きに!?

 私が名前を呼んでしまった事で、彼も私に気付いて、私に近づいてきた。


「香奏、何故此処に……?」

「はぁ。白剛様、貴方という方は無茶苦茶過ぎる。もっと身の振り方を考えなれば、いつかその身を滅ぼされまするぞ」

「貴殿は一体何を……?」

「もう少し、頭を使う事をお勧め致します。引き連れいてる小汚い男を含め、ね。それでは、失礼」


 えっ……?

 えぇーっ!?


「兄者、兄者っ!」

「偉奏……」

「大丈夫か、兄者!? しかし、いけすかねぇ連中よ。特に、あの大臣と香奏の野郎……っ!」

「偉奏、香奏を知っておるのか?」

「あっ……。いや、まあ、アレでも最年少で六将についた男だからな……。少しぐらいは……、な」


 あれ? なんか態度が急に余所余所しくなってる?

 何かあるのかな?

 そう言えば、香奏さんと偉奏さんって名前が似てるような……?


「それよりも兄者、皇帝陛下が……」

「あ、あぁ。そうだったな。皇帝陛下、先程はお見苦しい所を、申し訳ない。何かご用でありますかな?」

「あ、う……、あの……」


 チラリと、皇帝陛下の視線が偉奏に向けられる。

 成る程ね。

 偉奏さん見た目怖そうだもんなぁ。


「偉奏、悪いが皆の稽古を私の代わりに見て回ってきてはくれぬか? 私は皇帝陛下のお相手をさせて頂く故」

「ああ、心得た。兄者、相手は子供なんだ。何かトチっても、笑って誤魔化せれるぜ」


 そう偉奏さんが皇帝さんに聞かれないように静かに囁いてくる。

 もうっ! 私がヘマする前提で偉奏さん話してるしっ!

 最後は余分だよ!


「お前の気遣いは一言多いのだ。任せたぞ」

「任されたっ!」


 そう言って、偉奏さんは私達から離れ兵士さん達に声を上げる。

 ふぅ。さて……。


「皇帝陛下、今は貴殿と私の二人だけ。如何されましたかな?」


 なるべく視線を合わせるように、私は屈んで陛下の顔を見る。


「おじさん、文献部屋にいたおじさんだよね……?」

「如何にも。双極の軍神白剛と申す。度々、謁見をさせて頂いておると思うが、こう話すのは初めてでございますな」

「あ、ごめんなさい。僕、謁見の時みんなの顔が怖くて、余り、見てなくて、あの……、ごめんなさい……」


 そうだよね。あれだけ大人がずらりと並んでたら怖いよね。


「なぁに、今皇帝陛下に名を名乗らせて頂けたのだ。謝る必要はございませぬよ」

「おじさん……。あの、おじさんは、強い人なの?」

「私でございまするか? そうですなぁ……。強いか弱いかで言えば、私は弱いのでしょうな。それが如何した?」

「爺……、うんん。えっと、老統師が、軍神白剛は強いから稽古を付けてもらえって……。僕、剣とか握ったこと無いし……」


 えー!? そう言うって、専用のお付きの人がつくもんじゃ無いの?

 漫画とかで、直属の何かーって、良くあるのに。


「私が?」

「う、うん……。でも、僕下手だから、兄様達と違うし……」


 あっ。ダメダメっ!


「皇帝陛下」


 私は彼の肩に優しくてを乗せる。


「顔を上げなさい」

「え……」

「相手の目を見て、話しなさい。話している相手が誰かと言う事を、見て話しなさい」


 相手がいるから人は話す。話す相手が分からぬのなら、それは話ではない。

 幼稚園の先生が、私が泣きながら無理だよってパワーリフティングのお遊戯をしてた時に言ってくれた言葉。

 パワーリフティングをしながらなんて、無理だよって泣いたら、先生が優しく言ってくれた。

 パワーリフティングが無理だと思うなら、嫌だと思うなら、まずは先生と戦いなさい。

 一人で言うのはただの弱音です。目を見て、言いなさい。話す相手は誰が言われているのかを自覚させる為に。先生をどんな人間が決めつけずに、その目を見て見極め、相手の目により、見極めてもらうのです。交渉は、そこから始まるのですって……。

 今の皇帝さんは、自分で決めつけちゃってる。きっと、私が邪魔だと思ってるとか、自分にはそんな価値がないとか。私を見ずに、大人だからと思ってる。

 これ以上、傷付きたくないって、自分を守る術だと。当たり前の自己防御だけど……。

 でも、それは良い事じゃない。

 守ってばかりいたら、何も残らないもん。


「私の目を見て、私が貴殿の剣を教えるには足りぬと思った時、その時が貴殿が断りを入れる時である」

「でも……、僕は弱いから……」

「今弱くて何が悪い。何のための剣だと思われておるのか。剣は守るべきものを守る為の術。皇帝陛下、ここにいる皆を見てご覧なさい」

 

 ここから見える兵士さん達は、真剣に剣を振るっている。


「皆、国を守る為に剣を振るっておるのだ。この中で、誰一人産まれた時から強かった者などおらぬ。自分が守るべきものの為、皆強くなっただけである。皇帝陛下は何の為に剣を振るいたいと思われるのであるか?」


 私だって、ここに居なきゃ、剣なんて振るわなかった。

 剣じゃなくて拳と機関銃を振るってた。

 でも、何で私がここで剣を振るってると思う?

 優しくしてくた偉奏さんや、双彗さん、その偉奏さん達が守りたかった白剛さんの守ったこの国を守りたいと思ったからだよ。


「守りたいもの……?」

「ああ。何かございますかな?」

「……お母さんを、守りたかった……」


 また、お母さん?

 いや、でも、ここで下手に聞いちゃうときっと皇帝さんはまた萎縮しちゃうよね。

 うん。今は我慢っ。


「では、母君の為に」

「でも、お母さんはもう死んじゃってるもん」

「皇帝陛下は今はもう母君の事を好いては居らぬのですか?」

「そんな事ないっ! お母さんは、僕のたったひ一人のお母さんだよっ! ずっと、大好きだよ……っ!」

「ならば、その貴殿の中にいる母君を守れるのは貴殿だけだ。貴殿の中にいらっしゃる母君の為に強くなりなさい。貴殿が母を思う迄は、母君は貴殿の中にいらっしゃるのだから」


 私がそう笑うと、皇帝さんは少し顔を下げた後、はっとして自分自身の意思で顔を上げてくれた。


「僕、守れるかな?」


 どこか不安げな声。

 それでもしっかりと、私の目を見て聞いてくれる。

 さっきまでの怯えは何処にもない。


「勿論」


 守れるよ。

 大人だって子供だって、男の子だって女の子だって関係ない。

 守りたいと思った時、既に誰かを守っているんだから。


「それでは、剣を」

「うんっ」


 ただ一つ問題としては、私が剣の知識が何もない事なんだよね……っ!

 漫画では、素振りしてたし取り敢えず素振りから私も一緒に初めてみよ。

 はぁ。普通の女子高生には荷が重すぎるよぉっ!

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