第128話「書斎にて」

彼の姿を見失ってから、数日が経過したある日の事。

私は彼女、ハーベストという人物が学者として使っていた書斎を見に来ていた。

この鉱山都市である都市の中で、ここまで書物が揃っている場所は他に無い。

そんな事を役所の人間は言っていた。

「……でも、この量は流石に……あはは」

思わず苦笑いする程の本棚が、私の前に聳え立つ。

まるで壁を周囲に建てられていると錯覚させられるように……。

『私も、流石にこの量を初めての経験ですね。何処から調べましょうか』

「(う~ん……とりあえずは、この辺からかなぁ)」

頭に響くハクの声に応え、私は目の前の本から適当に手に取っていく。

数冊重ねた所で、適当な場所に座って本の中身を眺める事にした。

『そういえば、彼の探索は上手く行っているのですか?』

「(ううん。あの子が頑張っては居るみたいだけど、数日続けてやれば魔力は消費しちゃうし、体力の消耗も激しいみたいだからね。今は休んでるんじゃないかな?)」

『エルフィア・オル・バーデリア……妖精と言える種族の彼女が何故、彼に執着しているのか――少し分かりかねますね』

「(そう?)」

深く考えているのか、ハクは唸るように頭を動かしていた。

身体を共有している所為か、それがダイレクトに伝わってくるから隠し事は出来ない。

考える事、思う事、したい事、嫌いな事……。

その色々な考えや願いをも共有していると言っても、私たちはおかしくない状態。

周囲の人から見れば、奇妙だったり気味悪がられるだけなのだろう。

『確か彼女には、悪癖というか……奇妙な能力がありましたね。「周囲の草木の生命力を吸い取ってしまう」でしたか?それは対人でも有効なのでしょうか?』

「(それはシロには分からないなぁ。基本的にあの子は、フレアの隣にしか居ないし……あー、でも……そっか!)」

私は頭に浮かんだ事が、彼女の取っている行動の理由だと確信する。

勝手な想像かもしれないけれど、私も私で、それで納得が出来てしまうのだ。

『……シロ、また変な事を考えていませんか?』

「(そんな事無いよー。ただあの子がフレアが好きな理由が、ちょっと分かったかなぁって思って♪)」

『はぁ……そうですか。違うと思いますが、それよりも早く調べ物を済ませちゃいましょう。夕食は何に致しましょうか?』

ハクはそう言って、心の奥へと姿を消して行った。

私は調べ物の続きをする為に、手元の本へと視線を戻す。

「……ん?」

その際、本を捲った瞬間に一枚の紙が足元に落ちるのだった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る