第127話「契約の誓い」

「シルフィ……ハーベストへの連絡手段はあるか?」

「この状況で何を言ってるのさ!そんな余裕無いよっ!」

「それもそうか……」

空中で逃げ回っていても、回避行動に限界がある。

それに集中している最中で、この攻撃を回避し続けるのは不可能だろう。

「……フレアァァァァァッ!!!」

「くっ、しつこいんだよっ!死に損ないの奴がっ!」

強い風圧を纏い、頭一つ分の距離で大鎌が振られる。

それを回避して、フレアはオルクスの懐へと侵入する。

「フンッ!――チッ、これも偽物かよっ!」

身体を貫く程の掌底に手応えはあっても、それは溶けるようにして灰になった。

――死を司る神の能力ちからを持つ者。

それが彼、オルクス・ゲーターという人物だ。

「……ボクはキミを殺し、新しい世界を築く!キミの考えでは、また争いを生むだけだ!」

「それはこっちのセリフだ、オルクスッ!オマエのやっている行動は、後になって後悔するような事ばかりだ。オマエのその方法で、一体何人が犠牲になったと思っている!」

この世界を救いたいという願い。

その願いはお互い同じのはずなのに、どうしてこうもすれ違ってしまう。

繰り返された負の連鎖という争いの歴史。

これを抹消するというのが、オルクスの考えだが……これはダメだ。

歴史そのものの抹消は、世界のリセットととも言える所業なのだ。

改ざんされた歴史は、また一からやり直すなどと言っても時間が掛かる。

そして人類は一度滅び、また新たな人類が誕生するのを待つという事なのだ。

それはつまり、今生きている人々全てに『死』を与える事になる。

「オマエのやっている事は、ただ無実な人たちを虐殺しているだけだ!何故それが分からない!」

「無実な人々?そんな者たちなど何処にいる!人間は皆、生きている間にどれだけの罪を背負っているのかすら自覚しないんだ!それが自覚出来ている人間なんて、もうこの世界には存在していない!」

「だったらオマエはどうなんだ!オマエもその罪を自覚しているのであれば、そのような答えにはならないはずだ!オマエは間違っている事にすら気付けないのか!」

……みにくい争いだ。

どうして長い間、彼とは一度しか分かり合った事は無い。

もう古い記憶だが、オレはまだ覚えているんだ。

オマエは覚えていないのか、オルクス・ゲーター。

いつまでも影の王で在り続ける事が、オマエの正義なのか?


「――良い加減、目を醒ませよっ!オルクスッ!!」

「それはこっちのセリフだぁぁ!」


聞こえているか、ハーベスト・ブラッドフォールン。

オレの声では、もはや彼に届く事は無いだろう。

『契約』は、もうここまでだ。

後は、オレの能力を全てオマエに託す。

この命尽きるまで、オレはオマエを…………。


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夢を見ていた。

いや、夢だったのか。あるいは現実だったのか。

そんな曖昧な夢うつつな状態で、妾はただ寝息を立てる少年の傍まで近寄る。

本来ならば、妾がここで彼を起こすが決まりだったのだが……。

今の妾は、そんな気分ではない。

「……お主、すまぬの」

妾は起こさぬようにして、その寝ている頭を撫でて呟く。

「次は、妾がお主を護る番じゃよ。フレア……いや、如月皐月よ」

「んんっ……」

寝返りを打つ少年にそう誓い、妾は目を瞑るのだった――。

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