第117話「緑の少女と獣の少女Ⅱ」
死の神。死の化け物。大鎌の死神。
様々な名称を持つ存在は、少年の内側に巣を作り鎮座する。
その重たい腰を動かす時、目の前の敵を排除・抹殺をする。
眼の影響を受けた者。
その瞳と視線を交わし、内側にある死への囁きを受ける者。
その鎌に触れた者は、その首を落とされ、潰され、薙ぎ払われる。
全ては、死という救済を与える為に。
その者は不敵な笑みを浮かべながら、まるで踊るようにその黒い鎌を振る。
その姿を見た者は、声を揃えたこう名称するのだ。
――デスサイズ・パレードと。
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「じー」
私はただ一点に集中する。
それは恐らく、『外敵』と呼べるモノの
でも確証はなく、無害という可能性もある。
だけど気にならずにはいられず、私はそれをじっと見られる。
それがこちらを
「フィリス?僕らはこれから街の中を歩くけれど、一緒に行く?それとも留守番してる?」
そんな事をしていると、後ろから彼が問い掛けてきた。
大きく鼓動が一つ跳ねたのを感じたけれど、私はその誘いを断った。
「ううん。フィリスは待ってる」
「そう?じゃあ行って来るから、ちゃんと待っててね?」
「うん」
彼はそう言って、私の頭を優しく撫でて部屋を出て行った。
到着した際に借りた宿屋で、私たちは全員同じ部屋で寝泊りしている。
その方が安上がりだと言って、彼女が言った事だ。
――彼女、エルフィア・オル・バーデリア。
私と容姿は幼いにも関わらず、私よりも生きていて知識もある。
そして一度は敵対した、緑の魔法使い。
私が勝手にそう呼んでいるだけだけど、彼女はそれでも強い。
もしかすると、白き魔法使いと呼ばれる彼女と差はほとんど……。
『ねぇフレア、わたしも留守番してもいい?』
「え?」
扉の向こう側から、そんな声が聞こえてきた。
いつも彼に着いて行く彼女が、自分から離れようとするのに驚いた。
そして驚いたのも束の間で、彼女は自分の言葉を続ける。
『――少し気になる事があるの。うん、個人的に。ダメかな?』
『ううん、分かった。エルフィがそうしたいならそうすると良い。けど約束して欲しい。危ない事になりそうなら、すぐに手を引く事、良いね?』
『うん。約束する』
やがて扉が開いて、聞こえてきた通り彼女だけが戻ってきた。
そのままゆっくりと私に近づき、目を細めて彼女は口を開いた。
「――さて、貴女の見解を聞かせてくれる?」
数秒間の静寂を破り、彼女は首を傾げてそう言った。
私を見て……いや違う。彼女の瞳には、私を見ているようには見えない。
「……何を言ってるの?」
「あれ?違った?わたしもは気づいているのだけど、もしかしたら貴女も気づいていると思って。――だって窓の外ばかりを気にしてるから」
そう言って、彼女は私を見る。
正確には言うなら、私の見ていた窓の奥を見据えてそう言った。
その瞳には私は映っていても、私を見ている様子ではない。
ならば私は、彼女が私の思考をも見抜いていると思って話した方が良いのだろうか。
「……それは買い被り過ぎ」
「え?」
急な言葉によって、思考が中断させられた。
「わたしはただのエルフなだけで、読心術だったり相手の思考を読んだりする事は出来ない。お母様は出来たかもしれないけど、わたしには予想する事しか出来ない。貴女がどうしてあれを見ていたのか。それが気になったから聞いただけ」
顔色を変えず、彼女は淡々と言葉を続ける。
でも私は彼女が思考を読む事は出来なくても、見抜く事は出来ると思っている。
実際に見抜かれた私が、その証拠だ。
「――それよりも聞きたいの。あれが視えているの?それとも聞こえているの?どっち?」
彼女は窓の方を指差して言った。
恐らくはあの影の事だろう。私はそう思って、正直に感じた事を口にした。
「どっちも、かな」
うねうね動いているようにも見えるし、あの影からは地面などを這いずったような音が聞こえて来るのだ。
「そう。じゃあわたしと一緒に調べましょうか。えっと……あのお姉さんから、体術の訓練は受けてるんだよね?」
「一応は受けてるけど。でもフィリス、そんなに強くないよ?」
「問題ない。わたしは貴女のその耳とかを信用してるから――風の精霊よ、我が声に応えよ」
彼女は中空に手を伸ばし、窓の方へと手の平を向けた。
それによって私は、彼女が何をしようとしているのか理解出来た。
私は慌てるようにして、窓を開けてその場から離れた。
開けなければ、恐らく壁に穴が空くと思ったからだ。
「(失礼だな。わたしはこれでも魔法は使えるの。小さくする事だって、簡単なんだから)――歯向かう者を、吹き飛ばせ。エアブラストッ!」
翳した手の平の前に緑色の魔法陣が出現し、その中心から風で作られた小さな球体が生成された。
それを彼女は放ち、それは勢いの良い速さで窓の外へと飛び出していく。
風を切る音が小さく聞こえた後、彼女は何やら慌てるように窓の方へと向かった。
「……追うよ。
「え?ええっ、あっ!?」
悔しそうにそう言いながら、彼女は私の手を取って外へと飛び出す。
私は半ば無理矢理に、彼女に引っ張られていく。
しっかりと握られた手と彼女の背中を交互に見ながら、私は彼女と共に影を追うのだった――。
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