第116話「救難信号」

誰もが寝静まった月夜の下で、少女はただ窓の外を眺め続けていた。

「どうしたのかな?フィリス」

「さぁ……外が気になるんじゃないかな?」

少女の様子に疑問を持つ彼らは、そう言葉を交わすが深くは考えていない。

フレアもシロも、その様子の理由を知らないのである。

「……じー」

「(ふ~ん……わたしと変わらない年相応の見た目なのに、嗅覚と勘はやはり動物並み。何を見てるかなんてのは、わたししか気づいてないんだろうなぁ)」

だがしかし、その様子を水を飲みながらチラ見するエルフィ。

「どうしたの、エルフィ?」

「ごほっ、げほげほ――」

ボーっと眺めている彼女の顔の前に、フレアの顔が目の前に現れる。

急に現れて、正直心臓に悪い。おかげで飲み物を吐いてしまった。

「げほげほ……急に現れないで」

「ご、ごめん」

エルフィが頬を膨らまして言うと、フレアは申し訳無さそうに呟いた。

それを傍目で少女は眺めるが、何も言わずにまた窓へと視線を戻す。

「――あれ、のだよね?」

フィリスはそう呟いて、他の皆が部屋に戻るのに着いて行った。

そのまま目を瞑り、疑問を重ねたまま眠りの世界へ向かうのだった――。


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同時刻、月夜の下。

冷たい風に吹かれた霧は、空気に流されて姿を現した。

冷気に冷気を重ねて、霧の中から杖を持った彼女が足を前に出す。

「……ようやく、出口に繋がった。という事か」

「お主にしては、意外と遅かったのう。手間でも掛かったか?」

「減らず口を。今すぐに凍らせて、あのお方への手土産にしてくれようか!」

彼女は杖をこちらに向けて、何やら怒ったような表情を浮かべる。

「何じゃ?お主の願望に沿った世界を見せたはずじゃが?」

「むむ……確かにあれはその、悪くなかった」

コクコクと頷いて腕を組む彼女は、一人でに思い出しているのだろう。

一体何を望んでいたのかは、こちらには理解は出来ないのだが……。

正直に言えば、少し興味はある。

「なぁお主、つまらぬ事を聞くのじゃが……お主の願望というのは何なのじゃ?」

「世の願望なぞ、貴様に教える訳がなかろう」

彼女は鼻を鳴らしてそっぽを向く。

何だその態度は。乙女か貴様は、と言いたいぐらいだ。

「まぁ良い。それはともかくじゃ。お主は何故、妾に刃を向けたんじゃ?」

「世がする事成す事、貴様に説明すると思うか?」

「ほー?お主、妾を怒らせたらどうなるか――知らない訳ではあるまいなぁ?お主よりも妾の方が、魔力の使い方に関しては遥かに上だと自覚はしとらんのか?」

「貴様が遥か上だというのならば、この場で証明してもらおうか」

彼女はそう言いながら、こちらへビシッと指を差してくる。

「お主、無駄じゃぞ。お主の今の魔力では、妾に届く事はない。身の程を知れ」

そう言って、彼女の背中を向ける。

その瞬間、自分の背中に殺意が向けられている事が実感出来る。

恐らく彼女が睨んでいるのだろう。

だがしかし、振り向く事はない。

何故なら興味もなく、他にやるべき事があるからだ。

さっきから救難信号が頭の中に響いていて、鬱陶うっとうしくて仕方がないのだ。

意識を集中しながら、その交信に答えた瞬間だ。

何とも言えない助けの声。そして謝罪の言葉が耳から離れなくなるのだった――。




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