第5章【鉱山都市アモルファス】
第115話「アモルファス到着」
「すみません。旅の者なのですが、こちらの国への入国を許可して頂けませんか?」
馬車を進める事、数日。
途中で寄り道が多かったけれど、僕らは隣国『アモルファス』へ到着した。
『随分と立派な馬車を使っているな。お前は商人か何かなのか?』
「旅で荷物が多くなるのは良くある事でして、生憎商人ではないのですよ」
『そうか。商人であれば、身分がすぐ分かって楽だったんだがな。う~む……』
「……??」
何かを迷っているように、兵士が首を傾げている。
ただでは入国出来ない仕組みになっているのだろう。
「何を迷っておるのじゃ?入国手続きなら、妾が代わってやろうか?」
『なっ、学者様っ』
兵士が悩んでいると、奥の方から身長の低い少女が腕を組んでいた。
学者様って事は、何かの文献をここで広げたのだろうか?
『旅の方なのですが、なにぶん身分を確かめる物が無くてですね。困り果てているんですよ』
「そんな物、無くても入国ぐらい済ませたらどうじゃ。どうせ国内で悪事を働く者ならば、お主らがなんとかするじゃろ?」
『それは勿論ですが……』
「なら問題はなかろう。お主ら、良かったのう」
「あ、有難う御座います?」
助けてくれた、って事で良いのだろう。
兵士も納得したように入国手続きの判を押しているし、馬車を進めても問題は無さそうだ。
「……ふむ……」
ふと視線を流していると、先ほどの学者の彼女がこちらを振り返ってるのを見た。
遠いから視線が合った、までは言わない。
けれど、今のは何ていうか……監視?
そう、監視をしているような視線だった。
「行かないの?フレア」
「あぁ、うん。行こうか」
エルフィに肩を突かれた僕は、気を取り直して入国した。
街中を馬車で進む訳にはいかないから、馬車を管理している人の所に預ける。
これでようやく僕たちは、このアモルファスへ到着したのだった――。
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「……気のせい、じゃと良いのじゃがのう」
ふと自分で呟いた言葉が、静かに自分の耳へ届く。
脳裏の中で思案していた事を、無意識に口に出してしまったようだ。
だが一度気になったが故、これは自分の中にあるモヤモヤを払拭する必要がある。
馬車に乗り、その後ろに少女を乗せた少年。
その少年の気配というか、雰囲気というか、個人的に気になった部分がある。
何か……飼っていると思うほど、彼の存在が揺れている気がした。
あるにしても、無いにしても――これは監視対象だ。
しばらく様子を見た方が、こちらとしても動きやすいだろう。
「(我が眷属……あの少年を見張っておけ。じゃが慎重に、じゃぞ?)」
ふと入った路地で、建物の壁に触れてそう伝える。
その瞬間、影が動いて二つの瞳を開いて進んでいった。
『影を這いずる蛇』と云われている者の姿。
壁を昇り、そのまま少年を目指して進んでいった。
「さて、妾はこれからどうしようかのう。閉じ込めてるのも時間の問題なんじゃが……どうするべきかのう」
そうして腕を組みながら、その場から移動する事にしたのだった――。
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「……じー」
ピクピクと耳を動かして、一点だけを少女は眺める。
「どうしたの、フィリスちゃん?」
シロがその様子を気にして、首を傾げながら彼女に問い掛ける。
「――なんでもない」
だけどフィリスは首を振り、ただそう一言だけ言った。
ただ一点だけを見てるその視線の先には、黒い影が蛇のように動いているのだった――。
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