第118話「魔法使いの遭遇」

『申し訳御座いません。勘の良い者が居たようで』

「……言い訳は聞かんぞ。じゃがお主の気配と視線を察知するとはのう。小娘と思って侮ったか」

そうは言っても、こうも早く気づかれるとは思わなかった。

無邪気さの中にある本能がそうさせるのか。

入り口で全員の顔は覚えているが、あの少年以外は警戒に値しなかったが……。

見誤ったようだ。

「そのまま妾の元へ誘導するのじゃ」

『なっ……何を言っているのです。あの者たちの始末は私が』

「気配を悟られておいて何を言っておる。出しゃばるでないわ。妾自ら、眷属の尻拭いをしようと言うのじゃ。寧ろ感謝しろと言いたい」

『……申し訳ありません。感謝致します』

尻拭い。そう、これは尻拭いだ。

あぁ、考えただけで吐き気がする。

こんなにもイラついたのは何十年振りだろうか。

「……感謝、か」

何が感謝だ。クダラナイ。

いつから甘くなったのだろうか。

「はぁ、はぁ、はぁ――逃がさないっ!」

「ま、待ってよっ!エルフィさんっ……ほむっ?!」

視界の端から来た影は、後ろでその気配を隠した。

その後に肩で息をして走ってきた少女が二人……。

彼女たちを見て、ただ一言だけ呟く事にした。

このイラつく状態を抜けるには、それしか無い事だから――。


======================================


『お主らか。妾の眷属の気配に気づいたのは』

暗闇の中で、そんな声が聞こえて来る。

だけど姿は見えなくて、ただ人の気配がするだけだ。

「フィリス、何か感じる?」

「…………っ」

「フィリス?」

わたしがそう問い掛けた時、彼女は震えていた。

その表情が恐怖に覚えていて、奥歯を噛み締めて震えた足でそれを見ている。

一瞬たりとも目を離さないように……。

その視線の先を追っても、わたしには暗闇しか見えない。

でも彼女がこんな状態になるという事は、声の主は悪魔か何かなのだろう。

あくまで予想だが。

「貴女、下がってて」

「だ、だいじょう」

「――大丈夫な訳ない。見れば分かるから、どこかに隠れてて。わたしがやるから」

小さく頷いた彼女は建物の影に隠れ、震えながらこっちを見ていた。

逃げても良かったのだが、震えた彼女は歩く事は出来ないだろう。

それほど、彼女は精神を落とされたのだ。恐怖によって……。

『お主が相手で、間違いないかのう?』

暗闇の中から、こちらの準備が整った瞬間に声が聞こえてきた。

「……うん。わたしが相手になる」

「名を聞こうか?エルフの小娘」

「――!?」

暗闇の中から、そして背後からはっきりと聞こえる声。

咄嗟に取った行動は緊急回避行動で、わたしはその背後の気配から距離を開ける。

「逃げる、か。じゃが良い反射じゃ。褒めてやるぞ小娘」

「…………そう(今のは殺気が無かったけど、違う恐怖がある気がする)」

周囲に建物がある所為で、魔法も迂闊に使えない。

体術でも良いけれど、インファイトは性に合わないから避けたいのが本音だ。

「――風よ!」

「悪いな小娘。お主に魔法は――」

詠唱を始めた瞬間、中空に上げた腕を掴まれた。

「……っっっ!!!???(速い。いつ動いた)」

「――もとい、妾の前では魔法は使わせんよ。誰にも、な」

魔法陣の光と、その人物との距離はほぼゼロ距離。

それによって、その姿をわたしは見る事が出来た。

本音を言うと、ここまでの存在感を持つ相手はどういう人物なのか。

それがどうも気になっていたのだが……わたしは目を見開いた。

「貴女は……あの時の」

「ほう?妾の顔を覚えておったか?小娘」

入り口で会った人物。

その時は、学者と呼ばれていた人物だ。

「初めましてじゃな、小娘。まずは自己紹介といこうかのう?――妾はハーベスト。ハーベスト・ブラッドフォールンじゃ。よろしくのう?エルフの小娘」

「――紅の魔女、なの?」

わたしはその名を聞いて、その名の正体を呟くのだった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る