第83話「王の宣告」
「貴方が、この国の王ですか?」
手錠を付けられたまま、城内を移動していく。
繋がれた鎖を引っ張られ、やや早歩きにさせられる。
足枷が外されて、多少の自由は利いてる。
利いているのだが、僕がこの場から動くのは逆効果でしかない。
僕のためにも、ここへ招き入れてくれた人にも迷惑が掛かる。
「私が王だというのは、先ほど名乗った通りだ。信じられないのであれば、すぐ近くに配備している兵士にでも聞かせてやろうか?」
「……遠慮しておきます」
視線だけで周囲を確認すると、兵士が警備の為に立っている。
こちらには気づいていないけれど、僕の存在を見せるのは旗色が悪くなる。
得をしない以上、迂闊に姿を見せるのは自殺行為でしか無いだろう。
「ならば黙って着いて来い。まぁ来なくても引き摺って行くがな」
「…………」
手元を見据えながら、警備状況を頭に入れていく。
兵士の配置。城内の造りを含め、役に立ちそうな物を脳内へと沈めていく。
でも気になるのが一つある。
何故この王は、こんなにも余裕のある表情なのだ。
過剰な自信は身を滅ぼすだけなのに、何かがバックに存在しているのだろうか。
良く分からないし、気になってしょうがない。
「さて、お主にはここに入ってもらおう。なぁに、心配する事は無い。兵士なんていう者は、ここにはいないのだから……」
兵士がいない。その言葉に裏があるのは確かでも、部屋の中が暗過ぎて分からない。
一体何を企んでいるのだろうか、この王は……。
「…………」
僕はとりあえず、この場は言う事を聞く事にした。
真っ暗な部屋の中へ足を踏み入れ、奥へ奥へと進んでいく。
進むうちに扉は閉められ、部屋の中身が見えてくる。
「そこで大人しくしているといい。彼らと一緒に、な」
「……っ!」
慣れた視界に広がったのは、
そして衰弱している者たちの姿があった。
ここで捕まっている者。または、ボロ布という見た目から奴隷の人たちだろう。
この部屋で過ごさせられ、必要な時だけ扱き使われるという事で間違い無いだろう。
しかも皆の様子は痩せていて、何かに取り憑かれているかのように目が座っている。
精神的に来ているのだろう。見ているのが辛い気分だ。
足音は遠ざかって行き、扉の前に人の気配が無い事を確認する。
「…………作戦は失敗、だろうな。――ならもう、仕方ない」
僕はそう呟いて、ひと呼吸してから腕に付いた手錠を破壊した。
その様子を見た人たちは、僕の方を物欲し気な視線を向けてくる。
僕は溜息を吐きつつ、彼らの錠を外していく。
解放された嬉しさなのか、安堵の息がそこら中から聞こえてくる。
あまり大声は出して欲しくないので、僕は小声で詠唱を開始する。
「――眠りへと誘い、静寂へ導きたまえ」
この魔法に名前は無いが、単純な構造で物を言うのであれば『スリープ』だろう。
そのままの意味で、範囲内の標的を眠りに誘う魔法だ。
まずはこの部屋を出て、彼と合流する必要があるだろうが……彼は何処だ?
そう思いながら、僕は彼の居そうな場所を探し回るのだった――。
――探し回る事、数時間。
目的の人物に会う事は出来ていなくても、目的の場所を見つける事が出来た。
城内を見て回った事を考えれば、一番広いこの部屋が『玉座の間』という奴だろう。
後は、どうやって問い詰めるかなのだが……。
『ほう?お主ともあろう者が、小娘一人に手こずるとは……』
『申し訳ありません!』
ふと聞こえてきた声は二つ。一つは王の声だと思うけれど、もう一つは誰だ?
ここから見えるのは王ではなく、もう一人の男だ。
兜だけを外して床に置き、鎧で身を包んでいる者。あれは……。
『――ですが王よ。あの小娘は何なのですか!?最初は私が優勢だったはずが、まるで別人に変わったかのように動きに変化しました!たった小娘一人でも、あれは正真正銘の化け物です!』
まるで別人……その言葉によって、僕は彼女の事が思い浮かぶ。
恐らくはシロとハクなのだろう。彼女たちは同じ体であっても、人格は違う。
初めて見る人間からすれば、二重人格とでも思うべきだろう。
「(……っ……あれは化け物なんかじゃっ……)」
僕は無意識に拳を作り、奥歯を噛み締める。ここは我慢するべき時だ。
『言い訳はそこまでだ。小娘一人さらう事も出来ず、殺す事も出来ないとは……恥を知れ!白き魔法使いについてはこれから考えるとしよう。さて、ディヴァインよ。お主はこれからどうするのだろうな?どうやってその失態を晴らすつもりなのだ?首を斬り、自らの命で懺悔するか?それとも――』
『私に出来る事であれば何でも致します!汚名を返上すべく、私の手足から血の一滴まで貴方に捧げます!私は何をすれば?』
『――そうだな。ではこうしよう。この城に居る者と街に居る者、そしてそこに居る者を含めた者たちを
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で感情が渦巻く。
込み上げてくるその感情は、徐々に憎悪を帯びて行く。
――殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ。
「(黙れ!……これは僕の身体だ。勝手に出てくるな!)」
――獲物ダ。目ノ前ノ獲物ガ、貴様ガ喰ラウベキ者……憎メ!怨メ!ソシテ壊セ!
『さぁ、お主の選択はどちらだ?皆殺しにして助かるか、お主だけが死ぬか。さぁ、選ぶのだ!そして私を楽しませてくれたまえ!』
鎧の男は剣を抜き、ゆっくりと立ち上がる。
頭の中で響いてくる声を抑えるのに夢中だった僕は、近づいてくる彼の気配に気づけなかった。
一気に振り下ろされた大剣は赤く濡れ、僕の意識は真っ暗な世界へと誘われる。
そして僕は、意識そのものが『反転』してしまったのだった。
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