第77話「魔眼保持者」
ニブルヘイムの中心であり、多くの民衆を纏める王。
その王はムスペル城の主であり、セイラム騎士団という組織を作った男。
その情報は大地の精霊から聞いて、把握はしている。
どういう人間なのか、どういう事があったのかも知っている。
『何処へ向かおうとしているのかな?少年』
警備兵だ。街に入った瞬間、人混みが出来ていたようだ。
街のみんなが、僕の存在に気づいてしまった。
これは不味い状況でしかない。
何故なら精霊たちによれば、僕らは処刑される事になっているのだ。
だけど正直、今の僕にとってはどうでも良いのかもしれない。
何も考えず、何も思いつかない。
考えている事は一つだけ。ここにいる人たちが、憎くて仕方ない事だけだ。
「そこを退いて下さい!道を開けなければ――この手でこの街を破壊します」
『無駄な抵抗は止めろ!取り押さえろ!』
警備兵の声に反応するように、街の者は走り出す。
だがその瞬間、僕は既に警備兵の懐へ入るのだった。
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警備兵と民衆は、その少年の姿を見失っていた。
すぐに反応出来る者など、その中には存在しない。
「道を開けて下さい。――――死にたくないでしょ?」
首元に突きつけられたその手刀は、刃物ではなくても鋭い圧力を纏っていた。
拘束が解けた瞬間に警備兵は座り込み、少年は周囲の者たちに視線を送る。
同じ人間だという見た目だが、その眼には恐怖を呼び寄せる。
誰もが同じ考えを巡らせ、同じ言葉を言ってその場から逃げ出した。
『化け物』という言葉で縛られた猛獣は、街の中を
ただ一つの目的を胸に誓い、ただ一点の場所を見つめる。
その少年にはもはや、他の者など眼中に無いのだった。
――良イゾ、モットダ、モット壊セ!
「(うるさいな。少し黙ってろよ!)」
頭の中で響く黒い声。
それは自分の中にある曲がった力であり、使っては駄目だと無意識に思う力。
それを少年は、理解したうえで使おうとしているのである。
「見えた!あれがムスペル城っ、このまま一気に行ければっ!」
――止マレ、我ガ半身ヨ……。
咄嗟に響いた声と共に、勢い良く振るってくる槍。
少年は身体を逆に捻って、回避行動を取ったが頬を掠める。
「まずは、良く避けたと賞賛しておこうか」
「貴方はセイラム騎士団の……ディグル将軍?どうして、貴方は彼女に!」
ディグルは身体より大きい槍を持ち、少年へと構えて口を開く。
「確かに彼女に私は敗北した。だがかろうじて部下に守られ、こうして命を授かり生きている。私の中には今、私の物だけではない魂が宿っている。ここで君を通せば、騎士団を率いる者としては失格だろう!かかってこい少年!思えば君とは、いつか手合わせしたいと思っていた。あのパレードの日、目が合ったあの時からな!」
ディグルは槍を突き出し、宣戦布告のようにそう言った。
だがしかし、少年に停止はない。
ここで下がってしまっては、少年の意志は無くなってしまうから。
「分かりました。では我慢していた仇討ち、させて頂きますね。人殺しという貴方と王様が犯した罪を――――破壊します!」
少年はそう言いながら、彼へと目掛けて駆け出した。
陽が沈み始めた瞬間、ディグルは少年の瞳を見てそれに気づく。
そして小さく心の中で、その輝く二つの瞳の事を言うのだった。
「――魔眼保持者?」と。
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