第33話「呪われし能力」
ざわざわと枝が揺れ合い、葉っぱがゆらりと落ちてくる。
真っ白な世界とはいっても、ここには何もない。
あるのはボクの魂とこの世界樹だけだ。
「…………困ったな。これは」
落ちてきた葉っぱの色を見て、ボクはそう呟いた。
世界樹の色は鮮やかな緑色をしているのだが、この葉っぱは違う。
茶色に染まっており、まるで枯れたようにボロボロだった。
落ち葉を一枚拾い上げ、世界樹の全体を眺める。
「――これはもう、ダメかな」
見つけた枝を見れば、枝分かれしている部分が腐っている。
黒く染まり、腐食されたようだ。
ボクはそれを丁寧に何の迷いもなく、溜息を吐きながら切り落とした。
その瞬間に起きる事が、たとえどんなに哀れでも。
侵食を防ぐには、こうするしかないのである。
今戦ってる彼の為にも――。
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「……いつまで抗うのかな?キミは」
「…………」
オルクスの問いかけに対し、彼は何も言わなかった。
いや正確には、何も言わないのが正しいだろうか。
オルクスの放った影に刺された瞬間、彼の姿が一変したのだ。
貫かれた途端、全身の力が抜けたかのように思えた一瞬。
彼はその影を吸収し、今の彼はその影を纏っているのだ。
まるで黒い獣のような動き。
水の大精霊ウンディーネである、ディーネ・ホルネステインの死。
そして彼が救いたかった彼女、エルフィという者を失った。
今の私が出来る事は、この行く末を見守る事のみ。
何もしないんじゃなく、何も出来ないのだ。
「キミの能力は、本来はボクの何だよ?返してくれないかなぁ!」
「――っ」
手を伸ばして皐月の顔を掴み、オルクスは真っ逆さまに地面に
捕まえている腕に触れ、触れた場所から腐食していく。
「その程度じゃ、ボクには効かないんだよぉ!」
「……っっ」
何度も身体を貫かれ、それでも皐月はまた立ち上がる。
何度も、何度も……。
「ははははは!キミはどうして死なないか――教えてあげようか?」
起き上がった皐月に向かって、オルクスはそんな事を言い始めた。
「…………」
無意識かであっても、皐月の動きが止まった。
もしかしたら、まだ意識があるのかもしれない。
そう思いかけた直後、オルクスはニヤリと笑みを浮かべ口を開いた。
「――キミはもう人間じゃないよ。その能力は化物としての象徴だからね。自覚というか覚えはあるんじゃないかな?現にキミは、その節目を少し見ている訳だし……意識している事とは別で、キミの行動には何かを引き金にして無意識に働いてる時があるんじゃないかな?例えばそうだな……そこお姫様が絡まれていた時とか、或いはエルフィとかいう女の子が魔女堕ちする前とかさ?見覚えはあるんじゃないのかな?」
オルクスはそう言いながら、私に視線を一度動かす。
覚えがあるだろう?と言わんばかりに。
まともに魔法の使い手でもない彼は、運動能力も戦闘能力も平均以下だった。
でも確かに彼の言うとおり、何かを境に彼はその全てが向上する節がある。
その何かとは、一体なんだろうか……。
私は今までの彼の動きを思い出し、その答えにやがて辿り着いた。
「……オルクス……それは『怒り』という事かしら」
「へぇ、キミから話掛けてくるとは、よっぽどこの人間が大事なようで」
「……っ」
「でも残念だ。正解だけど、まだ足りないよ。それじゃボクらとは相容れないな」
「相容れない?彼はアナタとは違うわ!一緒にしないで」
私の言葉を聞き、オルクスは肩から笑い始める。
「ボクと違うだって?違わないさ。教えてあげるよ。彼が使っている能力は元々、ボクらが使っていた能力なんだ。過去最大級にして最悪の能力だ。負の感情を引き金にして能力の効果範囲も変化する。まぁ彼の場合はまだ小規模だけどねぇ」
「それはアナタが能力を使い方を熟知していたからではなくて?」
「熟知なんかしていないさ。ボクらは同じ境遇に近いのかもしれないなぁ、もしかしたら過去に何かを抱えているからこそ……悪魔の力を使えるんじゃないかな?」
「悪魔……?」
話しながら、猛攻する皐月を避けている。
自我が崩壊しかけているから、殺気が充満しているのだろう。
だけど一度も皐月を見ず攻撃を避けている。
しかもその攻撃を避けるだけでなく、繊細な形で受け流している。
「悪魔の力っていうのは飛躍し過ぎたかもしれないけど、それに近い力であれは作られた能力なんだ。文字通りで文字通り以上の禁術だ。さしずめあれは――呪いの力というべきかな」
オルクスは左右に揺れる彼の姿を見て言った。
その目は遠い目をしていて、何かを思い出している様子に見えたのだった――。
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身体が熱い、血が熱い。
マナの流れが激しすぎて、魔力の塊に押し潰されているようで息が苦しい。
まるで首でも絞められているようだ。
いや、もしかしたら水の底に入れられているのかもしれない。
『何だよこいつ』『ちっとも笑わねぇじゃん』『つまんねぇ』
過去に言われた言葉を思い出す。
これは僕自身の記憶だ。記憶という名の海。
深く潜るごとに僕の記憶が蘇っていく。
初めて褒められた日。
初めて怒られた日。
初めて友達が出来た日。
そんな様々な記憶を巡って、今の僕がある。
『――サツキ、元気ですか?』
「……っ?」
暗い水の底には小さく光る場所があった。
それはかつて、僕と彼、そしてリンの三人が揃った場所に似ている。
だがそれとはまた雰囲気が違い、いるのは驚いた事に僕が一番会いたかった人物。
彼女はなぜか、そこに姿を現したのだった。
「お久しぶりです、サツキ♪」
僕は自然に身体が前へ動き、その名を掠れた声で呼んだのだった――。
――エルフィ……。
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