第31話「皐月。初陣」

終わりは新たな物語の始まりだ。

絶望こそが救いであり、絶望こそが新たな道へと行ける扉の鍵。

俺は今……それを再び成し遂げる。

数百年待ったのだ。

この時を。

この瞬間を。

「――さぁ行こうか。我らが目指した世界へ」

両手を広げ、空高く飛び上がる。

空から見た景色は、壮大で膨大な情報が入ってくる。

世界は広く、また各種族が生きているという事。

「……フレア?キミにも見せてあげよう。この世界がどう変革するのかを!」

再び両手を広げた瞬間、彼を中心に巨大な魔法陣が世界を覆っていく。

雲は雨雲となり雷雨の兆しを見せる。

そしてそれに釣られるようにして、四角形を作るように光の柱が出現し始める。

それはやがて黒くなり、空には四つの紫色の魔法陣が浮かび上がった。

「さぁ開け、我が声に応えよ!――悪魔どもぉ!!」

彼は天を見据えてそう言った。

これから起きる事を待ち望んだ笑みを浮かべながら――。


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「おい、なんだよありゃ!?」

「紫の魔法陣?」

アルフレドが叫ぶのを聞き、アリアを釣られて空を見上げて呟いた。

紫色に輝く魔法陣。

その魔法陣は空に大きく広がっている。少しずつ……。

「…………」

あれは、いったい……――?

そう思っていると、薄っすらと白い霧が空の中に浮かび上がった。

その姿は、僕の知っている人物に変わっていく。

その者は手を伸ばし、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

『――この世界に住む全ての種族ものよ、我が名はオルクスという。お前たちはこの世界の事をどう思っている?平和か?はたまた退屈か?』

「……オルクス様っ!」

「待てっイザベル!」

イザベルはオルクスの名を呼んだ途端、黒い翼を広げて一目散いちもくさんに飛んでいく。

「逃がさないわ。――ファランクスッ!」

アリアは槍を構え、飛んでいくイザベルに狙いを定める。

「ダメだアリア!君の槍を彼女に当てたら、エルフィがどうなるか分からない!」

皐月は大声で止めに入る。

彼の言うとおり、ファランクスは彼女の身体より大きい。

そんな物を槍投げの如く投げたら、当たった相手はひとたまりも無いだろう。

『――お前たち人間は、一人残らず粛清しゅくせいする。これは革命だ。繰り返すぞ。お前たち人間は傲慢で醜い生き物だ。今は各種族に見た目とその本質も変化はしているだろうが、我にはそんな物は関係ないのだ。人族であろうが、獣族であろうが、神族であろうが、魔族であろうが……であろうが同じだ。我はこの世の住人全てを消し去る。我に逆らう者は、一匹たりとも生かしはしない。以上だ』

オルクスの言葉を聞き、イザベルは空中で動きを止めた。

消えていく霧に手を伸ばし、ただその名を呼び続ける姿は哀れにも思えてしまった。

「――そうか。世は用済みという事ですね、オルクス様」

イザベルはそう呟くと、身を翻してこちらを向いた。

魔法陣の数が増えていく。彼女の周囲からこの王都を囲むように……。

「……イザベル・フォルネステイン、何をする気?」

「――はっ!もはや世もこれまでのようだ。出番は最後まで取っておきたかったが致し方ない。決着をつけようか人間たちよ、世はオルクス配下、イザベル・フォルネステイン。いざ……

「イザベルっ!やめるんだ、もう君が戦う必要がどこにある!」

皐月が彼女に向かって叫ぶ。

「待ちなさい、皐月」

だがそれを制止させたのは、アリアだった。

「王都ドミニオンはアタシの街でもある。ここはアタシにやらせて」

「でも……」

「大丈夫よ。殺したりはしない、絶対に」

「ふふふ……王都の小娘が、また世の相手になるのか?良かろう、小僧の前に貴様を葬ってくれる!」

「悪役面してんじゃないわよ、さっさと目を覚ましなさい馬鹿魔女がぁ!」

「ば、馬鹿だと?世を愚弄ぐろうするのか貴様ぁ!」

イザベルは氷の刃を降らせ、アリアは竜巻を起こして応戦している。

どちらの魔法も力も、周囲を少々巻き込み要素が高すぎるようだ。

「おい、サツキ?止めなくていいのか?」

「この状況で僕に言わないで下さい。アルフレドさんこそ、今回何もしてないじゃないですか!」

彼女たちを傍から見守る彼らは、そんな言葉を交わす。

だが皐月の視線はアルフレドの背後に目が行く。

「(ディーネ……)」

倒れている彼女の名を思い浮かべるが、やはり返事はない。

当然だ。先程息絶えたばかりなのだから……。

「アルフレドさん、街の人たちの状況とか平気ですか?」

「ん?どうした、いきなり」

「僕に出来る事があれば、何でもしますから手伝わせてください」

「ならお前はあっちだろ。あのお姫さんの傍にいてやれよ、背中を護れよ見習い」

皐月は背中を叩かれて、前へと押し出される。

「こっちは任せろよ、サツキ」

「はい!」

大きく挨拶をしたものの、一つの疑問が頭の中を通り過ぎる。

「(僕、いつから見習いになったのだろうか?)」

そんな考えを抱きながらも気持ちを切り替える。

今はそんな場合ではないのだから。

「はああぁぁっっ!!」

アリアとイザベルの間に、皐月が飛び込んだ。

地面に突き刺さるように出した腕は、かすり傷一つ付いていなかった。

「アリア、やっぱり僕がやっていいかな?」

「なっ、何言ってるのよ!そんな事させる訳には……?」

アリアは言葉を飲み込んだ。

男は背中で語るなどという言葉を助長するように、皐月の体内からさっきよりも魔力が溢れ出ている。

それがアリアの目にはオーラとして映り、問答無用という雰囲気に見えてしまったからである。

アリアは無言でファランクスを地面に刺し、深呼吸して口を開いた。

「――分かったわ。皐月の力、見せてみなさい。王都ドミニオン第三王女アリア・R・スコーリアが見届けてあげるわ!(見せてみなさいよ。貴方が言った『正義の味方』の姿を)」

「……行って来ます」

皐月はそう言って、足を進めた。

何かを決意した皐月の瞳の中には、小さい光と共に薄く魔法陣が輝いていた事を誰も気づきはしなかった。

ただ一人を除いては――。


『さぁ見せてみてよ、キミの力を。善に転ぶか悪に転ぶかの天秤の結果をさ』










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