第30話「浮かぶ魔法陣」
「全く……キミは余計な事をしてくれるね、ホントに……」
空中で胡坐をかいて呟く。
天界にいなくても、どこにいるかは気配で分かってしまう。
間接的とはいえ、ボクは彼と繋がっている。
「どうしたら良いと思う?……世界樹」
ボクの言葉に反応するようにして、世界樹は枝を揺らして葉を落とす。
ひらひらと葉は目の前を通っていく。
左右に揺れながら、ゆっくりと……。
「――そう。じゃあボクも少し……」
手伝おうという行動をした途端、変わった気配がボクの世界樹を揺らす。
「……いや、やめておこう。もしかしたら、彼女がこの場を上手くまとめられるだろうね。キミもそう思うだろう?」
ボクはそう世界樹に話しかけながら、この真っ白な世界で目を瞑った。
ここでボクが動くべきではないだろう。
これは彼らの物語で、彼らの運命だ。
ボクはもう少しだけ休ませてもらおう。
いつか来るその時まで――。
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『まさか私の名を知っているとは、ただの人間だと思っていたが……』
彼とは初対面のはずだが、僕の脳内で彼の名前が浮かび上がる。
――クロノス……何でこの名前を。
そう頭の中で考えても答えは見つからない。
ただ僕が分かる答えは、クロノスという名の人物から
「……っ……」
周囲を観察するが、何度も確認しても僕と彼以外は動いていない。
完全に僕らだけが動けている。
『人間は愚かだ。
僕が一つの違和感に気づいた。
このクロノスという人物は声を発していない。
直接僕の頭の中に話しかけているようだった。
――隙がない。
彼の周囲、身体を見た素直な結果だ。
『――やめておけ。お前のような人間には、私に傷をつける所か近づくことすら出来ない。私が近づかない限り、お前は私に触れる事も出来ないさ』
大した自信だと思ったが、僕は彼の言葉を否定出来ない。
ここで動いているのは僕と彼だけで、誰かの援護もある事は皆無と言って良いだろう。
「……貴方は何者ですか?」
『ほう?てっきり冷静さを欠いて
褒められてる気がしないが、今は至って冷静だと思う。
彼女を無造作に傷つけなかった事を思えば、彼の介入は感謝する所だろう。
だが、彼が何故ここに現れたのかが分からない。
『私はクロノス。いわゆる神という奴だ』
「自分で神っていう人ってとても痛いですよね……ノートでも拾いましたか?」
『お前、私を馬鹿にしているのか?そしてノートとは何だ』
「気にしないで下さい。ただの出来心です」
この辺にしておかないと僕が殺されそうだ。
『――さて、私も暇ではない。本題に入らせてもらおうか』
「…………」
何だろうか。さっきから僕の言葉を聞いてくれないようだ。
『お前の感情は実に不安定だ。その
「僕は冷静ですよ。それはさっき貴方が言ったじゃないですか」
『それは確かに言ったが、それは表面上の話でしかない。今のお前は表面上は出来ていても、中身が全然ダメだ。……何故リンはこの者に執着していたのか理解できん』
「リン?……」
その名が出てきた瞬間、僕の脳裏にさっきの言葉が浮かぶ。
――私はクロノス。いわゆる神という奴だ。
その言葉に嘘は無いだろう。
実際に時を止めているし、『リン』という知っている名前を呼んだのだ。
『その様子はやはり、リンを覚えているのか。ふ……なるほど。彼はここまでを理解していたのか』
「リンの事は覚えてますけど。貴方はリンとは知り合いなんですか?」
『――友だ。そして彼は死んだ。だから私はここへ来たのだ』
彼の視線が一変する。穏やかな空気が寒気となって変貌する。
カチカチと音が響き、彼の姿が目の前から消える。
「……っ!?」
『お前の動きは
――何処にいるのだろうか。
周囲を警戒するがどこにも気配は見当たらない。
『お前に良い事を教えてやろう』
「くっ!」
背後から気配があった瞬間、僕は思い切りに腕を横に振るった。
だがそこには誰もおらず
『闇は己の影。闇が深ければ深いほど、その影は己を包み込む――』
何を言っているのだろうか。
『――己が持つ闇からは逃げる事は出来ない。人間は弱く、脆く、そして傲慢な生き物だ』
「……さっきから何が言いたいんですか!人間は確かに傲慢ですけど、みんながみんなそんな人たちだけとは限らないじゃないですか!」
『いや、これは確信している。現にそれは現実でお前が証明しているじゃないか』
「そんな事……」
『――お前はただ認めたくないだけだ。己の纏う闇に。自らが隠してきた闇を』
僕の中にある闇……。
そんな言葉を連想しながら、僕は自分の足元に視線を向ける。
――闇は己の影。
ならば今の僕は、彼女を傷つけようとした僕は……。
『……ふ……私の時間はここまでだ。ではな、呪われし能力者よ』
「ま、待って!」
カチャン、と針の音がその場で響く。
僕は静止した世界から、強制的に追い出されてしまった。
「くそっ!……」
僕は時間が進み始めた瞬間、そんな言葉を吐いて地面を踏んだ。
呪われし能力者って僕の事なのだろうか。
それが聞きたかったのに。
何も聞けぬまま、一方的に意味の分からない事を言われ続けてしまっただけだ。
「サツキ!あぶねぇ!」
「――っ!?」
アルフレドさんの声が耳に入り、咄嗟に背後を警戒した時だった。
イザベルが持つ氷の槍の奥。
その大空に浮かぶ大きな魔法陣を見た瞬間。
僕はまた大きく鼓動が跳ねる。
そして、氷の刃は僕の身体を貫いたのだった――。
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