第20話 冬休み
冬休みに入りセンター試験へ向けてラストスパートだ。
〜帰省中の真美の家〜
圭くんは推薦でセンター試験は免除されているので、私の勉強を手伝ってくれている。
頑張らなきゃ!一緒にK大行きたいもん。
でも…あの日から佑介の寂しそうな笑顔が忘れられない…。私、佑介を傷つけたよね。
あの子は佑介を笑顔にしてくれるのかな…。
「真美さん?…真美さん?」
ハッ「ごめん、ここわからないや…」
苦笑いをする真美。
いかん、いかん。勉強に集中しなきゃ。
圭人はなにかを感じるがそのまま真美に勉強を教えた。
数時間後
「さ、ひと段落したのでこの辺で今日は終わりにしましょう」
んーっと伸びをする真美。
「…私、K大行けるかな…?」
「大丈夫ですよ。こんなに頑張ったんですから。自信もってください!」笑顔を見せる。
「ありがとう。あ、お母さん圭くんの分も夕飯作ってくれるって!だから食べてって!」
「いいんですか?手料理なんて久しぶりだな…」少し嬉しそうに顔を赤くする。
「え、圭くんのお母さんは作らないの?」不思議そうに尋ねる。
少し顔が暗くなる圭人
「…母は働きもせず、男と遊んでいてあまり帰ってきません。何年か前は姉が作ってくれていたのですが…姉も結婚が決まり、婚約者と同棲しています」
「じゃあ、家でも1人なの?」
「はい…」
切なくなる真美。
「冬休みの間、私の家にいる?毎日来るのも大変だし」
「いえ、そんなわけにはいきません。迷惑はかけられません」
「じゃ、私が圭くんの家に作りに行く!たいしたもの作れないけど…」
圭人も真美も顔を赤くした。
「…嬉しいです。でも、たまにで大丈夫ですよ。ありがとうございます」
ニコッと笑顔を見せる真美。
圭人が急に正座し、フウーと深呼吸をした。
「ま、真美さん。ぼ、ぼくと婚約してください!冬休みが終わったら届けを出しに行きたいです…」
と言いながら指輪を出した。
「え?…」驚く真美。
「クリスマスプレゼントです。婚約指輪はまだ買えませんが、ペアリングくらいはつけたいと思って…」照れながら真美の手を取る。
「ありがとう。うれしい!」
眩しいくらいの笑顔を見せた。
圭人は真美の指に指輪をはめ、ギュッと抱きしめた。
そして夜、圭人は真美の両親に挨拶をした。
『婚約させてください』と。両親は真美に相手が決まったことを喜んだ。圭人が学年1位の秀才であることにも大喜びだった。
その頃佑介。
〜高級料亭〜
スーツを身にまとい、父親に言われるがまま連れて来られた佑介。
そこには着物姿の桃華と桃華の両親が立っていた。
父「お待たせしてしまって申し訳ないです。ささ、お座りください。」
全員席に着く。
桃父「この度は婚約ということで、本日顔合わせをさせていただき、誠に光栄に思っております。今後とも宜しくお願いします」
父「いやー、トントン拍子に話が進んで何よりですよ。息子もこの家を継ぐ決心をしてくれたようで、安心しました。桃華さん、息子をよろしく頼みますよ」
「は、はい。もちろんですわ」少し顔を赤くする。
父「しかし、キレイな娘さんですな。こんなキレイな奥さんをもらうんだ。お前もありがたく思いなさい。黙ってないであいさつくらいしたらどうなんだ」
少し強めの口調で佑介に言った。
母は心配そうに見つめる。
ゆ「正式には大学を卒業してからにしてください。学校には冬休み明けに婚約届けを出しますよ。これで卒業もできます。大学の勉強にも専念したいので、あまり、お二人で暴走しないでいただきたい。今日は顔合わせですよね?みなさんのお顔は拝見させていただきましたので、本日は失礼させていただきます」真顔で話し、席を立つ佑介。
父「な、なんだその言い方は!失礼だぞ。待ちなさい!」
ご立腹の父を無視し、部屋を後にする。
母「申し訳ありません。機嫌が良くないようで…。少々失礼いたします」
母は佑介を追う。
桃母「今日は何かあったのでしょうね…。桃華?いつもはちゃんと仲良くしているのでしょう?」
桃「ええ。もちろんですわ。学校では仲良くて有名ですわ。今日は疲れてらっしゃるのよ」作り笑顔を見せる桃華。
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母「佑介!待ちなさい!」
振り返る佑介。母が走ってきた。
ゆ「母さん…。なんだよ。あっちにいなくていいのか?」
母「佑介…。もしかして好きな子がいるの?また、悪い女に騙されてるんじゃないの?桃華さんとってもキレイでいい子そうじゃない」
ゆ「…いないよ。騙されてもいない。でも、桃華のことは好きになれない。たぶん一生。だからアイツが俺を好きなのが辛いんだ…」
母「どうして好きになれないの?それならなんで婚約なんてしたの?…誰かのため?」
ゆ「今日は疲れてるんだ…。帰るよ」
——佑介…。
店を出て行く佑介を止めることはできなかった。
パタン。母が個室にもどる。
母「大変失礼をいたしました。今日は体調が思わしくなかったようです」
桃父「そうでしたか、無理をさせてはいけませんからね」
父「申し訳ありませんね。ですが、大学卒業をしたら正式に結婚すると言ってますので、とりあえず今日は5人で飲みましょう」
残った5人は今後のことや世間話で盛り上がった。
佑介は1人家に戻り、暗い部屋で座り込んでいた。
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「今日はごちそうさまでした。とても楽しかったです」
圭人は頭を下げて真美の家を後にした。
真美母「圭人くんいい子ねー。あんたにはもったいないわぁ」
真「いつも1人なの。だから、時々圭くんの家行くから」
3日後圭人の家に行った。
——なにここ?高級マンション?!広っ!
ここに1人でいるの…。
「無駄に広いでしょう。ホント無駄…」
寂しそうだった。
それもそのはず、広いだけの部屋に生活感はなく、部屋のなかは暖かいのに、冷たい雰囲気が漂っていた。
「キッチン借りるね!」
2人で買い出しに行った食材で作り始める真美。
ガチャ。
そこへ、珍しく母が帰ってきた。
3人の時が一瞬止まる。
「あ、初めまして。圭人さんとお付き合いさせてもらってます。深瀬真美と言います」
緊張しつつも自己紹介をした真美。
「そう」一言だけ言って圭人を見た。
「母さん、珍しいねこんな時間に帰ってくるなんて…」
下を向く。
「あなたがいないと思ったから、着替えを取りに帰ってきただけよ。あの人に呼ばれたんですってね。平家をあなたにくれる気になったのかしら?あなたが出て行ってくれたら、私はここで今の彼と暮らすわ。高校卒業したら、一人暮らししてくれる?平家に面倒みてもらいなさい」
と寝室に入り、着替えを取り家を出ようとする母。
「ちょっと待ってください!なんで、自分の子にそんなこと言えるんですか?圭くんが人と距離を置くのはあなたのせいなんじゃないですか?」つい大声を出してしまった。
キッと真美をにらんだ母。
「あなたに何がわかるの?私はこの子の顔が嫌いなの!あの男に似てるこの顔も声も!!見てるだけで、声を聞くだけであの人を思い出す。私はこの子を愛せないのよ。一緒にいたくないの。この子が好きならさっさと同棲でもして一緒にいてあげたら?」
そう言い放ち出て行った。
圭人は下を向いたままだった。
真美は圭人が自分の顔が嫌いだって言った意味がわかった。苦しくなった…。ずっとそう言われてきたんだってわかったから…。圭人が顔を隠すのも、人と話をしないことも…。
圭人に近寄る真美。
「圭くん?私は好きだよ。圭くんの顔も、声も、優しい所も…」
ドンッ!急に真美をつき飛ばした。
「それは、平佑介に似てるからですか?顔も、声も。あの人に似てるから好きなんですか?僕のどこがいいんですか?あなたにとって僕は2番目の男なんですよ。いや、2番目でもないか。本当は同情で一緒にいるだけだろ!」
冷たい目をしてる圭人。
ぺたんと座り込んで呆然としている真美を押し倒し、強引にキスをした。
そのまま服を捲り上げ、胸に手が伸びる。
「ちょっと、やめて!やめてよ!こんなのイヤだよ。圭くん!ねー、圭くん!」
押しのけようとするが力が強くて動かない…
「婚約するんだ。僕が好きならべつに構わないだろ!」
スカートの中に手が…
ドガッ!ボゴッ!
圭人の腹に膝蹴りと顔をグーパンした真美。
ハッと我に返り唖然とした圭人。
乱れた服を掴み涙をこらえていた真美。
「真美さん…こんなつもりじゃなかったんです!こんなことするつもりじゃ…ごめんなさい…本当に…こんなこと…」頭を抱えた。
「圭くん…。それが圭くんの本当の気持ちなの?
私、今は圭くんが好きだよ。佑介は昔憧れてた人。でも、わからなくなっちゃった…。今日は帰るね…」
コートを取り足早に家を出て行ってた
呆然とする圭人。
しばらくして周りを見渡す。
部屋に残ったのは、作りかけの料理と真美からのクリスマスプレゼントだった。
それを見つけた圭人は中を開ける。
そこには、手作りのクッキーとマフラー、クリスマスカードが入っていた。
“クリスマスプレゼント遅くなってごめんね。
クッキー焼いてみました!口に合えばいいけど…。あと、マフラーは圭くんに似合うとおもって選びました。
私、大学受験ぜったい頑張るから、ずっと一緒にいてね…。恥ずかしいからメッセージにしちゃってごめんね!大好きだよ。”
——なんで、あんなこと言ったんだろう。真美さんをなんで信じられなかったんだよ…。
圭人は泣いた。声をあげて泣いた。もしかしたら、真美はもうもどってこないかもしれないと思いながら…。
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