俺の能力は○○だ…! ←なんで明かしちゃうの?

ちびまるフォイ

わざわざ能力を解説する平和的な理由

「ついに来たぞ……! 魔王城!!」


玉座で待っていた魔王は座りすぎて血行が悪くなり、

エコノミークラス症候群になっていた。


「よくきたな、勇者よ。ここまで来た事を誉めてやろう」


「たぁーー!!!」


「待って待って」


切りかかる勇者を慌てて止めた。


「今話してるから。わかるでしょ」


「魔王めっ……! 精神攻撃するつもりか……!!」


「こちとらずっとここで待ってるわけ。ね?

 お前に話すいい感じの悪いセリフも用意してるんだよ。

 準備してるんだから少ししゃべらせてよ」


「わかった。死ね――!!」


「聞けって!!!」


魔王は勇者の動きを止めた。

どんなに体を動かそうとしてもびくともしない。


「ククク……これが私の能力【デスバインド】

 貴様の血管に働きかけて魔力供給を体内から絶つことで

 魔法を使うことはおろか、体を動かすことができなくなり痔になる」


「なん……だと……!?」


「私の話を邪魔したバツだ。

 ドーナツ型のクッションが手放せなくなる生活になるがよい!!」


「貴様、どうしてそれを俺に教えたんだ!

 だまって魔法を唱えればよかったはずだ!!」


「クックック、貴様に話す義理がどこにある?」


魔王はいっそう悪い顔をして勇者を眺めた。

その表情も勇者が拘束をぶち破った瞬間に崩れた。


「なにっ……!? 我が魔法を破っただと!?」


「魔王も大したことないんだな。

 俺のこの武器【秘剣・氷柱鏡】は相手の魔法を無力化し

 無力化した魔法をマイレージに変える」


「貴様……!! その力でどれだけ旅行に行った!!」


「100から先は数えてないな」


「クッ……! 面白い。しかしなぜだ勇者。

 その剣の秘密をしゃべらなければ、我は魔法を使い続けて

 貴様は有利に戦闘を運ぶことができただろうに」


「これから倒される魔王に話しても意味があるのか?」


勇者は剣を構えて斬りかかった。

魔王は歌を歌うように口から呪文をつぶやく。


「魔王! いったい何を!?」


「フフフ、魔法がお前にきかなければ自分にかければいい。

 これは自己強化魔法【レッドブル】。翼を授ける力だ」


「どうしてそれを明かした!」


「レッドブルの第二の効果で、自分が不利になるほど

 すべての力が強化されるのだよ!! ハハハハハ!!」


「それで自分の技をわざわざ解説したのか!! あえて自分を不利にするために!」


「さぁ、勇者よ!! 我は脇フェチだ!!

 魔王族の女性の脇を見るとしんぼうたまらなくなる!!」


魔王は自分の親友にも話したことのない性癖を暴露した。

後戻りできなくなった魔王はますます強くなる。


「しまった! 特殊な性癖を暴露して魔王がまた強くなった!!」


「さらに我はとっても毛深い!!

 このマントの下には胸毛から尻毛まで毎日剃らないと

 肌が見えないほど毛深いのだ!!!」


「なにぃ!? そんなことまで話すのか……!?」


体育の着替えのときもひとりトイレに隠れて着替えた魔王。

その長年積もった秘密を明かしたことでますます強くなる。


「しかし魔王……、その魔法が使えるのはお前だけだと思っていたのか?」


「なに……!? 勇者、貴様! この禁断の黒魔術を使っていたのか!!」


「そうさ! あと俺は子供のころに遠足のバスで思い切り酔って、

 当時好きだった女の子に吐きかけてしまったことがある!!」


「や、やめろぉぉ!!」


勇者は自分のトラウマを魔王に話したことで、レッドブルの魔法で強くなる。


「しかし勇者、まだまだ甘いな!

 実は我は第36形態まであるのだ! これはまだ完全体ではない!!」


「魔王め……! 割と有益な暴露をすることで強くなったか!!」


「さらに、36形態あるうちの27形態は最近変身してないから

 上手くいくかどうか不安にも思っている!!!」


「なんだと!? それすらも暴露してますます強くなったのか!!」


魔王の自己強化は止まらない。


「しかし魔王よ……お前はまだ知らないようだな」


「なんだと?」


「俺は勇者でないということに」


「なっ……!」


「そう! 俺は勇者などではない!!

 本当の勇者は外が寒いという理由で実家にこもっている!

 俺は勇者の父親の友達の親戚のいとこなのだ!!」



「甘いな! 我の正体も魔王などではない!

 真の魔王は我を倒した後、玉座の後ろにいるのが本当のボスだ!」



「そんなことより、俺はロリコンだ!」


「我は女装癖がある!」


「俺は身長が140cmでシークレットブーツを履いている!!」


「我の休日はマントの下に何も着ないで過ごすのが日課だ!」


「俺は――」

「我は――」


 ・

 ・

 ・


2人の暴露合戦はどこまでも続いた。


暴露するネタが尽きたとき、魔王がついに聞いた。


「勇者よ、なぜだ……なぜ自分のことを話して、

 自分を不利な状況にさせていたのだ?」


「それは魔法でのパワーアップが……」


「レッドブルなどという魔法はない。

 自分の能力や魔法を解説したところで、能力がバレて不利になるだけだ」


「それなら、魔王お前だって……どうして暴露したんだよ」



「我は……」

「俺は……」




「「 友達になりたかったんだよ 」」



自分のすべてをさらけ出した二人は意気投合して親友になった。

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