第6話 ルカ、再び王都へ
一悶着あった日から数日が経過した。
「ふわああ……!」
俺の隣には、目を輝かせているミリムがいる。
「ミリムちゃんは王都に来るのは初めてなんだったな」
「はい! こんなに人が多いだなんて知りませんでした!」
今、眼前には王都の街並みが広がっている。
予定より少し遅れてしまったが、俺達は無事に王都に辿り着くことができた。
「興奮しているところすまないが、王都にはあまり長居はしない予定なんだ。多分、観光している余裕もないだろう」
「あ……うん、わかってるよ。王都には王様と王子様へのご挨拶と、旅に必要な物を買い揃えに来たんだよね。観光したいなんてわがままは言わないから安心して」
そう口では言っているが、ミリムは明らかに残念そうな顔をしていた。
すると、スミスが俺の肩を叩き、耳元で囁いた。
「なぁ、彼女にとっては初めての王都なんだから、ちょっとでも観光させてやらないか? 買い物ついでに美味い店に連れていってやるとかだけでも、良い思い出になるだろうしさ」
「……ああ、そうだな」
次、王都に来られるのはいつになるだろうか。
そもそも、この国に戻ってくる日すらわからないような旅だ。
幸い、直近の予定がそこまで押しているわけではないから、ちょっとした観光くらいならできるだろう。
ふと視線をミリムへ移すと、彼女は人混みの中へ入ろうとしていた。
彼女の歩く速度は周囲の人に比べて遅く、そのまま人混みに入ってしまうと流されていってしまいそうだ。
「待て、ミリム!」
俺は慌てて彼女の両肩を掴み、こちらへと抱き寄せた。
「へっ!? ル、ルカ君!?」
「一人で勝手にどこかへ行こうとしないでくれ。王都は人が多いから迷子になるぞ」
「う、うん。ごめんなさい」
ミリムは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。
興奮する気持ちもわからなくはない。
人も物も少ない閑静な村と違って、色んな人と物が溢れてる騒々しい王都は彼女の目には新鮮に映るだろうからな。
しかし、このまま歩いていると離れ離れになってしまうかもしれない。
「ミリム。手を繋いで歩こう」
「……え?」
「はぐれてしまったら大変だろう?」
俺はミリムに右手を差し出す。
彼女は更に顔を赤くして、俺と俺の手を交互に見た。
「俺と手を繋ぐのは嫌か?」
「う、ううん! そんなことは、無いんだけど……」
しどろもどろになるミリムを不思議に思いつつも、俺は彼女の手を取った。
「ふぇ!?」
「ほら、そろそろ移動しないと。いつまでもここにいると他の人の邪魔になるだろう」
俺は彼女の手を引くようにして歩き出そうとする。
すると、俺の斜め前に立っていたスミスがこちらをジトッと見ていることに気づいた。
「どうしたんだ、スミス」
「いやぁ、すみませんね。俺みたいなお邪魔虫がいて」
「うん? 何か邪魔するようなことをしてたか?」
「まさか気づいていらっしゃらない!?」
俺が首を傾げると、スミスが呆れたようにため息をついた。
「こりゃあ道のりは長いぞ、ミリムちゃん」
「わ、わかってます。ルカ君が鈍いことくらい……」
「二人とも何の話をしているんだ?」
二人だけで話が通じ合っているみたいだが、この数日で随分と仲良くなったんだな。
「おっと、あまり無駄話はしていられないな。そろそろハルシャのところに行こう」
殿下は正式な謁見の前に会いたいとのことで、王都に着いたらまずはハルシャの家で会おうと約束をしていた。
「んじゃあ、俺は宿に馬預けてくるわ」
「スミスは一緒に来ないのか?」
「俺は馬の世話もあるからな。俺のことは気にせず二人だけで行ってこいよ」
「そうか。そういうことなら俺たちだけで行くか」
ミリムはコクコクと頷いた。
俺達はスミスと一旦別れ、ハルシャの家へと向かうこととなった。
ハルシャの家に着くと、馬車が一台停まっていた。
王家の紋章……どうやら俺達と同じく殿下もご到着されたらしい。
ちょうどよく馬車から降りてきた小柄な人影に向かって、俺は声をかけた。
「殿下!」
俺の声に反応したその人物がこちらを振り返る。
「おお、ルカ殿! 来てくださったか!」
こちらが駆け寄るより先に、殿下の方から近づいてくる。
「ご無沙汰しております」
「ああ、久しいな……そちらの方は?」
「彼女は俺の幼なじみのミリムです。ミリム、こちらの方はオリバー・リーリエ・カルパーナ様だ」
「えっ、王子様ですか!?」
ミリムは戸惑いながらも、身だしなみを軽く整えてから殿下に礼をした。
「は、初めまして。ミリム・ハイネンと申します」
「初めまして、ミリム殿。ルカ殿には大変世話になっている……が、何故ミリム殿もこちらに?」
「それについてなのですが……」
俺は殿下に、ミリムが旅に加わった経緯を説明した。
「そうであったか。しかし、かなり危険な旅に彼女はついていけるのか?」
「だ、大丈夫です! ハルシャさんから習った魔術もマーラさんから習った短剣術もバッチリですので!」
「む、ミリム殿はハルシャ師匠に魔術を習っていたのか?」
「はい! わざわざ村までお越しいただいて習っておりました」
俺も王都に来る道すがらで聞いたのだが、ミリムに魔術を教えていたのはハルシャだったらしい。
月に一度村にやってくる馬車がいたから、恐らくそれに乗って来ていたのだろう。
母さんが短剣をミリムに仕込んでいたのにも驚いたが、ハルシャまでグルだったのにはため息が出た。
幸い、反応を見るに殿下はグルではなかったようなので安心した。
ミリムが俺について行きたいと言ったからだとはいえ、俺に隠して特訓をしてあげてたなんて、何を考えているんだと彼らには言ってやりたい。
「ふむ。では、ミリム殿は私の妹弟子になるな」
「え!? そうなのですか?」
「ああ。私もハルシャ師匠に魔術を習っている身だ。それに、マーラ殿の師匠にも剣術を習っている」
「そ、そうだったんですか!? 私、そんな凄い人に教えていただいてたなんて全然知りませんでした……」
「ハルシャ師匠が気を使ったのだろうな」
確かに、殿下を教えている人物が師匠になったとミリムが知ったら、彼女が緊張し過ぎて授業にならなかったかもしれないな。
そういう気配りはできるようになったんだな、ハルシャのやつ。
「すまない、つい立ち話をしてしまったな。ハルシャ師匠もエレーナ師匠も中でお待ちだ」
「エレーナさんも来ているのですか?」
「ルカ殿がそろそろ着く頃だろうと思ってお呼びしていたのだ。お待たせするのは悪いから、早く中へ入ろう」
そして、俺はハルシャとエレーナに久しぶりの再会を果たすのだった。
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