第二章
第1話 ルカ、秘密を教えられる
村に帰った後も、俺は鍛錬を続けた。
もちろん無茶しない範囲でやってたし、それなりに子供らしいこともした。
そんなことをしているうちに学校へ入学する歳になり、学校へ通い始めて……気づけば、俺は10歳になっていた。
この国では平民でも6歳から10歳までの子供を保護者が学校に通わせる義務がある。
その4年間で、子供達は読み書きや計算などを学ぶ。
今日、俺はその学校を卒業した。
他の村の子供達も通う学校ではあったが、どこも小さな村であったため、クラスメイトの数は両手で数えられる程度しかいなかった。
しかし、そのおかげなのか、前世では全くと言っていいほど話しかけられず友人ができなかった俺にも友人ができた。
まあ、これは平民と貴族の違いもあるのかもしれない。
この国には貴族の子供達だけが通う学校が存在する。平民の子達が通う国立の学校とは違って、貴族達が金を出し合って運営している学校だ。
そこは簡単に言えば貴族社会の縮図であり、小さな社交場だった。
貴族の中でも上流に当たる階級の子供達が幅をきかせていたし、中流・小流階級の子供達はそんな彼らに媚びを売る。
貴族社会では当たり前の光景だし、悪いこととは言わないが……ぶっちゃけ、俺には全く合わない空間だった。
そもそもリーリエ家はエルフを娶ったことで、公爵家ではあったが貴族社会から煙たがられてたところがあった。それに、俺は俺で色んな奴に戦いを申し込んでいた。
今思うと、こんな俺に絡んでくる奴なんて普通はいないな。もしいたとしたら、そいつの精神を疑うよ。
だが、今世では友人ができて本当に良かった。
……しかし、ミリムを除く全員から初対面の時に「おじさんみたい」と言われたのは悲しかったな。
俺の一体どこがおっさん臭いんだ?
自分で言うのはあれだが、見た目は年相応に可愛いと思うんだ。
言動がおっさんみたいなんだろうか……いや、そんなはずはない。
前世28歳+今世で思い出してから5年=精神年齢33歳がおっさんなはずがない。
同級生のお父さんの中に年下の人がいたけど、まだお兄さんで通るはず……。
「ルカ、お客さんだよ」
そんなことを考えていると、母さんに呼ばれた。
もう既に日は沈んでいて、外は暗い。
そんな時間に来る客なんて誰だろう?
玄関まで行くと、見慣れた金色の髪を持つ少女が立っていた。
「あっ、ルカ君。こんばんは」
「ミリム? どうしたの、こんな時間に?」
両親の付き添いで来たのかと思ったが、そばに彼らの姿は無い。
そもそも、母さんは俺に客が来たと言っていた。
ということは、ミリムは1人で俺を訪ねて来たのだろう。
「実は話したいことがあるんだ。時間大丈夫かな?」
「時間は問題ないよ。外は暗いし、家の中に入って話を……」
「ううん、できれば二人っきりで話がしたい」
ミリムは思い詰めたような顔をしていた。
いつも明るい彼女がそんな表情をするなんて珍しい。
「……わかった。でも、危ないから家の前で話そうか」
そう提案すると、ミリムは黙って頷いた。
俺が外套を羽織って外に出ると、冷たい風が吹いた。
春先になって暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ冷え込む。
外套を羽織っていても、長時間いるのは辛い。
外で話すのは流石にまずかったか。
しかし、中で二人きりで話すとなると俺の部屋ぐらいしかないし、壁が薄いから会話を聞かれるかもしれない。
「ごめんね、無理言っちゃって。でも、どうしてもルカ君にだけ話したくて」
「大丈夫だよ。でも、ミリムが風邪を引いたら大変だから、無理しないでね」
そう言って微笑むと、ミリムは頬を朱に染めた。
「ありがとう。早速だけど、聞いてもらっていいかな? ……私が、ルカ君に隠していたことを」
「僕に隠していたこと?」
「うん……」
ミリムは深呼吸すると、不安そうな顔で口を開いた。
「実は私、お父さんとお母さんと血が繋がっていないの」
彼女の手は強く握り締められていて、わずかに震えていた。
「赤ん坊の時にね、この近くの森で捨てられてたみたいなの。森の入口付近だったから良かったけど、あと少し見つかるのが遅かったら魔獣に食べられていたかもしれないって、お父さんは言ってた」
「見つけたのは村長さんなの?」
「うん。夜中に知らない人が森から出て来て村の近くを通ったって情報があって、お父さんは村の人達を連れて森の近くに行ったの。そうしたら、布に包まれた私がいたんだって」
「じゃあ、村の人達は知ってるんだね」
「全員じゃないよ。一緒に見つけた村の人達ぐらいしか詳しいことは知らないと思う。でも、私が実の子供じゃないのは皆わかってるんじゃないかな」
ミリムが自分の髪に触れる。
彼女の父親は黒髪、母親は茶髪だ。
しかし、彼女は金髪。
それだけで血の繋がりが無いと決めつけることはできないと思うが、大抵の人は実子では無いと思うだろう。
「それにね、私は多分エルフの血を引いてるんだと思う」
それは何となくわかっていた。
彼女の見た目はエルフの特徴に当てはまるからな。
「綺麗な金色の髪と青い瞳をしているもんね」
「き、綺麗だなんて……」
再び頬を赤らめたミリムだったが、すぐに暗い顔になった。
「ルカ君は褒めてくれたけど、私はこの髪も瞳も嫌いなの」
「どうして?」
「お父さんともお母さんとも、村の人達とも違うから変に目立っているでしょう? それに……」
「それに?」
「私がエルフだって証明しているみたいで、どうしても好きになれないの」
浮かない顔をする彼女を見て、俺は首を傾げた。
「ミリムはエルフが嫌いなの?」
彼女がエルフ嫌いなんて初耳なんだが。
「ち、違うよ!」
「じゃあ、どうして?」
ミリムがチラッと俺の顔を見た。
彼女は不安そうな表情をしていたけど、その理由がわからず、俺はその目をただ見つめ返していた。
「……ス様は」
「うん?」
「ガイウス様は、エルフが嫌いなんでしょう?」
……はい?
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