第12話 元悪徳貴族、父さんの仮説
「父さんが俺を疑っていなかったことは嬉しく思う。だが、国王陛下や国中にかけられた呪いは実際に存在するのだろう?」
俺は呪いをかけていないが、実際に呪いの影響が出ている。
一体、いつ、誰が呪いをかけたのか。
「その事についてなのですが……私はとある仮説を立てています」
「仮説?」
父さんが頷く。
「ガイウス様は、『森の解放』という組織をご存知ですよね?」
「……当たり前だ」
――エルフ族救済組織「森の解放」
人族によるエルフ族の迫害を止めさせ、エルフ族の尊厳を取り戻すことを目的としていた組織だった。
エルフ族というのは古くからこの土地の森に住んでいる先住民族で、金髪碧眼で見目が麗しく、人族よりも長命かつ生まれついての魔力量が多いことが特徴だ。また、魔術や呪術はエルフ族が最初に開発したと言われ、それらの扱いに長けている。
カルパーナ王国がある大陸には昔、大森林が広がっていたが、他の大陸からやってきた人族の祖先がそこに住んでいたエルフ族を追い払い、森を切り開いて人族の国を作ったという。
追い払われたエルフ族は残った数少ない森の中で暮らそうとしたが、少ない資源を巡って種族間で争いが起こり、多くの犠牲を出した後、生き残ったエルフ族の大半は人族の国に逃げこんだ。
だが、エルフ族が蛮族であるという間違った認識が人族の中で広まっており、長い間エルフ族は人族による迫害にあってきた。
奴隷商が表立った商売だった時代、奴隷として売るためにエルフ族は不法に捕まえられ、奴隷にされた後も家畜以下の扱いを受けていたらしい。
現在、多くの国で奴隷制度が廃止されてエルフ族の奴隷はそのほとんどが解放されているが、一部の奴隷制度が残る国では老若男女問わず美しい見た目のエルフ族は高値で取引されている。
そうした現状を打開しようと、エルフ族によって作られたのが「森の解放」という組織だった。
最初は誘拐され、不法に奴隷とされたエルフ族の人を救うための活動を行っていたが、次第に奴隷売買に関与していた人のみならず、エルフ族を迫害する人々に対しても暴力を振るうようになっていった。
組織が大きくなっていくにつれて暴力行為は激しさを増し、さらには人族と結婚したエルフ族とその子までも攻撃対象としだした。
確か、理由は「誇り高きエルフ族の血を汚した罪人だから」だったか?
奴らはそんな理由で、人族とエルフ族の混血児――「ハーフエルフ」と呼ばれる人達の命をも奪っていった。
「フェルが幼かった頃が一番活動が激しかったから、当時は必要以上の外出は許されなかったし、家も常に厳戒態勢だったな」
「国王陛下はハーフエルフですから、公爵家は大変だったでしょう」
そう。父上の再婚相手――フェルの母親はエルフ族の女性だったのだ。
貴族社会はエルフ族のことを快く思っていない奴らが多く、周囲からの反対も大きかったが、互いに一目惚れだったようで反対を押し切って結婚したらしい。
フェルが生まれてすぐに「森の解放」によるハーフエルフ虐殺事件が起こったから、小さい頃のフェルは安全のためにずっと屋敷の一室に閉じ込められていた。
俺が一緒に遊んでやれる時もあったが、俺は学校に通ってたし、その時はまだ家庭教師なんかもつけられていたから、フェルは1人で遊ぶ時間の方が多かった。
次第に表情が無くなっていくフェルを見て、何も出来ない自分に不甲斐なさを感じたのは今でもはっきりと覚えている。
「……話が逸れたな。それで、何故その名前が出てくるんだ?」
「私は、国王陛下や国中にかけられている呪いは『森の解放』の残党によるものではないかと考えています」
俺の眉間にシワが寄る。
父さんの顔は至って真剣であり、間違っても冗談ではないとわかる。
「だが、『森の解放』は壊滅し、各国にいた残党もいなくなったはずだ」
「森の解放」はカルパーナ王国だけでなく周辺諸国でも暴動を繰り返した。
被害が拡大するにつれて危機感を覚えた国々は、協力して「森の解放」を壊滅させることを取り決めた。
ある国は騎士団を総動員させ、ある国では傭兵まで雇って敵のアジトを突き止め、着実に向こうの戦力を削いでいく作戦をとった。
その結果、総本部のアジトを突き止めた時には既にまともに戦える者がおらず、その場にいた者達はあっさりと捕まった。
だが、アジトを全て潰しても「森の解放」はしぶとかった。
規模こそ小さくなったものの、残党達が活動を続けていたのだ。
特にカルパーナ王国は人族と共に暮らすエルフ族が多かったため、エルフ族で構成された「森の解放」の残党達が他国よりも多く隠れ住んでいた。
事態を重くみた当時の国王陛下は、王立騎士団のほぼ全ての部隊を投入して残党達の対処に当たらせた。
その甲斐あって、彼らは全滅したはずだ。
「ガイウス様が仰りたいことはわかります。今でも『森の解放』はガイウス様が騎士だった頃に完全に壊滅したとされていますから」
「なら、どうして」
「残党狩りの生き残りがいた。そう、私は考えているのですよ」
自然と、眉間のシワが深くなる。
「『森の解放』は呪術にも長けているものが多かったと聞いております。彼らが起こした事件のほとんどで呪術を使用しておりましたし、中には禁術とおぼしきものを使っていたという報告書もあります」
「それだけでは『森の解放』の残党がやったとは言い切れないだろう? 禁術を知っている他の誰かがやったのかもしれない」
「私も最初はそう思ってました。しかし、複数の呪いが広範囲にかけられていることを考えると、複数の人物が組織的に呪いをかけていると推測できませんか?」
確かに、複数の人間が徒党を組んで行っているのかもしれない。
それでも、俺は「森の解放」の奴らがやったとは思えない。
……いや、そう思いたくない、というのが正しいか。
その時、痛むはずのない右腕にズキッと痛みが走る。
俺はかつて傷跡のあった所に触れながら、その傷ができた時のことを思い出していた。
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