第4話 元悪徳貴族、呪いを知る
ここで、前世の俺の容姿について思い出そう。
亡くなる直前の俺は、身長198cmという巨体に、鎧を着ていてもわかるくらい盛り上がった筋肉を持っていた。
また、いかつい顔つきをしていて顎には無精髭を生やし、やたらと目立つ赤い髪は自分で切っていたためボサボサだった。
そこからついた社交界での俺のあだ名は「熊公爵」である。
さて、目の前にある絵本には、前世の俺のあだ名と同じタイトルがついている。
そして、前世の俺によく似た熊の絵までついている。もう嫌な予感しかしない。
周りの少女達を見る。みんな、目を輝かせながら俺を見ていた。
一呼吸おいて、俺は意を決して本を開く。
『熊公爵の横暴により、領民達は苦しい生活を余儀なくされていた。そんな時、公爵の弟が領民達のために立ち上がり、熊公爵を倒して新たな領主となり、領民達は救われた。』
絵本の内容は簡潔にまとめるとこんな感じだった。
「「「ルカ兄のお話、面白かった!」」」
「ルカくんはやっぱり読むのが上手だね」
子供に読み聞かせるのは初めてだったが、この子達には好評だったみたいだ。
でも、みんな頬を赤らめて、やたらと褒めてくるから少し怖い。
まあ、それは良いとして。この本、明らかに俺のことを書いてないか?
子供向けにわかりやすく柔らかい表現で書かれているが、俺の半生を書いているようにしか思えない。
確かに、領民達が暴動を起こしてそれに身内が加担するなんて話の題材としてはもってこいのものだろうから、こういうふうに絵本になっててもおかしくはないけど。
「そういえば、この絵本はガイウス・リーリエ様を題材にして書かれた本だったよね」
ミリムがふと思い出したように言った。
ああ、やっぱりそうなのか。
自分で自分を題材にした本を読むなんて、しかもかなり悪者っぽく書かれていたし、恥ずかしいのと悲しいのが混ざって複雑だ。
「ガイウス・リーリエ様って、あのガイウス様のこと?」
「そうよ。これは今の王様が即位なされた際に書かれた絵本だと聞いたわ」
え、こんな小さい子供も知ってるくらい、俺、有名人なの?
ていうか、なんで現王の即位と同時に俺を題材にした本が書かれるんだ?
……そういえば、あの絵本では弟が英雄みたいに書かれていたな。
「ねぇ、ミリム……今の国王様って」
恐る恐る聞く俺に、ミリムは首を傾げた。
「今の国王様はフェルディナンド・リーリエ・カルパーナ様よ。ガイウス・リーリエ卿の弟にあたる方だって、ルカくんが教えてくれたじゃない」
全身から血の気が引いていく。
この国では何らかの功績を挙げた人物が王として即位する際、その功績を記した本を出版することが多い。
恐らく、弟も領地運営を立て直した功績が認められて王になったのだろう。
だが、前王様には御子息が御二人いらっしゃったはず。
通常、王位継承権を持つ者が存在すれば、どんなに功績を挙げようとも王に即位することは無い。
なぜ、弟のフェルが王になっているんだ?
まさか、御子息が御二人とも王位を継ぐ前に亡くなられたのか?
「……ねえ、ルカくん大丈夫?」
俺が黙り込んだのを見て、ミリムが表情を曇らせた。
周りを見ると、他の少女達も心配そうに俺を見つめている。
「あ、ああ、大丈夫。ちょっと考え込んでただけだから」
「そっか……なら、いいんだけど」
口ではそう言っているが、納得いかないというふうにミリムの表情は曇ったままだ。
他の子達も納得できていないようで、気まずい沈黙が流れている。
いかん、このままではこの空気のまま読み書きを教えなければならなくなる。
何とかできないか考えていると、沈黙に耐えかねたのかニーナと呼ばれていた女の子が突然口を開いた。
「でも、ガイウス様はひどい人よね。あんなに素晴らしい王様に呪いをかけるなんて!」
……はい?
「ちょっとニーナちゃん。そんなことを言ってはダメでしょう?」
「だって、ガイウス様が呪いをかけなかったら、この国は平和だったんでしょ?」
もしかして、俺がフェルに呪いをかけたことになってる?
いや、そんなことやってないし、そもそも呪いをかける方法すら知らないんだけど?
「それ以上ガイウス様をひどい人のように言うと、もっと呪いがひどくなるかもしれないよ。そうしたら、呪いを解こうと頑張ってるルカくんのお父さんや色んな人達にも迷惑がかかっちゃうでしょう」
待てミリム。まだ情報の整理ができてないから、新しい情報を出さないでくれ。
俺は頭をフル回転させて、情報の整理に取り掛かった。
弟がなぜ王になっているのか。俺の呪いとは何なのか。そして、呪いのせいでこの国が平和では無くなったとは、具体的にどういう事なのか。
情報を整理しようとすればするほど、新たな疑問が浮かぶ。
これは、どうにかして調べないといけなさそうだ。
「ガイウス様の呪いの話より、ルカくんのお話を聞く方が楽しいでしょう? この話はもうやめにして、ルカくんから文字を教えてもらいましょう」
ミリムがそう言うと、他の子供達も嬉しそうに頷いた。
……まずは、彼女達に文字を教えるのが先か。
この教室は午前中で終わりのはずだから、調べるのは午後からになりそうだな。
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