第3話 元悪徳貴族、初ハーレムを経験する?
顔を洗う時、水面に映った自分の顔に驚いてしまった。
「なんなんだこの小動物は……」
ふわふわな栗色の髪、くりっとした緑色の目、真っ白な肌。そして、細身でありながら子供らしいふくよかさがある少年がそこにいた。
前世の俺とは対照的だ。
おかげで女の子だけでなく男からも怖がられてたなー。
まあ、俺が公爵家の嫡男だったせいもあるだろうけど。
「こういう子が大きくなったらモテるんだろうな」
騎士だった時も、功績を挙げた俺より後輩のイケメン騎士様の方が女の子から黄色い歓声をもらっていたからな。
そういえば、ファンレターなんてものをもらってるやつもいたっけ。
もちろん、俺は1通ももらったことがない。イケメン、爆ぜろ。
「おっと、そんなことを考えてる場合じゃないな」
急いで顔を洗い、身支度を整える。
読み書きを教える時に何を使っていたのか思い出せていなかったのだが、幸いなことに昨日のうちにルカは準備をしていたようで、1冊の本とペン、ノートが部屋の片隅に置かれていた。
朝食後、それらを持って何とか思い出せた待ち合わせ場所へ向かう。
その待ち合わせ場所の、村の中心にある大きな木の下には、既に4人の子供が集まっていた。
「……あ、ルカくんおはよう!」
最初に俺に気づいたのはミリムだった。
ミリムの言葉を聞いて、周りにいた子達もこっちを向く。
「「「ルカ兄、おはよ!」」」
ミリム以外の3人が同時に挨拶をする。
それを見て、俺の顔は引きつった。
「みんな女の子かよ……」
そう、目の前で俺を待っていたのは女の子4人。男は俺1人だけ。
「こ、これで全員かな?」
「うん。みんなルカくんの教室を楽しみにしてるから、休むなんて病気になった時ぐらいだよ」
なんと。ルカは女の子に囲まれながら読み書きを教えていたのか。
しかも全員と良好な関係を築いているようだ。これはちょっとしたハーレム状態じゃないか?
ガイウス・リーリエだった時は、生まれてから死ぬまで一度も女の子に囲まれたことがないのに。
「ルカくん、どうかしたの?」
「あ、いや、何でもないよ。待たせてごめんね」
「ううん、気にしないで。それより、早く始めよう?」
他の子達を見ると、みんな俺が手に持っている本をジッと見つめていた。
「じゃあ、さっそくだけど始めようか。まずはこの本を……」
「ルカ兄が読んでくれるんだよね?」
「え?」
「私、ルカ兄の側で聞く!」
この中で一番小さい女の子が、驚く俺の腕に抱きついてくる。
「「あー、サンちゃんだけずるい!」」
「アンもルカ兄のそばで聞く!」
「じゃあ、ニーナも!」
それに続くようにミリム以外の女の子2人も俺の腕に抱きついた。
この子達がもう少し大きくて女性らしい体つきだったら嬉しかったんだがなぁ……。
確かにこの子達は可愛らしいが、俺に幼女趣味は無い。
むしろ、前世では子供達に怖がられていたから子供の扱いに慣れていなくて、どう対応するべきかわからない。
「ちょっと、みんな。ルカくんが困ってるでしょう」
ミリムが戸惑う俺を見かねて助け舟を出してくれた。
でも、俺は知っているよ、ミリム。
他の子達が俺の腕に抱きつく瞬間、君も羨ましそうにこっちを見ていたよね?
口では注意しているが、ミリムは今も羨ましそうな目をしている。
――仕方ない。ちょっと気恥ずかしいが、こうするしかないだろう。
「みんなで僕を中心に囲むようにして座ろう。そうすれば、みんな僕の近くで一緒に読めるだろう?」
俺がそう言うと、ミリムを含む女の子達全員が嬉しそうに頷いた。
俺が木の根元付近に座り、本を目の前に置くと、女の子達は我先にと俺の隣に座ろうとする。
そして、両脇に座った子達は俺に体を押し付けるようにして座った。
前世ではメイドなど身の回りの世話をしてくれた女性達や家族を除けば、子供にも女性にも体が触れ合うまで近寄られたことがない。
女の子の体は柔らかくて温かいな……いかん、幼女趣味は無いはずなのにドキドキしてきている。
これはあれだ、慣れないことをして緊張しているからであって、決して幼女趣味に目覚めたわけでは……。
「ルカ兄、早く読んで!」
俺の隣を見事勝ち取った女の子──確かサンと呼ばれていた子だ──が、俺の腕を引っ張り、せがむように言った。
「へ!? あ、ああ、そうだね」
俺は動揺しながらも、目の前に置いた本を手に取る。
そういえば、タイトルも内容も確認していなかった。本がそんなに厚くなかったのと表紙に大きめの絵がついているみたいだったから、恐らく絵本だと思うが。
「ん?」
手に取った本のタイトルを見て、俺は首を傾げた。
予想通り絵本であるようだが、見たことも聞いたこともないタイトルのものだった。
いや、本のタイトルとしては知らないだけで、その言葉は聞いたことがある。
『熊公爵』
その下には、赤い毛の熊が貴族が着るような服を着て、ふんぞり返って立っている絵が描かれていた。
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