第4話 現実



 フィリィに案内されて街の郊外に向かっていた。


「その、ここから街の郊外のまで時間がかかりますか?」


「いいえ、この街には電車が走っているわ。電車に乗って数分よ。」


「そうですか。」


 俺はこの世界に来て気になっていたことがある。それはフィリィの名前だ。『新崎春華』という名前があったはずだ。なぜ、名前を変える必要があった?本人に直接聞いてみるか?正直、フィリィには助けてもらっているが、彼女を信用してもいいのだろうか?―――


「さぁ、ここが駅よ。電車に乗って郊外に行きましょう。この世界とこの街の真実が分かるわ。」


 電車に揺られて数分。街の郊外に着いた。


「あれ、見えるよね。ちょうど車一台分が通れるくらいのゲート。」


 そこには厳重に警備された門と言うべきか、ゲートと言ったほうがいいだろう。検問所のような施設があった。


「あの施設は、検問所のようなものですか?入国審査が行われる場所ですか?」


「いえ、この国には、誰でも入国することが可能だわ。国の外を見たら分かるわ。行きましょう。」


 二人はその検問所に着くと、建物の屋上に上った。




 そこで龍治は目を疑った。





「なんで、こんなに荒廃してるんだ。」

先ほどまで見てきた街の風景とは変わって、ひどく荒れた大地が龍治たち二人の前に広がっていた。



「これで分かったでしょ、この国の周辺は全部こんな感じ。」




二人の目の前に広がっていたのは、荒れ果てた大地だった。かろうじてまだ緑がある。例えるなら、何かと戦った後の世界。戦争後の世界だ。そして、街の外周には防波堤のように何かから街を守る設備が備わっている。



「この街はね、最後のセーフエリアって呼ばれているわ。この世界の人類は未知の生物から追われているの。」



「未知の生物?どうゆうことだ?」


 この会話の直後。突然の警報音。検問所の警備兵が慌ただしく動き出した。


 警備兵A「車が一台こちらに向かって来ます!生体反応があります。乗っているのは間違いなく人間です。」



 日本刀のようなものを腰に差した一人の男が門の外に現れた。



 フィリィが言う。

「いい、これから起きることがこの世界の現実よ。」



 その男は刀を鞘から抜き、構えた。


こちらにやってくる車が目視できる距離に迫っていた。車の後ろには見たことのないモノ。その姿は一言では言い表せない。体は黒く、そこから延びる無数の触手のようなもの、四足なのだろうか、獣の様にも見える。明らかに目の前の人間を狙っている。



刀を持った男は未知の生物に向かって走りだした。



車が門に近づくと、門が開きその中で待ち構えていた兵士たちが、車に乗っていた人間を保護した。乗っていたのは三人。そのうちの一人は意識がなかった。



未知の生物は、刀を持った男と戦っていた。男は戦い慣れているように見えた。体は黒いが、未知の生物の内臓や心臓は体から浮き出ているのだ。誰が見ても急所の場所は把握できる。男はその急所と思われる箇所を的確に切っていく。やがて、心臓と思われる場所を突き刺し、未知の生物は動かなくなった。





「あの黒い未知の生物はなんだ?」



「あれは、ムバクって呼ばれているわ。ムバクの好物は人間の大脳なの。正確に言えば、人間の記憶。」




 俺には衝撃的だった。ムバク―――人間の記憶を食べる生き物

 おそらく、さっき見た意識不明の人はムバクに記憶を食べられたのだろう。




「ムバクは人間の知識にどれだけ価値があるのか知っているのよ。ムバクはある日突然この世界に現れたみたいよ。私がこの世界に来た時には、すでにこの街がセーフエリアと呼ばれていたわ。」




「まるで、映画を見ているような感覚だった。でも、これが現実なのか、」




「この街がセーフエリアとなって三年経った今でも、こうして命を代償にセーフエリアを目指して多くの人がここを訪れるの。」




「この街がセーフエリアか...なんとなく分かった。とりあえず、この世界で生きていくために、仕事が欲しい。無職じゃこの先やっていけない。」




「切り替えが早いのね、分かったわ。まず初めに龍治のスピリティが何なになのか、確かめましょう。」







 ――――龍治はこの異世界は居心地がいいと感じていた。しかし、ムバク、セーフエリア、この世界の全容を理解しようとすると、なんだか居心地いい場所を取られていく、そんな感覚に襲われていたのだ。



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