第3話 最後の都
俺は今、日本じゃない地球でもない、別の世界にいる。ここにいる理由は分からない。でも、元の世界、つまり日本で暮らしていた時よりも、今自分がいる別世界のほうがなんだか居心地がいい―――
「お待たせ。それじゃ行こうか!」
龍治は、この世界に来て一番初めに再会した女性、フィリィと一緒に彼女の自宅に向かって歩いていた。
異世界に来て数時間。初めて見るその風景に興味深々だった。町の外観は元の世界より古風な感じで、道は石畳だ。見たところこの町に住んでいる住人はみんな普通の人間だ。技術は発達しているようには見えない。
「何か食べ物を買って行こう」
フィリィはお祭りの屋台のように並んでいる出店に立ち寄った。
「焼き鳥6本ください。部位はお任せで!」
「あいよ!900ライトだよ!」
っと言いながら、屋台のおじさんが焼き鳥を6本袋に入れて渡してくれた。どうやらこの世界の共通通貨はライトと言うらいしい。
「焼き鳥は元の世界にもあったでしょ?」
フィリィにそう言われ、渡された焼き鳥をみると、それは自分がよく居酒屋で食べていた焼き鳥そのものだった。
「おぉ...うまそうだ」
「そうでしょ?」
龍治はここが異世界であることを忘れ、日常的な会話を楽しめるぐらい気持ちが落ち着いていた。
「ここが私の家。一応女の子の家だから緊張して入りなさいよっ!」
フィリィが冗談交じりで話をしてくれていることは明らかに俺に気を使ってのことだろう。それぐらい分かるさ。龍治はフィリィの心遣いに、心の中で感謝した。
「お邪魔します。」
「どうぞ!あがってあがって」
フィリィは家に着くなり、買ってきた焼き鳥とお茶をテーブルに広げた。
「ごめんねぇ~今お酒切らしててさ~」
「大丈夫ですよ。そこまで気を使わないでください。」
「そう?じゃぁ私遠慮しないよ?」
フィリィは遠慮なしに焼き鳥を口に入れた。
「聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「いいよ」
「失礼ですが、俺とあなたはどういった関係ですか?それとざっくりでいいので、この世界について教えてほしいです。」
「わかったわ。私があなたと初めて会ったのは、街の書店よ。多分、龍治君は私の名前を知らないわ。でもね、私があなたの名前を知っているのはあなたの名前を見たからよ。」
「名前を見た?どうゆうことですか?」
龍治は高校時代、学校の帰り道よく書店に寄り道していたことを思い出した。
「言葉の通りよ。」
「っ!!!?俺のポイントカード見ましたか?」
龍治が通っていた書店にはポイントカードがある。龍治はそのポイントカードを一度だけ失くしたことがあった。
「そう。そのポイントカード拾ってお店に届けたのは私よ。そしてその書店の名前は――――」
龍治はフィリィの話にかぶせるように言った。
「Noah」
「やっと思い出してくれた?」
「はい。思い出しました。でも、それじゃほとんど初対面じゃないですか!?俺はフィリィさんと数回すれ違ったぐらいのことしか覚えてないですよ!」
「そうだね!でもさ、私たちってどこか似てると思わない?書店で君を見たときから、同じ雰囲気っていうか、同じ匂いを感じたんだよね。」
「言われてみれば…」
確かにそうだ。この人と俺はどこか似ている。確信があるわけじゃない。しかし、フィリィさんに自分と同じものを感じていたのは事実だ。
「とりあえず、思い出してくれてよかったよ。お姉さんは感激です!。そしてもう一つの質問は[この世界について]、だったよね。この世界は見ての通り、私たちが住んでいた元の世界とほとんど差が無いわ。会社もあるし、政治っていう概念もある。異なる点と言えば、技術が発展していないところでしょうか?」
「なるほど、技術が発展してないか、」
龍治はおもむろにカバンにしまってある携帯を取り出した。
(圏外だ)
「その代わりと言っちゃなんだけど、この世界にはスピリティと呼ばれる魔法のようなものがあるわ。スピリティはこの世界にいる住人すべてが使える生まれ持った能力よ」
「へぇ魔法が使える世界か、(本当に小説の中にいるみたいだな)」
「そして、この世界にはもうこの都しか残ってないの――――。」
「それってどうゆうことですか?」
「自分の目で見て確かめたほうが早いわ。お腹も膨れたし、街の外を見に行きましょう。一応言っておくと、この街での私の仕事は案内役よ。だから安心しなさい。」
フィリィは龍治を連れ出して、都の郊外へと向かって歩きだした。
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