1章

第2話 再会と再開


「ようこそ!創造の都エルディアへ!って、えぇっ?龍治君?」


 茶髪でショートの女性が俺に話かけてきた。


 俺は会社に向かっているはずだった。左手にしている腕時計はしっかりと時間を表している。確かに俺が降りたのは間違いなくいつもの駅だった。しかし、今自分が見ている景色はいつもと違う。完全に自分が見てきた景色とは違う別世界に俺は困惑した。


「龍治君?龍治君だよね?ちょっと無視しないでくれますかっ!?」


 いきなり目の前に現れた茶髪でショートの女性。見た目では歳は近いが、明らかに自分より年上だ。どこにでもいそうな女性だ。でも、俺には見覚えがあった。


「はい。俺が龍治ですが、あなたは?」


「え、もしかして覚えてない?嘘でしょ...ショックだわ」


「私は、新崎春華。ここではフィリィって呼んでね」


 フィリィは少し低いトーンで自己紹介をした。


 龍治はその声と容姿こそ見覚えがあるが、名前には聞き覚えが無かった。龍治の頭の中はそれどころではない。電車を降りてみたら別世界にいて、目の前には、なぜか自分のことを知っている女性。こんな状況を理解しろと言われるほうが難しいくらいだ。しかし現実はこうだ。

別の世界にいる自分。これは想像ではない。妄想でもない。夢でもない。自分が置かれている状況を必死に理解しようとしている。自分がまるで、誰かの物語に迷い込んだかのように、自分が小説の主人公かのように、別世界に足を踏み入れたのだ。これだけが事実だ。


「新崎さん、ここはどこなのでしょうか?」


「フィリィって呼んでよ!!そりゃぁ混乱するよね。ここは龍治君がいた地球によく似ているが、違う。あえて説明するなら、ここは地球の平行世界ってところかな。よく聞くパラレルワールド的な。」


「はぁ...なるほど。」

 龍治は納得したかのように、ゆっくりうなずくが、事実を理解することはできていない。完全に上の空だ。


「龍治君さ、行く当てもないでしょ?よかったら家にきなよ。この世界について聞きたいこともあると思うし、私も龍治君に聞きたいことがあるし。」


龍治はその提案に乗ることにした。理由は、彼女が言うように、自分には帰る家すらない。よく考えてみれば行くはずだった会社も無い。完全に職を失ってしまったのだ。ホームレス状態だ。この異世界の仕組みが理解できていない状況下で、さっきの彼女の誘いに乗らない選択肢は生まれないだろう。このタイミングで彼女に会えたのは不幸中の幸いだと改めて認識することになった。


「あの、すみません。新崎...フィリィさんは、俺と同じ世界からここに?」


「うん。そうだよ。龍治君やっぱり、私のこと覚えてないのね…」


「す、すみません...」

 龍治は落ち込むフィリィに申し訳なさそうに謝罪する


「もしかしたら、こっちに来た時に記憶の一部が抜けちゃったのかもしれないし。とりあえず、私の家にいこう!職場に早退届出してくる。」


「あっ!ちょっと待ってください。この場で2つ聞きたいことがあります。」


「なになに?教えられる範囲で教えるよ?」


 龍治は真剣な眼差しで、フィリィに質問を投げかけた。















「この世界から、元の世界に戻ることは可能ですか?フィリィさんは元の世界に戻りたいと思ってますか?」







 真剣な表情で聞いてくる龍治に応えるように、フィリィも真剣な表情でこう言った。










「今のところ、この世界から元の世界に戻ることはできない。そして2つ目の質問の答えは、私は元の世界に戻ろうと思ったことは一度もない。この世界に来ることができてよかったと思ってるくらいだからね。」






「龍治君、私はこの世界に来てすることができた。」






 フィリィはそう言い残して、事務所と思われる建物に入っていった。







...」




 龍治はその言葉に深い意味があること、自分なりに悟っていた。


 異世界に来るなり自分のことをよく知っている見知らぬ女性[フィリィ]との再会と、もう戻ることができないという事実。そして、「」という彼女の言葉。



 元の世界を好きじゃなかった龍治にとって、彼女の言葉はその胸に大きく響いたのだ。


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