第24話 地獄の片道切符
――
その灰色の壁面はかえって生活感の無さを強調しており、部屋の中央にぽつんと置かれた背の低いテーブルと二脚の応接用椅子が余計に際立っている。
「取り敢えず、まずは座って」
「……失礼します」
示されるがまま、俺は軽く会釈してから椅子に腰かけた。
実はこの場には俺と
小鳥遊はというと、少し別室で待機して貰っている。
……まあ、部屋というより階か。あそこは。
「久々に地下室まで来たなぁ……いつ振りだろう」
「……本当に世界観クラッシャーだな、あんた」
「新しい文化を取り入れたと言って欲しいね」
「少年少女の夢を潰したいのか、本気で」
……ここに来てから既成概念ぶっ壊されてしかいない。これから異世界転移する皆さん、生活の過度な潤いは止めましょう。あなた達を見て後輩は育っていくのだから、その理想を破壊するのはダメ、ゼッタイ。
……この地下室までどうやって来たのか。答えは前話で出ている。
――まさかのエレベーターでした。
「……前回の引きは何だったんだ……」
「エレベーターの扉が開く演出だけど」
「…………もう良いや、どうでも」
出オチがピーク感満載の演出に、俺は頭を抱え込む。いつからこの作品は歪んだんだ……。
因みに小鳥遊はその道中の階に置いてきた。地下室と言っても数が相当ある様で、その内の一つである『武器関連書籍』という名前の部屋で現在絶賛読書中だろう。俺もちょっとだけ見たが、ほとんど図書館のブースがまるまる設置してある感じだった。しかも武器関連だけで部屋が埋まっているのだから、総蔵書数は計り知れない。
そうまでして小鳥遊を隔絶したのには、何か
彼は椅子に深々と体を沈ませると、会話を切り出した。
「さて、これで二人っきりだ」
「……小鳥遊を隔離する程の内容なんですか?」
「君の名誉を思っての事だよ。感謝して欲しいくらいさ」
「……?」
「ステータスカードを見せて貰えるかい?」
……どうも思惑が察せないが、ここは大人しくステータスカードを渡しておくとしよう。
そしてふっと開いたかと思えば、彼の右目は炎さながらに発光し、その瞳は俺のステータスカードを射抜かんばかりに凝視する。
「……一体何を?」
「スキルの解析。オレの『神眼』を使えば、固有スキルの性能を把握する事くらいは訳無い。ただし、かなり時間がかかる。その間は雑談でもしようか」
雑談と言われても……こちらからは特に話題は無いんだが。
転生する前の事でも聞いておくか? いや、あんな話の後だし、あまり根掘り葉掘りするのはよろしくないな……。すると趣味とか好きな食べ物とかが無難? この世界での美味い物を知っておいて損は無いし……ヤバい、これ完全にお見合いでの質問だな。そんなのしか出てこないのか、俺の頭。
と、そこで
「……そうだ。コウキ……だったっけ?」
「へ? は、はい」
「君は魔導士の事についてどれくらい知ってる?」
「……? 二次元内でのメジャー職業ですよね、誰もが一度は憧れる」
「そうじゃない。この世界限定での魔導士の存在についてだ」
この異世界限定での魔導士の存在?
……そう言われれば、全く知らないな。
元々、始まりが自分のステータスに愕然とした事だったから、
わざわざ
「……知識は特に無いか」
「ここまで自分以外の魔導士に会う事も無かったので……」
「だろうね。だってこの世界の魔導士は絶望的に少ないから」
「……え?」
「全冒険者中、魔導士は僅か0.1%……そもそも適性職として提示されるのも
……なんちゅう切符を掴まされたもんだ。
しかも太鼓判を押される程の保証付き。どれだけこの
……しかし、どうも不自然だ。
他の
「どうしてそんなに偏って……」
「単純にルーツの違いさ。魔法というのはこの世界には存在していた……でも、肝心の扱える人間は少なかったんだ」
「……先天的なものって事ですか」
「ああ、元が1なら100にまで増やす事は出来ないからね。……それにオレ達が魔法を改良したせいもあって、威力は民間用に控えめなんだ。別に魔導士じゃなくても魔法は使えるし、それだけを専門とする冒険者は早々居ない」
……というか、今更それを知らされる俺ってどうなんだ……。今まで出世街道と思って通ってた道が実は地雷が埋まってたんだぜと後から言われた様なもんだぞ。
まあ、事前にそれを知ってたらビビってここまで来れなかっただろうが……今度はこれからをビクついて進まねばなるまい。ただでさえハードモードなのに、余計に難易度が吊り上がっていくのはもう避けたい所である。
はあ……と新たな問題の登場に溜め息を吐くと、
「お待たせ、終わったよ」
「……安心できる内容でしたか?」
「いいや、残念ながら――君は本当に貧乏くじを引いたみたいだ」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
絶句。
そうしてようやく出した言葉はこれだった。
「……嘘でしょ?」
「言いたくなる気持ちは分かる。オレもこんなのは流石に初めてだよ。……それも、原因は全部こいつだ」
原因――そんなもので思い当たるのは一つしかない。
「……『
世の童貞諸君、俺は泣いて良いですか。
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