第21話 現代的な



「……どこだ、ここ?」


 異次元の扉を通り抜けた先――そこは何も無い荒野であった。


 森や林、崖や山などの自然障害物すら存在せず、見渡す限りの更地。


 ただ風が轟々と吹き荒び、砂埃すなぼこりが肌に痛い。


「……まるでドラゴンボ○ルの戦闘ステージだな」

「サイ○人編ですか?」

「そうそう……って、知ってたのか」

「私だって国民的マンガの知識くらいありますよ」


 明らかに大衆娯楽を好まなそうな小鳥遊の意外な一面に驚きつつ、そんな激しい砂塵の中に寂しくたたずむ影を見つける。



「――――」



 彼は空を仰いでいた。この荒れた場所からは想像も出来ない様な蒼天を。決して届かない遥か彼方を。その様子は在りもしない何かに縋っているかの様だった。


 やがて彼はこちらに気付くと、「来い来い」と俺達に手招きする。それに従って、俺は小鳥遊を連れて生ける災害ディザスターの元まで歩を進めた。


「やあ、遅かったね。……あれ、もう一人の子はどした?」

「……訳あって、付いて来なかったんです」

「……まさか、オレが『君は用無い』的な言動をしたから来なかったのかな?」

「えー……ニュアンスは大体……」


 ストレートはいささか投げ辛いため、俺はやんわりしたスローボールでお茶を濁して返答した。クズタニはああ言ってたが、謙虚で真面目な日本人には無理な事である。


「まあ、良いけどね。元は君ら二人……特に君に用があったんだし」


「……え、何で俺なんです? こんな弱いのをどうして」


「確かに君は召喚者の中でも一際弱くてゴミで攻撃できないカスでやたら指示出して旨い所だけは持っていくクソ野郎だけどね」


「ねえ、過小評価にも程度ってものがありません? しかもそこまで旨い汁すすってないし、割といつも面倒な役回りだし」


「損に見えて意外と良い所だけ持って行ってるでしょ? 作者も地味に活躍させる路線を考えてたらしいんけど、途中から『やっぱ○○○○○自主規制っしょ』とかアホな思考に切り替わったから君のポジションがやっと落ち着いた経緯は把握してないの?」


「止めよう、外の世界の話をネタにするのは止めておきましょうよ、把握はしてるけど。最近、登場人物のキャラブレ気味なのにメタ発言兼ネタバレ発言は更にそれ加速させるからここでストップしましょう?」


「でもほら自主規制ってちゃんと規制音代わりのルビ振ってるし」


「よし分かった、もう良い、喋るな。そういう自虐には読者普通に引くから。明らかにこいつ評価取りに来てんなとか思われちゃうから。ここら辺でキャラ崩壊は終わりにしたいんだよ分かったか」


 放っておけばただのメタネタマシンガンモンスターと化す生ける災害ディザスターを俺は早期にとがめる。このままぶっちぎると収拾がつかん。


「そろそろ本編に戻りましょうよ。何で俺達をここに連れて来たんです?」

「……強いて言えば、君からは同じ匂いがしたからかな」


 付いて来て、と生ける災害ディザスターは何も無い荒野を先導する。


「匂い?」

「例えるならそれってだけで、正確には言い表せないね。どうにも本能……直感的なものなんだよ。けれど、君はオレ達に限りなく近しい存在だ。それは断言できる」

「……根拠が薄いですよ。要は勘って事でしょう? 外れてる可能性の方が高い」

「かもね。でも、信じておく事をお勧めするよ。チートの無い君にとっては朗報だと思うけど?」


 ……そう言われると反論する事が無くなるから勘弁して欲しい。


 そんな事を離しながらてくてくと歩いていくと、更地にぽつんと一軒の家が建っていた。砂と土にしか囲まれていない土地ではその家は一際目立ち、異様とも呼べる。


「……って、ちょっと待て。この家、変だぞ」

「? 変って何が……」

「壁がコンクリ、ドアは金属製。おかしくないか?」

「……あっ」


 明らかにこの世界の一般的な家じゃない。


 壁は木製、ドアも木製がここでの常識。こんな辺境にこんな現代的な家があってたまるか。


 だがそれを気に留めもせず、生ける災害ディザスターは家のドアを開けて、


「ここがオレの家だ。さ、上がってくれ」


 フツーに入っていった。


 ……世界観って何だっけとツッコみたくなる破壊風景だが、ここはぐっと堪え、俺と小鳥遊も後に続く。



 ――さあ皆さん、中をご覧になって下さい。


 何という事でしょう。内装はまさに現代一般家庭のそれ。


 小綺麗な玄関にはスリッパが。その隣には立派なニス塗りの靴箱が設置してあり、上には消臭剤まで完備。ブランドはファブ○ーズです。


 天井のLEDライトに照らされたフローリング廊下を通っていくと、何という事でしょう、左手のドアを開ければ水洗式トイレが。しかもウォシュレットが付いていて便座からは柔らかな温もりが感じられます。


 極め付きはダイニング。何という事でしょう、カウンター式キッチンに、最大4人掛けのテーブル。キッチンには大型冷蔵庫と電子レンジが備えられております。しかし驚くべきは40インチの4K薄型テレビがある事です。電源を付けてみたら外の風景が映し出されました。うふふ、荒野しか無いですね。さて、お次は――



「――って、何だよこれ!!!!」

「え?」


 家の内装を見ていく内に我慢ならなくなり、俺はとうとうブチ切れた。


 そんな俺の様子を前にして当人はキョトン顔だ。


「どこか不思議な所あった?」


「全部だよ!! 俺この回はツッコミは控えめにしておこうと思ってたけど、流石に無いだろこれは!!」


「……そう?」


「世界観設定ぶち壊した奴の反応とはとても思えんな!? ええい、まず一点目! 何で外装内装共に現代風!?」


「そりゃ、住みやすいから」


「ああそうだろうよそうだと思ったよ!! 次、何で水洗式トイレなんだしかも人気のウォシュレット付き便座!!」


「お尻子供なんです」


「どっかの芸人の言葉をパクるんじゃない!! その次、どうして冷蔵庫やら電子レンジやら4Kテレビやらの家電が完備してあるんだよ!?」


「機能的には問題無いよ。ジョ○飲む?」


「いや、出来れば○治のR-○の方で……ってそうじゃないよ馬鹿!!」


「先輩、ノリツッコミなんていつの間に覚えたんですか」


「こんな濃いキャラに囲まれて生活してたらそうもなるわ!! ああ、もう面倒臭い!! とにかく諸々どこから持って来やがった!?」


「身内にものづくりが得意な奴が居てねー、いやあオレの知り合い皆こんな感じだよ? ってかね、錬成師とか生産職とか持ってる割に何で衣食住を充実させない訳? だから個人的にやっぱりカ○マさんは神だね」


「止めろ止めろ止めろそのレスとメタネタはマジで止めろ。ただでさえ今回伏せ字多いのに、どんな巨大レーベルと作品敵に回すつもりだお前!」

(※登場人物の思想と言動は作中の演出であり、筆者の思想とは一切関係ありません)


 ……作中ですが、この場を借りてお詫び致します。大変申し訳ございませんでした。本当に作者はそんな事は微塵も思っておりません。先生方の御作、めっちゃ面白いです。


 ……とまあ、長台詞掛け合いと連続叩き込みツッコミも一段落した所で、早く戻るとしましょう。


 生ける災害ディザスターは電気ケトルに水を入れて台座にセットすると、俺達をテーブルに座る様に促す。


「……もうツッコまない事にしたわ、俺」

「賢明です。受け入れちゃった方が長生き出来ますよ」


 もはや何も言うまいのスタンスを取った俺は、来客用なのか小皿にあった菓子を一つ摘んで口に放り込んだ。菓子の種類は察してくれ。


 その間に生ける災害ディザスターはカップとティーポットをテーブルまで持ってきて、話し合う準備は万端といった風だ。


「湯が湧けるまでは時間があるし、早速話に入ろうか」

「早速って、ここまで来るのに……」

「先輩、ツッコミは無しで」

「やべ、そうだった……すみません、続けて下さい」

「?」


 反射的に噛みつこうとした俺を小鳥遊が静かに制止してくれる。事の元凶は首を傾げるも、すぐに気を取り直し、話を始める。


「さて、まずどこから話そうか……君らは何を聞きたい?」

「どうせ召喚者なのは分かってますし、それ以外ので」

「……厳密に言えば、オレは召喚者であって召喚者じゃないんだけどね」

「えっ? どういう……」

「じゃあ、そこから行くとしよう」


 生ける災害ディザスターは身を乗り出し、両手で頬杖をつくと、ひどく懐かし気な笑みを浮かべてこう告げた。





「オレが召喚……いいや、した時の事について、ね」


 


 

 

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