第18話 協同戦線②
「ゼッ……ハァ、ハァ……アアァアッ!!」
「くはっ、流石に疲れてきたかい?」
マキシさんが篠突く雨の如く拳を乱打してから一分経ったであろうか。
早くもマキシさんのスタミナの限界だ。
しかし、これは当たり前の現象である。無酸素運動なんて陸上400メートル程度が限界らしいし、おまけに通常の4倍近くもの腕を操っているのだ。疲労の蓄積が早いのは仕方が無い。
だが、もう少し頑張って貰おう。彼のラッシュ中に一人、介入させる。
その役割を担うのは、あいつだ。
既に準備は出来ているらしい。俺は顎でフード男を示すと、そいつは即座に実行に移した。
「――『
デブ勇者――もとい、クズタニがスキル名を告げると、彼の持つ剣の刀身は眩いばかりの極光を放つ。フード男を刺し貫かんと、それを腰付近に携えてクズタニは攻撃モーションに入った。
『
威力も申し分ないながらも、驚異なのはその能力。
“攻撃中、魔法・スキルの効果を一切受け付けない”――まさしくチートと称すに相応しい。
この能力により、相手のスキルを無効化できるという点は大きなアドバンテージである。自身の付与自体も一時的に効果を失うが、『
奴を穿つは死角から。
狙うは左脇腹、背中側。
今は効能を失っているが、外した事も考えて、剣にはとうに付与済みだ。
現メンバー最高火力を誇る、視野の外からの一撃。
こちらに気付かなければ好都合。気付いてもマキシさんの連撃を
触れれば地獄の挟み撃ちで、フード男を串刺しにする!!
「――じゃあこっちは終わらせて、と」
フード男は乱打を片手間に受けながら、極光の輝きを見るなり溜め息混じりに呟いた。
直後、突如として弾かれた様に、マキシさんの巨大な体躯がぐらりと傾いだ。元々の疲労もあってか、ロクに体を支える事も出来ず、マキシさんは背面に崩れ落ち、あわわあわわと慌てふためく観客席に上体を投げ出す。
簡単にマキシさんを退けたフード男はクズタニへと振り返り、余裕綽々という風に極光の刀身を事も無げに跳ね上げた。
「ぎっ……!?」
「結構面白いスキルだね。でもそれをオレに当てるには君はまだ弱過ぎる。後70年くらいしてから出直して来てくれ」
悠々としてフード男はクズタニに諭す。
確かに至極真っ当だが――んな事は今関係ない。
クズタニもその思考だけは俺と一緒の様だ。
彼は気合でフード男に一歩踏み込み――、
「――っとお……っ」
上へと持っていかれそうな勢いの剣を、肩の脱臼もお構いなしに押し沈めた。
「――りゃああああああああ!!」
「うおっ」
しかし、ろくすっぽコントロールの抑制も効いていない剣はデタラメ極まりない。フード男を僅かに一驚させただけで、剣はそのまま足元に突き立てられる。
けど、これで良い。
クズタニは半ばまで埋まった極光の剣を置き去りにして、宙ぶらりんになった両腕を揺らして後退する。
すると、剣を刺した地表の切れ間から光が覗く。
「ん?」
フード男が怪訝そうに眉根を寄せる――それを逃さない。
事前に知っていた協同戦線は腕で目元を隠すと、クズタニは関節の苦痛に喘ぎながらもその名を紡ぐ。
「っ……『
次の瞬間、光は爆発的に輝きを増し、瞬く間に闘技場全体を白に包み込んだ。
「ぐ……っ!?」
至近距離でこの世の何よりも速い閃光を網膜に浴びせられたフード男は、
「目潰しか……。けど、これぐらいじゃあね……!!」
剣は依然として極光を辺り一面に撒いているが、フード男はニヤリと口端に弧を描くと、ぽわんと奴の手は淡い緑を発した。
俺は剣を直視しない様に双眸を細め、
様子から察するに、二秒と経たずしてフード男は復帰できるだろう。
けれど。
そこに――
別に俺は拳銃だなんて言ってない。
広義としての『銃』という意味で、俺は言葉にしたのだ。
それは
そして葉を隠すなら森の中と言う様に。
小鳥遊が陣取っているのは――闘技場の淵も淵、客席の最後尾の通路だ。
無論、そのままで客席に躍り出れば観客に騒がれるので、レオさんの『隠蔽魔法』で姿は彼らに認識できない様にしている。隠せるのはステータスだけではないという事だ。
あらかじめこの目潰しを把握していた小鳥遊に光の影響は皆無に等しい。
彼女は正確に引き金を引いたのだろう、遠くの方で発砲音が鳴る。
直線の軌跡を描く一発は、寸分のズレも無くフード男の心臓を撃ち抜く――、
「『
等速直線運動をしていた銃弾は奴の数メートル手前で、唐突として進路を180度変える。
ぐるりと反転するよりかは、ぐにゃりと方向そのものを捻じ曲げられたかの様な感覚。銃弾は元あった位置へ速度を維持して戻っていく。
「スナイパーライフル……まあ、発想としちゃ良かったんじゃないかな」
奴の評価に耳を傾けている暇も惜しい。
倒せないのであれば、次。
その銃弾が客席へ帰り切る前に、奴の視界が開ける前に――動け。
視界は白昼夢の様な、ただひたすらに眩き光景が広がっている。しかし、その中でも影はある。そこを目掛け、俺は音も無く最短距離で突っ走る。
彼も既に動いているだろう。
しかし、その姿は俺には捉えられない。
いいや、俺だけじゃない。他の協同戦線の三人だって見えていない。
周囲がこれであれば――なおの事。
だが、クズタニの魔力だって無限じゃない。この状態を維持し続ける事は膨大な魔力が必要だ。『
――この機を掴め。
俺は意を決し、己が両手に付与を掛ける。
フード男にとって一番の脅威たるは、恐らく俺だ。
『
ただし、それは『攻撃』だけに限られる。
これまでの皆の攻撃――殴打、斬撃、
でも、俺は違う。
『
つまり『攻撃力』が0である俺に、『
この場では俺自身が切り札。
しかし、決着をつけるのは俺じゃない。
『隠蔽魔法』で姿を消しているレオさんだ。
ステータスは奴に看破されているだろうから、当然俺が地味に嫌なのも分かっているはず。
俺が奴の注意を引き付け、その後のトドメは彼の力量とタイミングに係っている。
この一回こっきりのギャンブルに――俺の安い腕とレオさんの隻腕を積む。
「っ――」
俺は『身体強化』を自身に畳み掛けた。幾重にも掛けられた『身体強化』は、俺の限界を更に引き延ばし、加速させる。
魔法を使い過ぎたせいで、魔力も底を尽きかけている。
だからこの一連で、全てを決める。
――2。
まだだ。まだフード男は先に居る。
俺は足の回転数を増し、近く、より近くへと無様に進む。
――1。
もう数歩。
もう数歩だけで。
奴に触れられる。
鬼ごっこの様なタッチは望まない。
ただ、掠るだけで良い――。
そして、俺は右手を必死に伸ばし。
――0。
そして、届いた。
――それとほぼ同時に。
フード男は視覚を取り戻し、俺をニヤつきながら出迎える。
――それとほぼ同時に。
レオさんは『隠蔽魔法』を解除し、刹那の内に鉤爪の猛威を振るう。
三者は向かいの敵を眺めながら。
眩き極光は消失し。
世界は明瞭になる。
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