ストロベリーパイを好きになる日は来ないかもしれない

リサ モリ

第1話

 マリアンはアップルパイが大好き。

 ビビアンはストロベリーパイが大好き。

 二人は双子で、顔も髪型も声も体形も、ありとあらゆるものが瓜二つだけれど、パイの好みだけは違っていた。

「ねえ、ビビアン」マリアンは言う。「一日だけマリアンをやってみない?」

「あら、マリアン」ビビアンは言う。「それって面白そうね」

 ある日、マリアンはビビアンの働く小学校へ、ビビアンはマリアンの働く病院へ、お互いの振りをして出勤した。

 菜の花が開き始めた早春の日だった。

 マリアンはビビアンの職場でたくさん失敗した。当たり前だ。マリアンはビビアンの教師という職業を生れてはじめて経験したのだから。

 ビビアンはマリアンの職場で何もかもチンプンカンプンだった。当然だ。ビビアンはマリアンの病院会計事務という職業の内容を今日はじめて知ったのだから。


 二人とも仕事から帰ってくると、ソファに倒れこんだ。疲れ果ててしまったのだ。

「ねえ、ビビアン」マリアンは言う。「私、ストロベリーパイを好きになる日は来ないかもしれないわ。嫌いではないんだけどね」

「あら、マリアン」ビビアンは言う。「私もアップルパイを毎日食べたくなることはたぶん無いわ。嫌いじゃないんだけど」


 そのあと二人は一緒にキドニーパイを作った。

 こんがり焼けたキドニーパイを二つに切ると、湯気が立ち上り肉汁と香ばしい匂いがこぼれた。

 ビビアンとマリアンはそれをほうばると今日の疲れのことなんて吹き飛んでしまい、来週の全国双子大会に着ていく衣装について相談を始めた。

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ストロベリーパイを好きになる日は来ないかもしれない リサ モリ @lisa_mori

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