第2話 辿られる記憶
「……ねぇ、あなた。あなたは何のために子供に教えてるの?」
彼女が唐突に床に座りながら背中越しに聞いてきた。
「……ん?……どうかしたのか?」
私は言われた事が良くわからず、聞き返した。
彼女の方へ寄ると、どうやら彼女は新聞を読んでいたらしい。
その新聞には、最近教育界で話題になったある事件に関する専門家の意見が載っていた。
確か、ある塾の教師が生徒に暴行を振るい、その後報道陣に向けて
「何故俺はあんな子供に教えなきゃならなかったんだ!!!」とコメントした事件。
そして新聞には有名な大学の教師が偉そうにコメントしていた。
「生徒はたとえどんなに素行の悪いものでも、わたし達にとって宝です。私たち教師には、生徒を預かるという責任がありそれは………」
長くコメントしているが、まとめると「教師が一方的に悪い。教師は生徒に教えさせてもらってる。それを考えろ。」といったところだったか。
少し考え、応えを言葉にした。
「私は別に勉強を教えたくて教えているわけではない。
本当に知って欲しいのは、自分を守ることが出来る術だ。それさえわかれば、どんな社会に出ても立ち向かっていけるはずだからな。どんな攻撃にも耐えれる防御術を持って欲しい。今の時代では、それは勉学だ。」
随分とカッコいいように言ってしまった。
恥ずかしかったので、冗談で誤魔化した。
「だからって殴ったりはしないよ。」
彼女は笑いながら
「そっか…防御を教えるために、か。私のとは違うなぁ………。」
「じゃあ君はどんな?」
「私の全てを伝えるため。」
「全て……?」
いまいちわからなかった。
どういう意味だろうか。少し抽象的すぎないか?
神妙に考え込んでいる私を横目に彼女は笑った。
「ふふ、今はわからなくて良いよ。でもいつかきっと、あなたに伝わるわ。」
「本当か?楽しみにしておこう。」
そこで私は目を覚ました。
外では鳥が囀り、朝日が少し差し込んでいた。
「夢か……。」
結局教えてもらえなかったな、あの言葉の意味。
今日は塾の復帰日だった。
皆を一ヶ月も待たせて、生徒たちは怒るだろうか。
国語を私が教える事をどう思うだろうか。
嫌がったりしないだろうか
胸が先程とは違う何かで満たされる。
いろいろな事を考えながらいつも通り家先のポストに手を入れた。すると
「……ん?」
違和感があった。
入っていたのはいつもの新聞、求人のチラシそして一通の、差出人不明の封筒が入っていたのだった。
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