第3話イエローカード、切り札黄色は不在!?(前編)

 場所は変わって宇宙帝国メイワックの本拠地。ここではブレイブファイブに敗北した怪人の知らせを受けた三人の幹部による緊急会議が行われていた。


「それで?ドクター・ヅノーのしょうもない怪人がやられたのですか?やはり貴方はメイワックの幹部には相応しくないと前々から思っていたのですわ」

「しょうもないとは心外な!私の怪人は宇宙の英知を掛け合わせた最高傑作だったはずだ、この敗北は何かの手違いに違いない」

「そんなことはない、あの怪人が敗北したのは事実、この事がバイヤーツ様の耳に入る前に早急に地球を侵略せねばヅノー、お前はあのお方に立たせる顔がないぞ」

「ぐぬぬ、私の怪人は完璧だったはずなのに」


 三人の幹部たちは困っていた。ヤ・バイヤーツ様から聞いた限りでは地球は宇宙の中でも弱い星でありメイワックの力をもってすれば簡単に征服できるという話だったのにも拘らず、ブレイブファイブという不確定要素が乱入してきてしまったせいで地球侵略の第一歩が挫かれてしまったからだ。このことがバイヤーツ様の耳に入る前に、何とか処理しなければならなかった。


「そもそも、私の怪人で地球人に恐怖を植え付けるという作戦はイオンナ、貴様が最初に言い始めたはずだ、この失敗の責任はすべて貴様が取るべきじゃないか」

「そんなこと、私は最初にその作戦を提案しただけ。実行に至ったのはヅノーでありませんこと?」

「お前ら、ここで言い争っていても何事も話は進まぬ。ここは一度事の次第を報告し、バイヤーツ様に指揮を委ねたうえでもう一度侵略作戦を実行すべきではないか」


 キョウボーウがそう提案すると、ヅノーとイオンナは竦みあがって反論した。


「そんな!あのお方にこのようなことを報告したとなれば私の信頼が、私がどんな目に合うと思っている!」

「それよりもこの作戦は記念すべき10000個目の惑星、加えてあの方の思い入れのある星を征服する作戦のこと、このことは最後まで秘密にしなければ!」

「ほう、いったいどんなことを私に秘密にするのだ?」


 部屋の奥から現れたのは漆黒のマントを頭から羽織ったメイワックの皇帝、ヤ・バイヤーツだった。


「「ひ、ひ~」」

「キョウボーウよ、事の顛末を簡潔に説明してくれ」

「はっ。地球侵略のため、地球にヅノーが以前改造した怪人を送り込んだものの、ブレイブファイブという輩に邪魔をされ、怪人が殲滅され、今に至ります」

「何?」


 この報告を聞いた瞬間、ヤ・バイヤーツの目に怒りの色が浮かんだ。その目でヅノー、イオンナを交互に睨みつけた。


「も、申し訳ありませんバイヤーツ様。この度はイオンナの判断ミスで不覚を取りましたが、次こそは」

「なっ、私のせいではありません、彼の作った怪人のせいで作戦が……」


 ヅノーとイオンナが見にくい責任の擦り付け合いを行っていたが、ヤ・バイヤーツの怒りは一向に収まらなかった。


「お前ら、なぜ私が怒っているのか理解しているのか?」

「それは、作戦に失敗した挙句その事実を隠蔽しようとしたことかと」

「違う、そうじゃない」

「では、無断で作戦を指揮し、実行したことかと」

「少し惜しいが、そうでもない」


 あらゆる選択肢を否定され、ヅノーとイオンナの頭上には疑問符が浮かんだ。


「ドクター・ヅノー、ヒド・イオンナ、よく聞け。私は、お前らが独断で指揮し、実行した作戦によって我の臣下を、帝国の大切な国民を危険に晒すどころか、その命までも失わせてしまったことを怒っているのだ」


 バイヤーツが壁を殴りつけると拳が壁にめり込み幹部たちは軽い悲鳴を上げた。バイヤーツの拳からは、鮮血が垂れている。


「私が次は地球を狙うと言っていなければ、彼の命が失われることもなかったのに……」


 バイヤーツの顔に光の筋が出ていた。彼は泣いていたのだ。


「それではお前らに処分を言い渡す、覚悟しろ」


 バイヤーツは幹部たちを見つめ、幹部たちは背筋を伸ばし震え上がった。


「失われた我が国民の命を弔うため、必ず地球の征服を果たせ。我が指揮を執る。幹部全員は命を賭して任務の遂行に当たれ」


幹部2人はキョトンとした顔になった。そのうちヅノーがその疑問を発した。


「ええと、私達を処刑したり、辞めさせたりしないのですか」

「お前らも大切なわが国民の一員だ。私は国民を、一人たりとも路頭に迷わせたりはしない。それに、勝手に辞められたらそれこそ罰にならないだろう?だからもう二度と間違えるな。信頼しているぞ、我が愛する幹部たちよ」


 これは濡れる、と幹部三人は思った。


「一つ、宜しいですか。何故我々の計画にお気づきになったのでしょう。自分達としても、かなり内密に行っていた計画のはずだったのですが」

「さあな、我の親友が、それとなくお前達の行動を教えてくれたからだ。それよりも次の作戦はどうする、幹部達よ」

「はっ、私イオンナにお任せください。前回の戦いから奴ら、ブレイブファイブの弱点を発見致しましたので奴らを無力化させ、その間に地球征服を進めていく作戦がございます」

「良いだろう、では今回の作戦はヒド・イオンナ、お前に任せたぞ」






 おっす!ウチセンちゃん、可愛い女の子と可愛い女の子、加えて可愛い女の子に目が無い大学2年生だよ、ついでに最近はブレイブイエローとかいうのにも挑戦中だよ!


「ってSNSの自己紹介欄にでかでかと載せるなぁー!」

「はぁ、今日もつむじの冴えない突っ込みが街中に響き渡っていますわね」

「そもそも可愛い女の子って自己紹介欄で言いすぎだろ、こんなに載せたら女の子警戒して逆に近寄りづらいわ!3回もいらないわ、大事か、大事なことだからか!あと秘密戦闘部隊だから易々と自分の身分を明かすな!」

「そんなに間髪入れずに突っ込みいれて、よく息切れないね」

「このツッコミ癖、もはや持病だな」


 俺を含めブレイブファイブの内イエローを除いた4人は、メイワックの手先が発生したという連絡を受けて現場に集合し、それを探している最中だ。

 なかなかメイワックの手先が尻尾を現さず、イエローも来ないのでSNSを発見しトンデモツイートを見つけて今に至ると言う訳だ。


「そもそも、イエローを呼び出すのなら変身ガラパゴス……げふんげふん、あの端末で普通に呼び出せばいいだけの話では?」

「え、だって俺みんなの端末番号知らないし」

「あれ、この前みんなで集まってみんなの端末番号登録したはずだけど」

「そういえば、つむじだけあの場に居なかったな」

「……」


 俺だけはぶられていた会合があったことを知り、何とも言えない気持ちになった。とてもかなしい。


「はぁ、しょうがないですわね。私の端末にブレイブファイブ全員の……つむじの番号は入っていませんが、これを差し上げますから、稲光君に連絡したらどうですか?」

「地味に心抉ってこないで、というかなんで神代さんから連絡しないの?」

「私、あの男苦手ですから」

「ああ、そうか……」


 と言う訳で、端末番号を教えてもらいセンちゃん(自称)に電話をかけてみた。


『プツッ、もしもしつむじ、もしかして一緒にナンパしたくなった?ごめんね、俺には先約があって』

「違うだろいい加減にしろ!メイワックの手先が発生したから集合って連絡が来たはずだ!早く来いよ」

『だーかーら、先約があるって。と言う訳だからお姉さんに誘われて今から遊びに行ってくるからしばらくそっちには行けないよ。じゃあ、あとは頑張ってねー』


ツー、ツー、ツー


「あいつ切りやがった!稲光閃、ゆ”る”さ”ん”!」

「そんなことよりつむじ!敵が来たよ」


 潮に声をかけられたので視線を前に戻すと、ゲル状の物体が目の前にいた。


「ぐじゅるるる、ぷしゅー」

「あれは……スライムか?」


 強が言ったように、溶けかかったゲル状の物体は妙にプヨプヨしていて、その中に眼球が二つこちらに視線を向けて存在する姿はスライムと形容するにふさわしい姿だった。そのスライムは直径1メートル程ある大きさで、辺りに自分の体液をまき散らしていてその体液に触れた部分はたちまち融けてしまった。


「成程、あの酸はかなり迷惑だってことね。アレが一般人にかかってしまう前に急いで倒すよ」

「お前に言われなくてもわかっている、先手必勝だ。『重の力、メガトンパンチ』!」


ぷるん。

 ブラックが放ったパンチは、ゲル状の体に衝撃を吸収されてしまった。


「ぷぷっ、ださ」

「うるさい!戦闘中に喧嘩売っているのか!」

「まあネタであるブラックの攻撃は置いといていくよ。『水の力、ウォーターカッター』!」


 ブルーはかなりの水圧を含んだ水鉄砲をスライムに食らわせた。しかしスライムはその水分をすべて吸収してしまい、ダメージを受けるどころかその大きさを2倍ほどに膨れ上がらせてしまった。


「しまった、水の攻撃は吸収するのか。これはなかなか厄介だぞ」

「そういうことならば私にお任せくださいませ。『魔の力、マジックドレイン』!うっ、このスライム、なかなか強力な魔力で作られていますわ。まさか、ヒド・イオンナが!」


 ピンクが全部解説してくれたため特に俺から言うことはありません。強いて言うならば今日の集合も彼女は薄桃色の着物でした。


「こうなったらグリーン、あなたの力でスライムにダメージを与えるしかありませんわ。被害が出る前にさあ、早く!」

「え、俺?仕方ないなあ。必殺、風の力、ウインドアタック!」


 …………無風だった。


「まったくつむじは、何も使えませんわ」

「そんな言い方ないだろ!俺前の前までただの一般人だから、特別な攻撃なんてできないよ!」

「つむじの言い訳は聞き流すとして、体がほとんど水分で出来ているってことは、よく電気を通すっていうことだ。つまり雷の攻撃があいつの弱点に違いない」

「聞き流すな!というより、それなら適任のイエローに攻撃を任せれば!って、そういえばあいつ今日いないわ……」

「アホですわ」

「アホだね」

「アホだな」

「アホっていうな!どこがアホか具体的に言ってみろ!」


 今日もツッコミに徹しなきゃいけないのか……。






 作戦は大成功だわ!今回作戦に投入したのは私が作成した魔法生物のスライム、ブラックの物理攻撃に強く、ブルーの水を吸収し、私が強力な魔力を込めて作ったからピンクの攻撃も聞かない。グリーンは……雑魚だしもともと眼中にないわ。加えて私が造った魔法生物であることからもし倒されてしまったとしてもヤ・バイヤーツ様の心を痛めずに済むわ!もしもなんて倒されることなど万に一つもないけれど。まあ欠点として、雷属性の攻撃に弱いということがネックね。

 しかし私は、SNSにてブレイブイエローの正体が稲光閃という地球人であることを発見したわ!今回はイエローのネットリテラシーが欠如していたから作戦がうまくいったけれど、健全な市民の皆様方は安易にSNSに個人情報などを書き込まないようにしましょうね!

 そしてブレイブイエローが可愛い女の子好きという情報を仕入れた私は、地球人の女に成りすましてイエローを誘い、戦線を離脱するという作戦を立てたわ。まあ、私は宇宙の中でも美貌には自信があるとはいえ、こうもイエローが簡単に私に引っかかるとは思わなかったけれど。

 本来私から声を掛けてしばらくの間イエローを足止めする段取りだったけれど、イエローが50メートル先から私を捕捉し、すさまじい勢いで近づいて来てまさか向こうから声を掛けられるなんて思ってもみなかったわ。こんなに地球人に節操がないなんて本当に征服する記念すべき10000個目の星が地球で大丈夫なのかしら、甚だ疑問を抱かざるを得ないのだけれど。

 とにかく、これでイエローの気を引きつつ、あとはスライムが勝手に暴れまわってくれればブレイブファイブがいなくなり、地球征服が簡単に行えるようになるはず!その光景が眼前に広がるのが楽しみね。


「お姉さん、誘いに乗ってくれてどうもありがとう!早速カフェに行こうってお姉さん、薄ら笑い浮かべてどうしたの?もしかして体調悪い?」

「い、いえ。なんでもないから大丈夫。それじゃカフェでゆっくりしましょうか」


 ブレイブファイブの4人が倒れてくれるまで、ゆっくりとね。


「えー、カフェで話すだけじゃなんだかつまらないな、もしよければ繁華街の遊園地とかでもどう?今の時期なら空いているし」


 恐らくこの男が言う繁華街の近くというのは、先程スライムを召喚した近くであり、現在ブレイブファイブが戦闘中だったはず。下手に巻き込まれて、この男が戦闘に参加したとなれば一瞬で片が付いてしまう恐れがある。


「ええと、その近辺ですと知り合いに見られてしまう可能性が。今後生活していくうえで気まずいですしあまり近づかないほうがいいかなと」

「え?でもさっき話しかけたときに遠くから来たって言ってなかった?なら知り合いに見られる可能性も少ないはずだけど」


 しまった!宇宙人という認識の齟齬を少しでも少なく見せるために遠くから来た設定にしておいたのを忘れていた!


「まあいいや。取り敢えず行きたくないっていうならお姉さんが言うようにカフェに行くようにしよう。そんなことよりも、さっきからお姉さんの名前を聞くのを忘れていたから名前教えてくれない?さっきからお姉さん呼びじゃつらくて」

「私の名前はヒド……ええと」


 またしてもこの想定を忘れていたわ!地球人っぽい名前と言えばええと……


「私は田中、田中花子、そう田中花子よ!」

「履歴書の書き方見本に載っていそうな名前ですね」

「名前なんてどうでもいいでしょう!早くカフェでまったりしましょう!」

「まったりする雰囲気でもないと思いますけどねー」


 この男に大分調子崩されたけれど、とにかくカフェに誘い込むことに成功したわ!あとはゆっくり話すだけでヤ・バイヤーツ様の念願が、うふふ。






「この調子ならば、直ぐにでも憎きブレイブファイブを全滅させられそうですよ、バイヤーツ様!」


 イオンナに取り付けたカメラの映像と、ブレイブファイブの戦闘する映像を見ながらヅノーは興奮気味に言った。


「まあ、この調子が続けばブレイブファイブが全滅するだろうな。けれども……」

「けれども、何ですか?」

「まあ今に見て居ろ。我も多くは語ることが出来ないが、相手はブレイブファイブ。そう一筋縄ではいかないということが分かるさ」

「まるでブレイブファイブを深く知っているような口ぶりですね、バイヤーツ様は」


 ヅノーの問いかけに対して、バイヤーツは何も言わず、黙って微笑むだけであった。






 そして私はカフェに辿り着いた。当初は質問が返しきれず困惑したものの、相手が何かを察してかしばらくするとプライベートな質問があまり飛んでこなくなった。これは相手との距離の差が埋まってきたからに違いない!決して「もしかして、この子ちょっとおかしいのではないか」と思われて質問されなくなったわけではないと私は信じている!


「ねえ、ちょっとおかしい田中ちゃん、聞きたいことが」

「あーあー、聞こえない、聞こえない」

「急に耳を塞ぎだしてどうしたの?ちょっとどころじゃなくて相当おかしいよ」

「五月蠅いわね!私がおかしいのは名前だけです!私だってできればこんな名前使いたくないわよ!何か文句ある?」

「いや、無いです」





「バイヤーツ様が言っていた一筋縄ではいかないとは、こういうことですか?」

「えーと、私も最後シリアスで締めたかったのに、こうなるとは完全に予想外だったよ」


 イオンナの一喜一憂に対して困惑するメイワック上層部一同は、何とも平和的であった。






「まだ来ないのかセンちゃん!このままだと町中このスライムが吐き出す酸に溶かされちゃうよ!」

「一行で簡潔に現在の状況を纏められるその才能、やはりつむじはどちらかというよりヒーローよりもそこのあたりにいる逃げ惑うモブか、戦隊をサポートするマスコットキャラのほうが適任ですわね」

「どちらかというと、ちょっと頼りないタイプの説明マスコットだな」

「次回予告のコーナーで、その回使った技とか新しいアイテムとかを紹介するマスコットだね」

「なんでそんなピンポイントな役割だよ!もはやモブのほうがいいわ!」


 俺たちは未だにスライムと対峙し、センちゃんが来るまでの時間稼ぎとして街に出る被害を最小限に食い止めようとしていた。


「とにかく口を動かしてないで手を動かしてほしいですわ、『魔法の力、リターンステータス』!」


 ピンクが魔法の力でスライムが溶かしていった物質を元に戻していた。


「そうだよ、『水の力、ピュリフィケーション』!」


 ブルーはスライムが吐き出した酸を無害な液体へと変えていた。


「お前も自分の役割を果たしたらどうだ、グリーン。『圧の力、グラビティバインド』!」


 ブラックは不思議な力にて、スライムが遠くへと移動しないように押さえつけていた。


「……どうせ俺の戦隊内の役割なんて、ただのツッコミですよ。何か文句ありますか?」

「「「いえ、全くないです。」」」

「文句あれよ!」


 ここだけ全員賛同するのはおかしいだろ。いや詳しく言えば全員ではないけれども。それでも戦隊内の役割只のツッコミのメンバーは未だかつて見たことないわ。誰そいつ、絶対いらないだろ。あ、俺のことか、テヘペロ☆

 泣きそう。


「つむじの役割はともかくとして、このままでは全滅もあり得ますわ。なんとしてでもイエローに戦闘に参加してもらわなければ」

「確かに、つむじが使えない以上頼れる攻撃方法はイエローの電撃攻撃だけだからね。今はかろうじて止められているけどこれがいつまでもつか」

「つべこべ言っている暇はない。今は被害を最小限に抑えることに集中するぞ」


 そうだ、俺らが真っ先にやらなければならないのは人の命を救うことのはずだ。それなのに稲光ときたら!もしアイツがやってきたら絶対にとっちめてやるからな!

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うちの戦隊はレッド不在 @nasubimaru

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