第10話 嵐の後の雨雲

次の日の朝。


ぶ厚い雲のせいで、夕方のように薄暗い中、制服で病院へと歩いていく。


昨日の夜、いつまでも眠れなかったくせに、今朝起きたのは午前5時だった。


そのときに一気に目が覚めてしまい、

「もう一度寝よう」という気にはならなかった。


なので、一人でリビングに行き、テレビをつけた。


いつも、特にテレビを楽しいと思う

ことはない。


そもそもテレビはあまり観ないのだが、今日はいつにも増して、興味をひかれることはなかった。


なにやら、ワイドショー番組から賑やかな音が流れてくるが、空にも、自分の心にも、重い雲がかかっているようで、なんだかむなしく聞こえた。


その感覚は、一人で教室移動しているときに、前を歩く女子たちの笑い声を聞いているときと、とてもよく似ている気がする。


―そういえば、昨日から母さんを見ていない。


どうしたんだろうか・・・。


そんなことを思っているうちに、病院に着いた。


玄関口まで来ると、いつもはシャツの上にジャージを着ている芹崎先生が、少し黒っぽいグレーのスーツに紺色のネクタイをしめ、姿勢よく立っているのが見えた。


隣には、河谷と同じく制服姿の中野もいる。


「おはようございます。」


と互いにあいさつをすると、芹崎先生が黙って河谷たちに背を向け、玄関をくぐっていった。

続いて、河谷たちもくぐる。


自動ドアが閉まる気配を後ろで感じながら、辺りを見渡す。


全体的に白くて、床はきれいにワックスがかかり、ちり一つ落ちていない。

独特な薬品のにおいが、どこかから

ただよってくる。


―あれっ?

初めて来たはずなのに、どこか懐かしいような・・・?

保健室かな?


「河谷?」


少し先で、芹崎先生と中野が待ってくれている。


「あっ、すみません・・・。」


河谷は、あわてて二人についていった。


そのまま、上へと続く階段をのぼる。


すると中野が、河谷の方を向き、口を開いた。


「なぁ、昨日は大丈夫だったか?

・・・ごめんな。

あのタイミングで、あのこと言わない方がよかったよね。

河谷、責任とか感じるタイプだと思うし、その後の現場の光景みた時とか、ショック大きかったよな。

とりあえず伝えなきゃ、って思って、焦ってて・・・。」


不安そうに、まゆをはのじにしている中野に、言葉を返す。


「そんなことないよ。

教えてくれてよかった。」


河谷は、ほほえみを向けた。


「ありがとう。」


そう言うと、中野は安心したように息をはいた。


「よかった~!!

さっきぼうっとしてたから、何か思いつめてたんじゃないか、って心配しちゃったよ~!!」


「静かにしなさい、中野くん。

病院ですよ。」


「あっ、すみません・・・。」


河谷と中野は、顔を見合わせて笑った。


―実は、河谷は中野ともけっこう仲がいい。

もともと長谷川と中野が仲がよくて、「友達の友達」という形で、少しずつ心を開いていったのだった。


階段をのぼり終わったのか、5階の

廊下を歩いていく。


「・・・長谷川が悪くないってこと、きっちり証明しような。」


さっきとは違う、真剣な顔をしている中野に、河谷も顔をひきしめ、うなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る