第11話 嵐の前の静けさ

503号室。

この部屋に、菅谷がいるらしい。


芹崎先生がノックし、中に入っていく。


・・・そこには、頭に包帯を巻いて、ベッドに半身を起こしている菅谷と、彼にそっくりな切れ長の目をした美形の女性がいた。


「菅谷さん、おはようございます。

よければ、こちらをいただいてください。」


そう言って、芹崎先生がその女性に、ぶどうを渡した。


「ありがとうございます。」


どうやらこの女性は、菅谷のお母さんのようだ。

でも、それにしては若く見える。


また、その顔立ちや、スーツにハイヒールという服装からは、「気が強そう」「仕事ができる人」といった印象を持った。


―その後の、菅谷のお母さんと芹崎先生の話をまとめるとこうだ。


菅谷は、昨夜の遅い時間に目が覚めたらしい。


大量に出血していたが、たまたま血が多く出るところを切ってしまっただけで、命に別状はないそうだ。


また、長谷川と彼のお母さんは、少し遅れてくるように芹崎先生が言ったらしい。

(きっと、トラブルにならないように、という配慮だろう。)


―そこまで話が終わり、あとは長谷川を待つだけとなった。


しかし。


河谷は、いまさらながら、大切なことに気づいたのだ。


―僕、女性恐怖症なんだった・・・。


長谷川のお母さんは、ほのぼのとした雰囲気をもっているが、言うべきことはしっかり言う人だ。


そんな彼女は、河谷にとって叔母のような存在なので、母と同じように怖くない。


でも、菅谷のお母さんは違うのだ。


完全に初対面だし、何より「できる人」というのは、見えないところで不満を溜めていそうなものだ。


長谷川伝いに聞いた菅谷の話だと、菅谷のお母さんは、自分にも他人にも厳しく、教育熱心で、なんでもテキパキとこなすタイプらしい。


でも、友達や家族は大事にしていて、その上曲がったことが嫌いなのだそうだ。


大丈夫かな・・・。


そう思った時。

コンコン、とノックの音がした。


「おはようございます。」


女性の声に、菅谷のお母さんの、凜とした声が響く。


「お入りください。」


―入ってきたのは、予想していた通り、長谷川と長谷川のお母さんだった。


長谷川のお母さんは、いつもはワンピースの上にカーディガンを着ているのだが、今日は菅谷のお母さんと同じようなスーツだ。


河谷は、そのまま視線を長谷川に移す。


服装は、いつも通り制服だ。

しかし、とても大人びた表情をしていた。


その表情はまるで、不安や悔しさを帯びながらも、覚悟を決めているようだ。


でも目は、現実の厳しさや闇を見た子供のようだ。


童顔で背が低く、いつも愛嬌のある笑顔を浮かべている彼からは、想像もつかないような暗い表情だ。


河谷は、俯いてしまっている幼なじみの表情に、心が締め上げられるような

思いをした。


その時、芹崎先生の口が開いた。


―決戦が、始まる。

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