第8話 嵐の後の河谷

これもみんな、僕のせいなのだろうか・・・。

その重圧に、河谷は心を押し潰されたような気持ちになる。


その時。

「・・・河谷くん、大丈夫?」

理科の須藤先生だ。


少し安心して、河谷は何か言おうとしたが、口を開くと口からなにかが出てしまいそうで、話すことができなかった。


―あまりの血とパニックに、吐きたいのか。


―いろいろな気持ちがあふれ出して、叫びたいのか。


どちらなのかは、誰にもわからない。


「いいよ、無理して話さなくても。

・・・深呼吸して。」


まだ震えが止まらない河谷だったが、なんとか深呼吸をする。


何回かするうちに、少し落ち着いてきた。


「歩ける?」

須藤先生の声は、とてもやさしい。


河谷がゆっくり頷くと、須藤先生が

手を引いてくれた。

その手に導かれるように、三階の方へゆっくり歩く。


「ちょっと、ショックでびっくりしちゃってるかもしれないし、河谷くんが、

この事についてどのくらい詳しく知ってるかは、わからないんだけどね?」


須藤先生が、話しかけてくれる。


「―河谷くんが悪いことは、一つもないからね。」


須藤先生の、河谷の手を握る力が、

少しだけ強くなった気がする。


その瞬間、河谷は思わず立ち止まった。


彼の目に、みるみるうちに涙がたまっていく。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」


前を行く須藤先生が、河谷の手を握っている手と反対の手で、背中をさすってくれた。


―僕は、何に泣いているんだろう。


パニックだろうか。


口から何かが出そうなのって、声を

あげて泣きたかったからなのか。

実際に、声をあげて泣いているし・・・。


―いや、でも、なんだか違う気がする。


自分のせいで、っていう重圧から、

解放されたからかもしれない。

きっと、そうだろうな。


でも。


今、背中と手に触れる須藤先生の手が、とてもあたたかい。


すごく辛いはずなのに、不思議な心地よさがある。


・・・人のあたたかさに、触れたからなのかな。


―ずっと、学校では独りぼっちだったからな。


きっと、その全部だろうな。


そう思いながらも、涙はとどめなく

あふれ出て、止まる様子を見せなかった。




少し遠くにある窓の奥に、一番星が

見える。

でも河谷は、歪んだ視界のせいで、

そのことも知らなかった。

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