第7話 嵐の後の長谷川

長谷川は、どうしても菅谷を許せなかった。


・・・河谷を、バカにしないでほしい。


―クラスの中で目立てないだけで、

どうして下に見るんだろう。


明るくて、友達が多くて・・・ってだけで、人の価値を決めつけるんだろう。


・・・本当は、もっと殴ってやりたかったし、菅谷が河谷を傷つけた分だけ、傷つけてやりたかった。


でも、大量の血を流して、気絶して

しまった菅谷相手では、どれも意味がない。


菅谷を殴った後、中野はどこかへ行ってしまった。

もうじき、先生がくるだろう。

そして俺はきっと、退学になるんだろうな。


―あーあ、あんな奴とまで好友関係築かなきゃよかった。


長谷川が思っていた、その時。


ふいに、階段の上に誰かがいることに気づいた。


・・・河谷だ。


河谷は、長谷川と菅谷の様子を見て、目を見開いた。

そして、小刻みに震えだした。


「河谷!!」


学年主任の先生―芹崎先生がやって来て、長谷川を羽交い締めにする。


でも、長谷川は抵抗をせず、ただ河谷や他の先生達の様子を見ていた。


・・・ほら。

あいつ純粋だし、やっぱり修羅場慣れしていないんだ。

だからきっと、河谷はあんなに震えて、何か吐きそうな顔をしているんだろうな。


そんなことを考えながら。


先生達は、菅谷を乗せて血に染まった担架を運んでいったり、大量の血を拭いたり、全校生徒に安心するように

伝えたりしている。


その様子を見ているうちに、長谷川は力が抜けてきた。


きっと、一度にいろいろなことが起きすぎて、頭も体も混乱しているのだろう。


追い撃ちをかけるように、頭がぼうっとしてきたので、芹崎先生の腕を、

しっかりと掴んだ。


そして。


―救急車のサイレンの音が、溶けていく視界と共にかき消えた。



「おい、長谷川!!」

芹崎先生が、長谷川をゆする。


「どうしたんですか!?」

床を拭いていた先生の一人が、芹崎先生に聞いた。


「長谷川が、気を失いました・・・。」


その言葉に、保健の先生が

「今すぐ保健室のベッドに連れていってください」

と指示をだした。


河谷はただ、その地獄絵図のような光景に、何もできずにたたずんでいた。

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