第2話 海のスキマ

高校に入ってから、もう一ヶ月が経過する。

なのに、河谷の気持ちが晴れることはなかった。


唯一の知り合いである長谷川は、幸いなことに同じクラスだ。


・・・でも、いつも誰かに囲まれてて。

その「誰か」を笑わせてて。


だから、河谷が入るスキマなんて、

どこにもない。


それでも入学当時は、

「少しでも明るく、普通にしたい」

と思い、長谷川を囲む輪の中に入っていったこともあった。


でも、やっぱりスキマはなくて、

なんだか目の前で『仲間外れ』を実感させられているような気分になって

しまう。


それはまるで、自分だけがそこに

いないみたいだった。


―蚊帳の外。


この言葉が、一番合っているだろうか。


蚊帳の中で輪をつくっているのに、

自分だけが蚊帳からはみ出している。


そんな、孤独感だ。


蚊帳の外ほど惨めな気持ちになる場所はない。

そう思った河谷は、気付けばまた独りになっていた。


・・・新しく友達をつくる勇気も愛想も、

河谷は持ち合わせていなかったのだ。


―『青春』なんて、存在しないんだな。


そう、彼は思っていた。


でも、もし『青春』が実在するならば、海のような輝きを放っているんだろう、と。


昼の陽が当たる間は、誰もが息をのみ、誰もが憧れるようなエメラルドグリーンに染まる。


かと思えば、波のように気持ちが揺れ動き、岩に当たって砕け散っていく。


それに、波の音をきいているだけで、とても心が落ち着く。


『海』が、誰もが憧れを持つもので

あるように、『青春』も、誰もが憧れを持つものなのだ。


・・・でも、河谷は、深海に浮かぶクラゲのようなものだった。


波みたいに、少し動きがあるだけで

誰もが目を向け、サーファーが乗ってくれるような、存在感があって楽しいものではないのだ。


無色透明で、キバをむくこともなく、

ただそこにユラリと存在している。


それが、学校での河谷だった。


・・・本当は、もっと明るいところにいきたい。

深海から抜け出したい。


そうは思っているけれど、深海から

抜け出したところで、荒波に呑まれる

だけなのだ。


・・・それが分かっているから、今日も

深海で、明日が来るのを待っている。

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