晴れますように

夏目ぽぷら

第1話 スポットライト

結城高校前のバス停で、河谷誠はうんざりしていた。


せっかく、誰とも会わずに済む春休みを満喫していたのに、もう新学期だ。


それに。


さしている透明なビニール傘越しに、どんよりとたれこめた雲、そして、

ひっきりなしに降る雨を見る。


この雨のせいで、今日はなんだか息苦しい。


いつもだったら、雨が傘を打つ音を聞いていると、何もかも忘れて落ち着ける。


でも、体にまとわりつくような湿気

と、これから嫌でも体験しなくては

ならない高校の入学式、そして面倒くさい人間関係。


それらのことを考えると、雨すら

邪魔っ気なほどうんざりしてくるの

だった。


バス停の、一見粗大ゴミにも見える

椅子に座り、河谷はただ『入学式』の看板が立てかけられた校門を見ていた。


その結城高校の校門に、何人もの新入生が、吸いこまれるようにして入っていく。


河谷と同じように洗いたてのブレザーを着て、汚れ一つない革靴をはき、

髪を整えたその姿からは、新入生達の入学式への気合いが充分すぎるほど

伝わってくる。


表情も明るく、このどんよりとした

天気でも、彼らのさす傘の中だけ異様に輝いてみえる。


その輝きはまるで、薄暗い舞台でそこだけスポットライトが当たっているようだった。


しかし、その姿を見ていると、


・・・きっと僕は一生、こんな風に輝けない。


と思えてしまい、自然にため息がこぼれる。


―ふいに、誰かの気配を感じた。


「河谷」


スポットライトが当たったような

新入生が、河谷に声をかけてくる。


「長谷川が遅れるなんて珍しいね」


その華やかさに、うんざりしながら

言う。


同時に、

・・・いくら幼なじみでも、

「校門は一緒にくぐろう」という長谷川の誘いを断っておけばよかった。


という後悔が波のように押しよせ、二度目のため息と共に吐き出されていった。


「ホントごめんな、河谷。

なんでか俺より母さんが気合い入ってあーだこーだ言うし、

『汗かくと髪セットしたの台なしに

なるから走っちゃダメ!』とか言う

からさ~!!」


・・・やっぱり、スポットライトが当たる者と当たらない者の差は、ここにある。


本当に、そう思う。


へたに目立つとバカにされ、陰口を

言われ、変な者扱いされる。


スポットライトが当たらない者は、

そんな結末を恐れ、したいことも、

言いたいことも、全て抑えている。


でも、スポットライトが当たる者は

違う。


自分をフルに出す。

それだけ自分に自信が持てているのだ、きっと。

それに、とても気が利くし、あらゆるセンスが優れている。


・・・河谷は、幼稚園生の頃からから

ずっと一緒にいる長谷川のことはよく

知っている。


だからこそ今は、長谷川に複雑な

気持ちを抱いていた。




―長谷川は、スポットライトが

当たっている側の人間なのだ。

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