お前の炎を!


「ダークスピリット」

こいつは少々厄介な敵である



妖精の形をした黒い身体からは

白い羽が2枚黒い羽が2枚

生えており

聖と魔の二つの攻撃をしてくる



しかもそれが6体


非常に大変な討伐作業になるだろう



「いけるか?ミエラ」

幸い 客は皆逃げたのか

ショッピングモールの中には

俺とミエラだけだ


ミエラに聞くも返事がない



「…ミエラ?」


再び聞く



彼女の顔は酷く怯えていた



「き、君は異世界生まれ異世界育ちといったな?」


そうだ と答えると彼女は今にも泣きだしそうな顔で俺を見る



「と、当然私達が行く異世界にもこんなモンスターがいるのだな?」



「そうだ…」

俺は剣を作り出す


「創造ー <烈旋剣 セイリュービ ブレイド>」


作り出されたその剣は

手元から刃先まで徐々に屈曲している


ミエラの顔は依然として怯えたままだ


俺はなりふり構わず剣を構える


「な、何故君は闘える?

こんな異形な形をした化け物を見て

…情けない話だが私は足がすくんで動けない

ふっ そんなやつは異世界に権利はないよな…」



彼女は皮肉めいた笑い声をあげる


(俺は…こんな時になんて声を掛ければ

いい?)




俺は異世界でとある人に言われた言葉を思い出す



「人ってのはな…

闘わなければいけない時に闘えなければ

そいつは一生闘わない人生を選ぶ

否 選んでしまう



闘う時は…今だ!!!」



この言葉は俺の胸を 心を 体を 全てを

貫いた





「立て…闘え…ミエラ!!!」



俺は叫ぶ

背中で





「無理だ…私には…力がない…」



顔は見えずとも泣いているのがわかる



(やっぱり本人が言わないとなぁ…)



借り物の言葉には効力がない と改めて知る



なら俺の言葉…




「ミエラ!!!お前は何で舞原高校に入った!?目的があるんだろ!?

その目的を果たせ!!!

お前の目的が果たせるまで

俺は誓おう!!!



俺はお前を護る!!!


お前はその魂に宿る炎を!!!


俺に捧げろぉ!!!」




ショッピングモールに響く俺の声は

少女に聞こえていただろうか



心配は必要なかった



「ああ…ああ……ありがとう…

ありがとう!!!颯馬!!!

私は君に炎を捧げよう!!!」






俺の声はしっかりと届いていた


「行くぞ!ミエラ!」


「ああ!」




俺は<烈旋剣 セイリュービ ブレイド>を

振りかぶる


前方に風の竜巻ができる


「喰らえぇぇえええ!!!

『烈風龍の殺陣』!!!」




風の竜巻は鋭利な刃を作り

回転しながら「ダークスピリット」へ


ザシュッ!!!という音ともに

2体の「ダークスピリット」が切り裂かれた



(まずは2体…)




ミエラは拳に炎を纏わせている


精神統一により炎の温度を上げている



3体の「ダークスピリット」がミエラへ飛ぶ



「ダークスピリット」の羽から

白と黒 聖と魔の雷がミエラを襲う



1mmだっただろうか


雷がミエラに触れる寸前

大きな炎が「ダークスピリット」と彼女を

包む



「炎城 フレイムキャッスル」


炎はいつの間にかお城を象り燃え盛っている




危機を察した「ダークスピリット」は逃げるため羽を羽ばたかせる


しかし、ゆっくりと羽は朽ちていく


浮力を失った「ダークスピリット」は

地に落ちていく が巨大な炎の手が

「ダークスピリット」を掴む



「炎巨人の腕 ブレイズ ハンド」




「ダークスピリット」を掴んだ手はそのまま燃え焼き尽くした


炎が次第に弱まり中から大量の汗をかいた

ミエラが現れる


「はあ…はあ…やったぞ…」



その直後 ふらっとよろめく



倒れかけた彼女の身体は

俺の腕へ



「すまない…私はここまでのようだ…

あとの1体は頼んだぞ…」



そう言って彼女は気を失った


恐らく脱水症状だろう



「待ってろ…今助ける」


そう言って新たな剣を作り出す


水の剣を


「<清水の剣 アクアブレイド>」


作り出された剣は青く 蒼く 澄み渡っている



(ちょっと我慢してくれよ…)




彼女の腹に<清水の剣 アクアブレイド>

を突き刺す




直後 大量の清水が溢れ

ミエラを包む



(5分もあれば完全に回復するだろう)



俺は剣を構え 残り1体となった

「ダークスピリット」を見る



残された1体はボス と言えよう


明らかに他のものとは違い

ひと回りーふた回り程度大きかった



「ダークスピリット」は

シャアァァァ と声を立て威嚇している




「てやぁぁ!!!」

「<烈風の一閃>!」



剣が真横に薙払われ、

風の刃が黒き妖精の体を真っ二つにする



(終わった…)


5体の「ダークスピリット」はすべて討伐し

ミエラの元に駆け寄るも




どこからか老人の声がする

それは俺にとって聞き覚えのある声だ


「ほっほっほ わしのダークスピリットが

やられるとは…流石は颯馬じゃのう…」


不敵な笑みを浮かべる紳士姿の老人は

宙に浮いていた

羽などは持っていない


「だ、誰だ…?そいつは…」



回復しきっていないミエラが俺に聞く



「彼は…フォルーカス公爵

俺の剣の師であり、異世界を統べる

<界治者>の一人だ」


「<界治者>…?なんだそれは?」


聞き慣れない言葉を聞いた少女は

わかりやすく首を傾げる



「<界治者>ってのは異世界を統治している

役者のことだ<界治者>は異世界に8人いる」


依然 彼女の頭は?だらけだ


(やっぱり馬鹿なんだな…)


俺は少し安心する


「まぁわしから説明しよう

そのガキの説明力はどんぐり以下だ…」


先程まで静かに説明を聞いていた老人が

割り込んでくる


毒舌を吐いて



(なんだよ…どんぐり以下って…)



「<界治者>ってのはこっちの世界で言うなら首相ってところだ…異世界は広いから8人で治めているってこった…分かったかね?

お胸が大きいお嬢ちゃん?」


(相変わらずこのジジイは…)



「丁寧でわかりやすい説明でした…

ありがとうございます」


納得できたのか律儀にお礼を言う


(悪かったな…説明力皆無で…)


「それはそうとわしのダークスピリットが…とか言ってたな どういうつもりだ?」



かつては師匠であった…

なのに何故 攻撃をしてくるのか

この老人を見たころから疑問が

浮かんでいた


「それは…」


言葉に詰まっている様子が見て取れる



「なんだよ!?早く言えよ!?

何で俺達を攻撃する!?」



老人は俺の顔を見つめている


「何で攻撃したかぐらい言えるだろー!!」


しびれを切らした俺は剣を構え老人に刃向かう


正面から一刀両断…とはいかなかった

俺の剣は老人の指2本で止められていた


(ちっ!腐っても<界治者>ってところか…)



異世界を統治するもの

故に実力も折り紙付きなのだ




「これこれ…老人に剣でぶった斬ろうとは…わしはそんなことを教えた覚えはないぞ…?」


そのまま指で俺の剣を砕く



「うがぁぁぁ!!!」


俺は地に落ち悲鳴をあげる



「そ、颯馬…?」


訝しげな表情でミエラが俺を見る



「ほっほっほ やはり未熟じゃのう…」


「《千刃》は能力だけ見れば神を凌駕する

しかし、決定的な弱点があってな…?」


老人の不敵な笑みは変わらない



「さっきみたいに剣を破壊されると

心臓に鋭くダメージが入る…

これこそが弱点なのじゃ」


初めて聞く少年の弱点


ミエラはただ もがいている颯馬を見ているしかできなかった





(…さっきの剣を颯馬に!)


彼女は思い出す

自らを救ってくれた剣を…



彼女は走り 突き刺さっている

<清水の剣 アクアブレイド>をとる


「颯馬!ちょっと痛むぞ!!!」


「な、何を…?」




視界が朧気な俺は彼女が何をしようとしているのか分からなかった


グサッ!!!

音ともに清水が弾ける


「ほっほっほ 何をしようとしているか分からんがそのダメージではまる二日は起きないぞよ…」


老人が笑っていう




颯馬の意識はこの世とあの世の境目にいる


(ん…どこだここ…)


一面ピンクの国…


(ああ…夢の国か…)


確か俺の激しい寝起きを初めて見たのは

ミエラだったな…


ふっ と笑みがこぼれる


(剣を破壊されただけでこの様だ…)


全く成長してないことを実感する



(このままピンクの国で過ごすのもいいな…)


(さっきの「初めて」の女の子いるかな…?

今なら上手くやれそうな気がする…)


(あれ…どんな顔だっけ…?)


彼の頭には顔が思い浮かばない


(ああ…思い出した…確か紅髪で…

俺よりラーメンめっちゃ食うやつで…

ちょっと馬鹿なやつだ…)


ん?徐々に顔が思い出され

その顔は見覚えのあるものとなっていく


その顔は…



「って!!!ミエラじゃねえーか!!!」


また起きた

寝言ともに


上体を激しく起こすと涙を流すミエラが

俺に抱きついていた


(!?!?!?)

颯馬はこの状況が飲み込めていない

女性に抱きつかれたこともない


(どうしよう…とりあえず抱きついておくか…)


胸が大きい少女に抱きつかれている

夢のような状況だけは素早く飲み込み

恩恵だけ受けようと抱きつき返す



「颯馬!!起きたのだな?良かった…」


紅髪の少女は安堵の表情を浮かべる



「悪いな…また恥ずかしい寝起きを見られちまった…」


「気にするな 忘れてやる」


彼女の寛大な措置に 感謝の意を述べた後


再び老人 フォルーカス公爵に問う


「で?何で俺達を攻撃する?」

老人は静かに答える


「それは…わしは

<変革を望みし者 ハイデス>に入った

それでいいかの?」


老人の口から述べられる事実に

思わず声を荒げてしまう


「何!?<変革を望みし者 ハイデス>だと!?何故だ!?どこまで堕ちたんだよ!俺の師匠は!?」


興奮を隠せない俺にミエラが聞く

申し訳なさそうに


「その…<変革を望みし者 ハイデス>とは何なのだ?」


(わかりやすく…わかりやすく)


颯馬には見えないプレッシャーがかかっている


「世界の破壊者…と言ったところだ」


静かに言い落とした


「ほっほっほ世界の破壊者とは

随分な物言いじゃのぉ…」


老人は嘲ながら言う


「だって変わらないだろう!?

お前らは自分らの都合の良いように

国を壊してるだけじゃないか!?」


「変革を望んでいるだけだよ…わしは…」

一変して悲哀の表情を浮かべる老人


「何が正しいのか…私には分からないな…」

困惑している少女に言い放つ

「悪い…お前は知らなくていい…

ただ1つだけ 俺の願いを聞いてくれるか?」



何だ? と彼女が聞く


「ミエラ…お前の<炎>を俺に貸してくれ…

こいつをぶっ飛ばす!!!」



俺の心は怒りの炎に侵されていた


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