見えなくなったもの

記録──〝月に魅入られて〟



〝我々は決断した。月へ行くという選択をした。〟

   ――ジョン・F・ケネディ



〝地上に足跡を印したあまたの生物の中で、月を見る習慣を持ったのはヒトザルが最初だった。覚えてはいないが、小さなころ〈月を見るもの〉は、山々の背にのぼる青白い顔を見て手をあげ、それにさわろうとしたものである。〟

   ――アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』



〝うさぎ うさぎ なに見て はねる

 十五夜 お月さま 見てはねる〟

   ――『うさぎ』



〝神は二つの大きな光を造り、大きい光に昼をつかさどらせ、

 小さい光に夜をつかさどらせ、また星を造られた。

 神はこれらを天のおおぞらに置いて地を照らさせ、

 昼と夜とをつかさどらせ、光と闇とを分けさせられた。

 神は見て、良しとされた。〟

   ――『創世記』



〝次に月讀命ツクヨミノミコトに賜りたまひしく、「汝命いましみことは夜の食國をすくにを知らせ。」と事依さしき。〟

   ――『古事記』



〝とりわけ、月に関する神秘が僕にはまったく謎に思われた。月がいろいろな形を持つ事には、何か神秘な理由があると考えたのだ。〟

   ――ルキアノス『イカロメニッポス』



〝ギリシアに住んだ最初の人間達もまた、異国人達が今も拝んでいる神々と同じもの、すなわち太陽と月と星と天だけを信じていたようだ。〟

   ――プラトン『クラテュロス』



〝宗教上の信念やしきたりが宇宙の形や天体に考慮する限り、それらが第一に対象にしたのは太陽ではなく、月だった。〟

   ――アンリ・ブリフォー『母性』



〝星が転がって進むのではない事も明らかである。なぜなら転がって進むものは裏返しにならねばならないが、いわゆる月の顔はいつも見えているからである。〟

   ――アリストテレス『天について』



〝月は人間の精神にも影響が認められる。……月の光が増す時は才能、名声、安定性、明快さが増す。月の光が弱まったり消えた時には停滞を引き起こす。〟

   ――プトレマイオス『テトラビブロス』



〝月は湿気で大地を満たす。大地に近づく時、あらゆるものを満たし、退く時には空っぽにする。……無血の生物は特に月の息吹を感じる。人間の血液さえ月の光で増減する。〟

   ――大プリニウス『博物誌』



〝月が満ちる時にはあるものが盛んになり、欠ける時は別のものが盛んになる。なぜならば、月の光により与えられる湿気はあるものには有益だが、他のものには有害だからである。〟

   ――プルタルコス『倫理論集モラリア



〝月は自分で光を放っているのか、いないのか。……もし自分の光を持たないのなら、月は球形の鏡であるに違いない。月は自分の光を持たず、太陽が照らしてくれる時だけ光るのだ。〟

  ――レオナルド・ダ・ヴィンチの未整理手稿



〝月の下にあるものは全て死と腐敗から逃れられない。例外は神々より与えられた魂だけである。それに対して、月の上は全てのものが永遠不滅である。〟

   ――キケロ『国家論』



〝私は、月こそが、この秘められた学問の根源である事を知っている。〟

   ――セニオル・ザディト『錬金術について』



〝月の光を顔に浴びて眠ってはいけない。月に命を吸い取られるから。〟

〝満月の晩に生まれた子どもは、必ず気が狂うという。〟

   ――ドイツの俗信



〝月見るは忌みはべるものを。あさましく、はかなき御くだものをだに御覧じ入れねば、いかにならせたまはむ。〟

   ――紫式部『源氏物語』



〝人間はあらゆるものが月と同調して充ちたり欠けたりすると推測してきた。〟

   ――J・G・フレイザー『月との共感意識のドクトリン』



〝なぜ眠っているのだ、イーヴ? こんな気持の良い時は他にない。

 ……月も今宵は満月だ。そして夜空に君臨して陽光ひのひかりよりもさらに快い光を放ち、万象のおもてをほのかに浮かびあがらせている。

 ……大空がその目を輝かせているのは、お前を見るためでなくて何だと思う?〟

  ――ジョン・ミルトン『失楽園』



〝罪と不正の影に埋もれた者は月を見上げよ。神の恩寵を失った者に太陽は無い。しかし月は未だ地平にある。――罪人を聖母マリアに向き合わせよ。そうすれば、月の影響を受けて、多くの者が神への道を見出す事だろう。〟

   ――イノケンティウス3世の教説(12世紀)



〝イスカリオテのユダはいつも月に見られている事に耐えきれなくなって叫んだ。

 「俺に向かって開いている目よ、お前を潰してやるからな! 抉り抜いた血だらけの穴は芝の束で塞いでやろう!」

 ユダは月まで昇ったが、そこで見えない手に捕まって磔になった。〟

   ――月の模様を説明する民話(フランス)



〝「……ぼくはこう思うのだよ。月もこの世界と同じような一つの世界であって、そこではわれわれの世界の方が月の役をつとめているのだとね。」

 すると、みんなは私に気前よく爆笑を浴びせかけてくれた。〟

   ――シラノ・ド・ベルジュラック『月の諸国諸帝国』



〝そして月の大半が広大な海に覆われ、地球からは他のところよりも幾分暗く見える部分だけが乾いた大地である事に気が付いた。〟

   ――フランシス・ゴドウィン『月の男』



〝地球は実は私の頭上にあって、気球の向こう側に完全に隠されており、月――栄光に包まれた月――は、私の下に、しかも私の足許に横たわっているのでした。〟

 ――エドガー・アラン・ポー『ハンス・プファアルの無類の冒険』



〝すなわち、月は決して滑らかで磨かれたような表面で覆われているのではなく、起伏があって平坦でない表面で覆われており、それはちょうど地球の表面のように、大きな隆起や深い窪み、そして凸凹が至る所で充ちているのである。〟

   ――ガリレオ・ガリレイ『星界の報告』



〝地球の科学者の多くは、月が死の天体だという考えを表明しています。もしこれがほんとうで、文字通り月が死んでいるとすれば、とっくの昔に月は解体して宇宙から消えて無くなっています。でもそんな事はありません。それはまさに生きており、そこに住む生物を生かしているのです。〟

   ――ジョージ・アダムスキー『UFO搭乗記』



〝あらゆる地母神は大地として、また月として、二重の生命を生きている。〟

   ――ヨハン・バッハオーフェン『母権論』



〝月の眺めは美しいと同時に憂鬱なものだ。月は死の世界だ。空気も水も無くなった星。回転する骸骨のような世界だ。〟

  ――フランク・テイラー『科学の世界』



〝運命の力で奪い取ったり、与えたりできぬものまでそこにはあった。

 ……恋人たちの涙や吐息、遊びのうちに費やした無益な時間や愚か者らの長き怠惰や、絶えて日の目を見る事が無かった空しい企て、空しい望みがその場をほとんど埋めていた。地上ではもはや失せたるもの全て、月に昇れば見つけることができるのだった。〟

 ――ルドヴィーコ・アリオスト『狂えるオルランド』



〝おのが身はこの國の人にもあらず、月の都の人なり。それを昔の契なりけるによりてなん、この世界にはまうで來りける。〟

   ――『竹取物語』



〝お前が自分の目で見た事、伝え聞いた事、書物で読んだ事を私に話してくれたのと同じように、大抵の事は精霊が私に話して聞かせてくれたのだよ。そうだ、精霊がよく話していたあの国へお前と一緒に行ってみたいものだね。話では何もかもが面白そうだよ。そしてその国の名は「レヴァニア」だと母は言った。〟

   ――ヨハネス・ケプラー『夢、もしくは月の天文学』



〝ヘラジカが欲しければ偉大なる月に頼めばいい。ただし月を試すような心があってはうまくいかない。偉大なる月がお前の頼みをなんでも聞いてくれると心から信じた時だけ、月はなんだってお前に与えてくれる。〟

   ――カナダの俗信



〝この世をばわが世とぞ思ふ 望月の欠けたることもなしと思へば〟

   ――藤原道長



〝嗚呼、毎晩姿も居場所も変わる月なんかに誓うのはお止めになって。

 貴方の心までが月のように変わってしまいそうで、とても恐ろしいの。〟

  ――シェイクスピア『ロミオとジュリエット』



〝月はあらゆる生き物のための蜜であり、あらゆる生き物は月のための蜜である。〟

  ――『ブリハド・アーラニヤカ・ウパニシャッド』



〝通常の生命の状態では、月から自由になる事はできない。人間のあらゆる活動とその結果は月に支配されている。他人を殺せば、それは月がしているのだ。他人のために自分を犠牲にすれば、それも月がするのだ。……精神力と才能の成長とともに生じる解放は、月からの解放である。〟

   ――ピョートル・ウスペンスキー『奇蹟を求めて』



〝かの漂へる一物中ひとつのものより……天と成り、その跡に残れる地となるべき物は、未堅まらず在し時、その底にもまた一物の芽生て、それ即ち泉国よみのくにとなれるを、後に地と断離れて、いま見放る月、即ちこれなり。〟

   ――平田篤胤『霊能真柱』



〝おそらく、ありえない事ではない。月が惑星で地球がその衛星なのだ! 我々の地球は、月より大きな月なのではないか?〟

  ――ヴィルヘルム・ハーシェル『月の山々の観察』



〝われは指を以て月を指し、汝をしてこれを知らしめんとするに、汝は何が指を看て、月を視ざる。〟

   ――『大智度論』



〝覇権について言うならば、核時代の宇宙では、月を支配する事は太陽系全体を支配する事を意味するだろう。〟

  ――1946年9月付『コリアーズ』誌



〝私が少年だった頃、よく大きな月の夢を見た。……まぶしいほど明るく、たいへんに近いので、ちょっと手を伸ばせばその表面を触れそうだと思った。それは空を早く動いた。突然それは姿を変え、ほとんど爆発的にバラバラに壊れた。……次いで私の下の地面は揺れ始め、どうしようもない恐怖が私の上に落ちかかった。〟

   ――ハンス・ベラミー『月、神話、人間』



〝子供のときは、月の憎しみに関する秘密を知っていたような気がする。だが現在、その秘密は失われてしまっているのだ。だが今でも、ふとした瞬間、すべてが氷解し、思い出がひらめき、探し求めていた一語を見つけたような気がするのだが――その直後に忘れ、不安だけが残る。逃れられぬものへの恐怖、ぞくぞくする恐怖がね。〟

   ――レーオ・ペルッツ『月は笑う』



〝月は嫌いだ――月はこわい――なぜなら、見慣れた大好きな景色も、月が光ると時どき見も知らぬ悍むべきものに変じてしまう事があるからだ。〟

   ――H・P・ラヴクラフト『月の魔力』



〝「この子は三つも名句を作ったんだぜ。あんたがこの子を監禁したりしなけりゃ、この子はきっと詩人になる。この子はきっと、あんたたちの尊い正気の世界を、この子の母上、月の炎で燃え上がらせるだろう。あんたたちの宮殿はおしまいだぞ、テイラー、あんたたちの王国は塵と化すんだ。警告しておくぞ。」〟

   ――ミドルトン・リチャード・バラム『月の子たち』



〝私はあなたのお手紙ではじめてK君の彼地での溺死を知つたのです。私は大層おどろきました。と同時に「K君はたうとう月世界へ行つた」と思つたのです。〟

   ――梶井基次郎『Kの昇天』



〝あの天体に光と闇の神秘を見るのか、それとも、無数の原子を見るのか。もし、人間の意識が、月だと感じなくなれば、それは月ではなくなるのです。〟

  ――ラビンドラナート・タゴール(1930年・NYタイムスマガジンに掲載されたアインシュタインとの対談での言葉)



〝月は心になって、心臓に入った。〟

  ――『アイタレーヤ・ウパニシャッド』



〝かれこそは太陽を輝やかせ、月を灯明とされ、その軌道を定め、年数と時日の計算をあなたがたに教えられた方である。アッラーがこれらを創造されたのは、只真理を現わすために外ならない。かれは知識ある人びとに印を詳しく述べられる。〟

   ――『コーラン』



〝私はあなたの指がお造りになった天を見て、あなたが設けられた月と星を見て、思います。人はどうしてこれらに心を捉えられるのでしょうか。人の子とは一体何者なのでしょうか。〟

   ――『詩篇』



〝おお、月よ。我々は智をもってあなたを知るべきだ。正しい道を通じて、我らを導き給え。〟

  ――『リグ・ヴェーダ』



〝月よ! あなたの中には何があるのだ! 私の心をこれほど激しく揺さぶるとは。〟

   ――ジョン・キーツ『エンディミオン』



 "Fly me to the moon. Let me play among the stars.

  Let me see what spring is like on Jupiter and Mars.

  In other words, hold my hand! In other words, daring, kiss me!"

 (私を月まで連れて行って。 星々の間で遊んでみたいの。

  私に木星や火星にはどんな春が訪れるのか教えて欲しいの。

  言い換えるなら、手を握って! 言い換えるならダーリン、キスをして!)

   ――『Fly Me To The Moon』



〝今のところもっとも矛盾しない説明は、あれは単なる見間違いで、月など実は存在しないという事だ!〟

  ――ある天文学者が言ったとされるジョーク



〝あの 人間が月に到着した日から…………

 人の心から夢も空想もまたたくまに消えて行ったんだ……。〟

   ――手塚治虫『I.L』



〝名月を とってくれろと 泣く子かな〟

  ――小林一茶



〝「今まで見えなかった月が、とうとう見えた!」

 三人は、瞬間的な光芒によって、人類の目が初めて接するこの神秘に閉ざされた円盤をかいま見たのだ。〟

   ――ジュール・ヴェルヌ『月世界へ行く』



〝これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。〟

   ――ニール・アルデン・アームストロング船長







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 【lunatic】――ルナティック。狂気の人。愚か者。精神異常者。

  語源はラテン語。lunaはローマの月の女神・ルナを指す。

 「月に魅入られた愚か者」の意。

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 【cry for the moon】――「月を欲しがって泣く」。

  決して手に入れられないものを欲しがる事。叶わない夢の意。

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