第73話 インタビュー
「杉山さん、何かあったの?」
上田先輩が聞いてきた。
「はい、会社に入る前に談合の取材をしているらしくて、インタビューを受けたんですが、私、その何にも分からなくて……」
「そうねぇ、きっと、うちの会社も何かやっているんじゃないかって、疑っているのよ。何かあれば、取材側のスクープになるし。それと後は絵がほしいのよ」
「絵ですか?」
「そう、杉山さんのような美人だとTV映えするでしょう。にこやかに笑って答えると、視聴率が伸びるしね」
「私なんか、TV映えするような美人じゃありません」
「本気で言ってるなら、自分の価値を分かっていないわ。嘘で言ってるなら、女性に嫌われるタイプね」
「嘘なんて言ってません。上田先輩の方が綺麗だし、仕事もできるし、尊敬しています」
「杉山さんって、芸能人とかになろうと思った事は?」
「一度もないです。私は愛する人の傍らに居たいです」
「へー、なんか古風な感じね」
「良く、言われますが、私はそれが一番だと思っています」
夜、智さんに今日の事のお礼を言う。
「あなた、今日はありがとうございました」
「自分の妻を守るのは、当たり前じゃないか」
「これで、あなたに助けられたのは2度目です」
「俺は彩にいつも助けられているから、それから考えると大した事ないさ」
「私はいつも助けていませんよ」
「いや、家の事をいろいろやって貰っている。炊事、洗濯、掃除、それだけでも大いに助かっている。
ほんとは礼の一つでも言わなきゃいけないんだけど、その、恥ずかしいから」
「あなた…」
私は思わず、涙が出た。
智さんは、私の事をちゃんと見ていてくれたんだ。
「コンコン」
「どうぞ」
相変わらず、社内報に掲載する案件の会議を続けていた時に、一報が入って来た。
「渉外1課が、愛知県の国道整備事業を受注したようです。総額94億円の大型受注です」
「おっ、なんと、タイミングがいい。それでいこうか」
課長がそのネタに飛びついた。
課長がそう言うと、会議はそれで決まってしまう。
それを受けて、青山係長が後を引き継ぐ。
「それじゃ、上田さんは渉外1課に取材の手配をしてくれ。それに杉山さんも連れて行って、いろいろ教えてやってくれ。
杉山さんいいね、上田さんのサポートで頼む。
あと、カメラマンは宮田主任に頼む。
向こうの杉山課長、おっ、杉山さんと同じ名前か、なにかきっかけを作って裏話を聞けたらいいな、おっと、杉山課長には俺から電話しておく」
会議が終わって、席に戻ると、青山係長が早速、会社の携帯電話を握っている。
「もしもし、私、広報課の青山ですが、この度、愛知の国道整備に関して受注されたとお伺いして、はい、それで、社内報に載せるための取材をお願いしたいと思いまして、お電話を差し上げた次第です。ええ、はい、分かりました。そのお時間で、お伺いさせて頂きます」
電話が終わったら、私と上田先輩の方を向いて
「okだそうだ。明日の10時くらいなら開いているそうなので、上田さんと杉山さん、ああとカメラマンで宮田くん、行ってくれるか?」
「10時ですね、分かりました」
代表して宮田主任が答えた。
家で炊事をしていると智さんが帰って来た。
夕食を採りながら、明日取材に行く話をする。
「明日、あなたの所に取材に行きます」
「ああ、聞いてるよ。彩も来るのか?」
「ええ、私もサポートという事で行きます」
「なんだか、照れ臭いな」
「私だって、ドキドキです」
「彩の方が、心臓に毛が生えているだろう。結婚式の時だって、俺の方が震えていたのに彩は平気だったし」
「そんな事ないです。私もドキドキでしたもん」
夜、ベッドに入ると、智さんが口付けしてきた。
口付けの後に寝間着のボタンを外す。
「あっ、そんな事すると明日恥ずかしいかも」
「彩は、神経が太いから大丈夫」
「あーん、もう、いっぱい愛して」
翌日、宮田主任、上田先輩、それに私の3人で智さんの課に取材に行く。
挨拶が終わると、上田先輩が智さんと話をする。
「それでは、今回のインタビューは新人研修も兼ねて『杉山』の方で行いますので、よろしくお願いします。
なにせ、まだまだですので、失礼な事があるかもしれませんが、よろしくお願いします」
上田先輩が一通り説明し、設計チームの人たちからのインタビューで始まる。
私は初めてなので、どうやってインタビューしたらいいか分からない。
所々、上田先輩の指導を受けつつ、インタビューをして行く。
次は武田係長一人のインタビューに移るけど、武田係長も緊張しているみたい。
この前、TVニュースの時に電話をしてきたのが、この方だったんだわ。
武田係長が終わったので、いよいよ智さんへのインタビューだけど、なんだか凄く緊張する。
しかも、こんな時に限って、昨日の夜の事を思い出し、恥ずかしくなってしまう。
「杉山課長にインタビューします。今回の受注について感想をお願いします」
思わず、智さんの目を見てしまう。なんだか、安心するようで、心地よい感じがしてくる。
そして、台本どおりのインタビューが終わる。
「それでは、あなた、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「ちょっと、杉山さん、杉山課長に向かって『あなた』はないでしょう。いくら同じ名前だからって。失礼ですよ」
「あっ、すいません」
つい、家のつもりで言ってしまった。
上田先輩がフォローに入ってくれた。
「課長、申し訳ありません。私からも良く言っておきますので、新人と思って許して下さい」
「いえ、全然、問題ないです」
「夫婦じゃないのに『あなた』は、ないでしょう」
でも、私たち夫婦なんだけど。
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