第68話 ウェディングドレス

「フンフン♪」

 なんだろう、今日は朝から気分がいい。

 今日の朝食もなんだか、美味しそうに思える。


「新人研修って、金曜日までか?」

「そうだけど、木曜日、金曜日は所属部と所属課での研修になるから、実際は明日までね」

「と、いうことは俺の所にも新人が木曜日には来るってことか」


「話は変わるけど、名古屋にも一度行っておかないと。会場とか見ておいた方が、いいと思うの」

「そうだな。陽子さんにも連絡しておくか」

「また、酒盛りになっちゃうんでしょ」

「いや、今度は短いし、そんな事にはならないと思う。……たぶん」

「たぶん?」

「い、いや、ならないさ」

「フーン、まあ、いいわ。お母さんにも良く言っとかなきゃ」

 今度の週末、名古屋に行くことにした。


 名古屋での披露宴もそんなに来賓が多い訳ではないので、隣の街にある洒落たレストランで行う事になっている。

 ここは里紗ちゃんの紹介だ。

 何でも友人の兄弟が同じように披露宴をしたらしく、評判もいいらしい。

 私たちの披露宴では、里紗ちゃんが大活躍してくれるみたい。


 緒川駅に着くと、お義父さんが車で迎えに来てくれている。

「やあ、良く来たな」

「また、お世話になります」

 母が挨拶する。

「お義父さん、またお世話になります」

 私も母に続いて挨拶する。

「彩ちゃんはうちの娘なんだから、お世話になりますなんて、他人行儀じゃなくていいんだよ」

 お義父さんが、そう言ってくれるのは嬉しい。


 家に入ると、2日ほど前に送ったウェディングドレスが客間に飾ってある。

 レンタルでもといいと思ったのだけど、母が

「せっかく一生の思い出になるのだから、買いなさい」

 と言って、お金を出してくれたので、3人でお店に行って選んだものだ。

「まあ、次も使えるからいいんじゃない」

「次なんてありませんから」

「ホホホ」

 もう、智さんだけじゃなく、母も意地悪だ。


 ウェディングドレスの前で話をしていると、軽自動車が入って来た。

 里紗ちゃんたちだわ。

「こんにちわ」

 やっぱり、里紗ちゃんの声だ。

「お父さん、お母さん」

 続いて恵子さんの声もする。

 二人だけかと思ったけど、やっぱり武司くんも来ている。

 訊ねて来た全員で、ウェディングドレスを見る。

「素敵ね」

「ほんとに」

 里紗ちゃんと恵子さんは溜息をついているけど、男の武司くんはそこまではないみたい。


「ねぇ、お母さんもウェデングドレスを着たの」

 里紗ちゃんが母親の恵子さんに聞く。

「着たわよ。やっぱり憧れだもの」

「お父さんは?」

「お父さんはタキシードだったかな」

「えー、今じゃ考えられない」

 義弟の義男さんは髪も薄くなって、お腹も出てきているので、タキシードがイメージできない。

 それでも智さんより、歳は下だったような…。

「そうね、昔はお父さんもいい男だったのにね」

「恵子、それはお前もそうだろう」

 智さんが妹の恵子さんに言う。

 恵子さんもたしかに今では、おばさんと言われても仕方ないかもしれない。

 正直、私の母の方が若く見えるかも。

「そうね、歳は取りたくないわ」

「私も気を付けようっと」

「里紗の将来が隣に居るんだ。良く見て心に刻め」

「げー」

 いつも里紗ちゃんに喧嘩を仕掛ける武司くんが今日は珍しく、黙っている。

「どうした武司?」

「いや、自分も髪が薄くなって、腹が出るのかなと思って…」

「それは個人の努力だろうな」

 お腹はそうかもしれないけで、髪は個人の努力で、どうにもならないと思うけど…。


 その後、里紗ちゃんから簡単に披露宴の話を聞いて、夕方に会場に行くことにする。

 今日は1組披露宴が入っていて、それが終わるのが3時くらいとの事。

 それから、夕食のディナーまでの間なら、会場を見る事ができるということだっので、4時位に行くように伝えてあるとの事。

 車2台に分乗して行ってみると、ちょっと大きなレストランって感じで、造りが白に統一されているのは、結婚式の披露宴とかにも使えるようになっているのかもしれない。

 中の大きさも結婚式場には及ばないものの、それなりにしっかりとした造りになっている。

 隣部屋には支度部屋もちゃんとある。

 今回は、ウェディングドレスと普通のドレスだけなので、お色直しは1回だけにした。

 最初レストランと聞いたので、大した設備はないだろうと思っていたけど、小結婚式場といった感じで素敵。

 その後、お店のスタッフと手順を確認する。

「細かいところは、里紗に任せるがいいか?」

 智さんが、里紗ちゃんにお願いするみたい。

「うん、友人にウェデングプランナーの専門学校に行ってる人もいるから協力してくれるって」

「それは悪いな、何か費用がかかるようなら言ってくれ」

「その時は、遠慮なく言うね」

 帰りは緒川駅横にあるデオンに寄って、食材を買ってから帰る。

 だけど、やっぱり夜は酒盛りになって、うちの旦那さまは早々に潰れた。

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