第55話 外国での夜明け

 お風呂を見ていた智さんが言う。

「風呂に行くか」

「はい…」

「よいしょ」

 智さんが私をお姫さま抱っこすると、私は智さんにしがみ付く。

 バスルームの前にある洗面所で降ろして、智さんは私のバスローブを脱がしていく。

 智さんに脱がされるのは恥ずかしいけど、ここは智さんにまかせよう。

 でも、無意識に胸を隠す。

「いや」

 そう言うけど、智さんはいつもより強引な感じがする。

 智さんも着ている物を脱いで二人でパスルームの中に入り、バスタブに二人揃って身を沈める。

 智さんは後ろから私を抱きかかえるようにして、バスタブに身を沈めている。

 私が首を回すと、私の唇に智さんの唇が重ねられる。

 唇を重ねたままで、私が身体を捻って智さんと向かい合うと、さっきまで、私の胸を包み込んでいた大きな手は、今は私の背中を抱いている。

 私は智さんの首に手を回すと、智さんから唇を離した。


「あなた、今夜はいっぱい、可愛がってください」

「今夜は、寝かさないさ」

「フフフ、嘘ばっかり。直ぐに寝ちゃうじゃない」

「そ、そうだけっけ…。でも、がんばる」

「旦那さま、これからもよろしくお願いします」

 バスタブの横にあった小瓶を見ると、バブルバスって書いてあるので、お風呂に入れてみると、泡風呂になった。

 まるで、映画に出て来る女優のようになって、私は思わず声が出てしまう。


「彩はもう少し入っているといい、俺はシャワールームで髭を剃って先に出るから」

 バスルームの中には、別にシャワールームがあるので、そこで髭を剃るらしい。

 髭を剃るなんて、女性には分からない行為だ。

 智さんは髭を剃り終えると、今度は頭を洗って先にバスルームから出ていった。

 私もシャワールームで洗髪し、洗面所で髪を乾かした後、お肌の手入れを済ませて、ベッドルームに行く。

 智さんは衛星放送で、日本のニュースを見ていたけど、私が、智さんのベッドに入ると智さんはTVを消した。

 智さんが、私のバスローブを脱がしていくけど、その手が止まる。

「おおっ」

「いや、恥ずかしい」

 私は、智さんに内緒で買った、スケスケのベビードールと、透けた下着を身に着けてきた。

「ううん、俺は嬉しいよ、俺の事を考えてくれたんだろう」

「うん、友だちが新婚旅行なら、男の人が喜ぶ格好をした方がいいと言うので、通販で買ったの」

 早紀ちゃんが、お姉さんから聞いてくれたらしい。

 でも、ちょっと度が過ぎたかもしれないけど、智さんが喜んでくれたなら良かった。

 TVを消すと、仄かな灯りしかないので、今の身体を見られてもそれほど恥ずかしくない。

 でも、見つめられるとやっぱり、恥ずかしい。

 早く、この衣装から解放して。

 智さんがブラジャーを外すと、私から智さんの首に両手を絡めて、口付けをする。

 智さんは口付けをしつつ、右手を私の中心部に滑り込ませて、私の秘密を暴く。

「あなた、だめ」

 なんだか、今日の私の身体は変。

「ああっ」

 頭の中が真っ白になる。いつもはこんな事はないのに。

「あなた、来て」

「夜は長い、もう少し楽しもう」

「早く一緒になりたいの。あなたを感じていたい」

 意地悪な智さんは今日も意地悪をしてくるけど、その意地悪に遊ばれてしまう。

「ああ、あなた、お願い」

 私は智さんの腕の中で、どうかなってしまっているかもしれない。

「彩、一緒になろう」

「ええ、お願い」

 智さんが私の中に来た。

 私の記憶はそれから無くなった。


 翌朝、気が付くと隣に智さんがいない。

 私は目で、大事な主人を探す。

 すると、旦那さまは、窓際にある椅子に腰かけて、下を通る車を見ていた。

 何をしているのだろう?

 私は、バスローブを羽織って、ベッドから出ると、智さんの座っている正面の椅子に座った。

 智さんの考えている事を探るように、黙って顔を見る。

「何を考えています?」

「何も」

「嘘」

「彩は何を考えている?」

「あなたの事」

「嘘」

「嘘じゃない」

「俺のどんな事」

「あなたは、私があなたの中に、父親を見ているんじゃないかと、思っているでしょう。

 それにこの先、自分が死んだら、私が不憫だと思っているでしょう?

 だから、私が若い人を見つけても、追いかけて来ないようにしようと考えている。

 でも、私はそれが悲しい。だから、あなただけを見ていたい。

 あなたから、『どこかへ行け』と言われないように」

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