第52話 新年
階下に行くと、既に全員が揃っている。
その前に昨日、買って来たおせちが並ぶ。
「それでは、明けましておめでとう」
お義父さんが言う。
「明けまして、おめでとうございます」
全員が復唱して、お正月最初の食事になる。
「それでは、里紗と武司にだ」
お義父さんが、お年玉を里紗ちゃんと武司くんに渡す。
「うわー、お爺ちゃんありがとう」
「お爺ちゃんありがとう」
「そして、これは彩さんにだ」
「そっ、そんな、私は智久さんの妻ですし…」
「と、言う事は子供ってことだな」
「彩、折角だから貰っておきなさい」
「はい、お義父さん、ありがとうございます」
「お義父さん、ありがとうございます」
母もお義父さんに対してお礼を言う。
「いやいや、いいんだ」
お義父さんがお年玉を配ると、男性陣と母とで酒盛りが始まった。
朝から始まった酒盛りは夕方まで続き、智さんは早いうちにダウンしている。
最後まで、残ったのはやっぱり母だった。
お母さんって、酒豪なんだ。
義男さんは恵子さんから、ぶつぶつ文句を言われながら、里紗ちゃんと武司くんと一緒に恵子さんの運転する車で、帰って行った。
智さんは早めにダウンしたので、2階の部屋で寝ている。
私もその横で眠った。
智さんが起きて、どこかに行こうとしている。
「お水ですか?」
「ああ、頭がクラクラする」
「私が持って来ます」
私はガウンを羽織ると、1階に降りて行き、コップと水差しを持って来た。
「母も見てきましたが、ぐっすり寝ていました」
智さんは、何か感心したように頷いた。
「ちょっと、シャワーを浴びて来る」
智さんは、お風呂に入っていなかったので、お風呂に入りたいみたい。
智さんが、お風呂に行くというので、着替えを出す。
「着替えを出しますね」
スーツケースの中から新しい下着を出して智さんに手渡すと、智さんはそれを持って、お風呂場に向かった。
しばらくすると、シャワーを浴びた智さんが、さっぱりした表情で部屋に戻って来た。
「寝ていても良かったのに」
「ううん、私も眠れなくて」
智さんは私の寝ている布団の中に潜り込んで、身体を抱きしめてきた。
「あっ」
東京と違って、こちらの深夜は物音ひとつしない。
智さんは、私の寝間着のボタンを外してくる。
「今から彩を愛する事にする」
「いっぱい、愛して下さい」
私は智さんに抱きついた。
翌朝、下に降りていったのは8時を過ぎていた。
「おはよう、智久さんもさすがに、昨日は潰れていたようね」
「ええ、陽子さんには適いません」
「お父さんもそうよ。親子二人して似た者同士ね」
私のお母さんが異状なのよ。
私が朝から機嫌が良かったので、母が聞いてきた。
「彩、昨日の夜、旦那さんは大丈夫だったの」
「途中、起きてお水がほしいって言うから、お水を持って行ってあげただけ」
「ふーん?」
なんだか、母には昨夜の事を見透かされている感じがする。
「あなたたち、今日は何時の新幹線?」
お義母さんが智さんに聞く。
「名古屋駅を18時発の新幹線だけど…」
「そう…」
お義母さんも寂しいのね。
「今度は3月に結婚式を挙げるから、3月に東京に来るだろう」
「そうね」
「そしたら、私の家に泊まって下さい。いつもお世話になってばかりじゃ悪いから」
前も泊ったし、それがいいわ。
「えっ、いいのかしら」
「全然、問題ありません。新婚さんの家に泊まるなんてヤボですよ」
「まあ、そうね、ホホホ」
もしかしたら、お義母さんも昨夜の事を知っているかもしれない。
昨日、智さんたちはお昼からお酒を飲んで酔いつぶれていたので、今日、初詣に行くことにした。
正月も2日目なのに、初詣のお寺にも、参拝者がちらほらと居る。
この人たちも、昨日はお酒を飲んでいたのだろう。
「それでは、お元気で」
「東京に行った時は、よろしくお願いします」
お義母さんたちが東京に来た時は、母の家に泊まる事になったみたい。
「お義母さん、お世話になりました。また、来ますので、よろしくお願いします」
「ええ、ええ、また来て下さいね」
私もお義母さんに挨拶する。
私たちは、緒川駅から名古屋方面に向かう列車に乗る。
「まもなく、三鷹です」
中央線の電車のアナウンスが終わると、智さんが母に聞く。
「陽子さんは、泊って行きますか?」
「いえ、このまま帰ります。新婚さんのおじゃまをすると悪いから」
「そんな事ありませんよ」
「でも、長い事家を空けたから、仕事も溜まっているだろうし、掃除もしなくちゃ」
母は海外の雑貨を輸入して、ネットで販売しているので、発送作業を行う必要がある。
「そうですか、それでは気を付けて」
私たちはそのまま三鷹で下車して、懐かしのマンションに向かう。
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