第51話 実家での年末

 緒川駅に着くと、お義父さんが車で迎えに来ている。

「母さんが昼の用意をして待ってるぞ」

「もう、わざとお昼に来たみたいで、申し訳ありません」

「いや、なんの。母さんも喜んで支度をしていたから、大丈夫だ」

 家に着くと、お義母さんと智さんの妹の恵子さん、それに姪の里紗ちゃんも一緒にお昼の用意をしている。


「手伝います」

 私と母も手伝うように言うけど、

「いいのよ、もう終わるから」

 里紗ちゃんが、大皿に乗った手羽先を持って来た。

「母さん、これは作ったの」

 智さんがお義母さんに聞いている。

「そうよ、昨日から準備したから大丈夫だと思うけど」

「そんなに…、申し訳ありません」

 私たちが来る事で、いろいろと気を使っているので、申し訳ない気分だ。

 結局、私と母は何もする事がなく、昼食が整った。

 昼食が終わると恵子さんたちは帰って行った。


 何でも、義弟の義男さんの仕事が31日まであるそうで、どうしても家を空ける訳に行かないみたい。

 里紗ちゃんと武司くんも残念そうにしていた。


「智久たちは、また智久の部屋でいいか?陽子さんは客間を使って下さい」

 お義父さんが、今日の寝室を指定してくれる。


 お風呂を終えて、私が智さんの居る部屋に来ると、智さんは既に布団に入っていた。

「なんだか、この家に来ると、帰って来たって感じになるわ」

「もう、彩の家でもあるんだ」

「そうだけど、実感がなくて」

「そのうち、実感も出るさ。こんな田舎で悪いけど」

「ううん、全然。東京の方が、こまごまとしているのかもしれない」

 お風呂上りの肌ケアを済ませて、智さんの布団の中に入る。

 智さんは電気を消して、口付けをしてくれ、寝間着のボタンを外しだした。

「あっ、だめ、お義母さんたちが居る」

「声を出したらダメだぞ」

「えっ、もう」

 私も下の階に、お義母さんたちや母が居ると思うと、何だかどきどきしてくる。

 私はなるべく、声を出さないようにしているけど、時々、「あっ」という声が出てしまう。


「彩、おはよう。もう6時半だぞ」

「えっ、もう。早く着替えなきゃ」

 私は急いで着替えて、下に降りて行った。

 台所では既に母とお義母さんが朝食の支度をしている。

 そこに私も加わって、3人で支度をする。

 後から降りて来た智さんとお義父さんは、テーブルで新聞を読んでいる。


「後から、また恵子たちが来るそうだから、そしたらデオンに、おせちを取りに行きます」

 お義母さんが今日の予定を教えてくれた。


 10時頃、恵子さんが里紗ちゃんと武司くんを連れて来た。

 いつもの通り、車2台で乗り合わせてデオンに行く。

 年末で混んでいて車も並べて駐車できないので、バラバラに置いて建物の中で落ち合う。


 スーパーに入って商品が並んだ棚を見ていたけど、面白い商品がある。

「ねえ、あなた、『よそって味噌』だって」

 味噌がマヨネーズケースの中に入っている。

「ああ、名古屋では味噌ダレが売っているんだ。豚カツにかけてもいいし、おでんに使ってもいい」

「ね、ね、1個買おうよ」

 これは買わずにいられない。早速、買い物カゴの中に入れる。


「彩姉さん、おじさんの事を『あなた』だって」

 里紗ちゃんが言って来た。

「だって、旦那さまだもの。『あなた』でしょ」

「うん、まあ、そうだけど」

「里紗ちゃんもそのうち、『あなた』って呼ぶ人ができるから」

「姉ちゃんは『あなた』じゃなく、『おい』だろうな」

 また武司くんが、ちゃちゃを入れる。

「武司、あんたはまったく」

「おじさん、助けて」

 武司くんが智さんの後ろに回る。

「ハハハ」

「ホホホ」

 いつものことだけど、二人は面白い。


 大晦日も遅くまで、TVを見て智さんと一緒に布団に入ると、TVの音声が消えた部屋に除夜の鐘が聞こえてきた。

 今日は、里紗ちゃんと武司くんが隣の部屋に泊まっているので、私たちの夜の共同作業は発生しなかった。


 元旦の朝、目が覚めると智さんの顔があった。

「おはようございます」

「おはよう、眠っているといい」

「ううん、こうしていたい。このままがいい」

 もっと智さんに抱きつきたい私は、胸を智さんの腕に押し付けた。

「里紗と武司が隣の部屋に居るから…」

「うん、わかってる。

 あなたとこうしていると、落ち着くの」

 私は、目を閉じたまま答える。

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