第32話 クリスマスの遊園地

 智さんとテーマパークへ来たけど、さすがに3連休の中日ということもあって、すごい人。

 でも、人気がない遊園地って寂しいから、人が居た方が楽しい。

「智さん、あの店に行きましょう」

 私が示した先にあったお店は、ここのキャラクターのグッズが売っているお店だ。

 私は智さんとお揃いで、ねずみ耳のついたカチャーシャを2つ購入した。

「はい、智さん、これ」

 なんだか、智さんの顔が固まっている。気に入らなかったかしら。

「えっー、これを俺がするのか?」

「そうです、なんたって夢と希望の国ですから」

 ここは夢と希望の国。今だけは、いいじゃない。私は智さんの頭にカチューシャを付けてあげた。

「うん、大丈夫」

 私も自分の頭にお揃いのカチューシャを付けた。

 鏡に姿を映すと、なかなかいい具合になっている。

 智さんも見てみるが、まあまあな感じだ。

「かわいいです」

 ちょっと、お世辞かな。

 でも、今日だけはいいんじゃないかしら。


 私と智さんは、ねずみ耳を付けてパークの中を回る。

 でも、人気のアトラクションは既に、2時間待ちの看板が立っている。

「どれか乗りますか?」

 私としては、やっぱりジェットコースターだと思う。

 特に人気のある山の中を走り回るものに乗ってみたい。


 2時間も並ぶので、ねずみ耳を付けた私たちは目印になっていたのかもしれない。

 いきなり、声をかけられた。

「彩ちゃん」

「あっ、早紀ちゃんと真利子ちゃん」

 そう言えば、二人ともこの3連休でここに来るような事を言ってたっけ。

 智さんは素早く、頭のねずみ耳を取ったけど、絶対、見られているって。

「彩ちゃん、どうしたの」

「デートです」って答えていいかしら。

「うん、クリスマスなんで、来てみた」

「あっ、お父さんですか?」

「いえ、婚約者なんだけど」

 もう、ここは正直に言おう。

「「ええっー」」

 二人が驚くけど、そうだよね。

「彩ちゃん、結婚するの?」

「うん卒業したら」

「そ、そう、お幸せに」

 きっと、冬休みが明けたら何か言われるだろうな。


「同級生?」

「ええ、早紀ちゃんと真利子ちゃん。正直に言って良かったかな?」

「言ってしまったものは、仕方ないよ」

「そうですね、あっ、耳を取った」

「ごめん、あれはちょっと勘弁してくれ」

「ええっー、折角、可愛いと思ったのに」

「いや、その感覚は可笑しいと思う」

 そうかな。私は美術の点は良かったのだけど。


 夜のクリスマスパレードまで、満喫した私たちがホテルに帰ってきたのは、9時を過ぎていた。

「疲れたな。さっさと風呂に入って寝ようか」

「え、ええ、あっ、お風呂はお先にどうぞ」

「いいのかい?」

「だって、まだ恥ずかしいし…」

 一緒に入ってもいいかな?何て言おう。

「一緒に入らないか?」

「え、ええっ、ど、どうしようかな」

「嘘だよ」

「もう、また意地悪した。さっさと入って下さい」

 乙女心を弄ばれた気分だ。


「お先に失礼」

「はい、では失礼します」

 智さんが出て来たので、代りに私がお風呂に行く。

 お風呂は二人別々だったけど、今夜はもしかしたら、求められるかもしれない。

 いつもより、入念に洗わないと。

 心臓がどきどきと音を立てているけど、その音をヘアドライヤーの音で消す。

 部屋にあった浴衣を着て、ベッドの方に向かう。

 そんな私を智さんが見ている。


「どうかしました?」

「いや、とても色っぽいなと思って」

「ほんとですかー、そんな事言われたの初めてです」

 もう嬉しくなって、椅子に座っている智さんに抱きついた。

 そうすると、智さんの顔が私の胸の位置に来て、まるで赤ちゃんを抱いているお母さんの気分になってくる。

 女性って母性本能があるという事を意識してしまう。


「さあ、疲れたろう。寝ようか」

 智さんがベッドに入ったので、私も一緒のベッドに入る。

 私は身体を横にして智さんと向き合った。

 智さんは私を抱き寄せると、口付けをしてくれる。

「智さん……」

「ん、おやすみ」

「智さん、いいよ」その一言が、女の私から言えない。

 智さんは、私の身体に興味はないのかな。

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