第31話 宣言

「それで、名古屋の方はいつ行きます?」

「ああ、これから連絡してから、日程を決めようと思う」

 夕食の席で、智さんの実家に、挨拶に行く日程を調整する。

 智さんは、携帯電話で実家に連絡をするみたい。

「ああ、母さん、あのさ、ちょっと紹介したい人がいるんだ。うん、まあそう、結婚しようと思っている。

 それで、今度紹介したいと思うけど、いつ頃連れて行けばいいかと思って。

 ああ、じゃ、待ってる」

 実家のお義母さんかしら。お義母さんの目には、私はどう写るだろう。

「父さんと話をして、折り返し連絡をくれるそうだ」

「分かりました。あー、どきどきする」

「まだ先の事だろう」

「『うちの嫁には不合格です』なんて言われたらどうしよう」

「そんな事は言わないよ」

 智さんの携帯に着信が入った。きっと、実家からだわ。


「ああ、ちょっと、待って」

 智さんが電話の話口を押えて、私に話しかけてくる。

「正月に帰省も兼ねて連れて来いといってるが、大丈夫かい?」

「私はいいけど、母が……」

「ああ、母さん、こっちはいいけど、『彩』の、ああ、『彩』と言うんだ。その母さんにも相談してみないと。ああ、また連絡する」

 今度は私の番だ。お母さんに電話をする。

「あっ、お母さん、智久さんの実家の方に、ご挨拶に行く事になったんだけど、帰省も兼ねて、お正月に来ないかと言われて、うん、そう、それでね、お母さんにも一応断ろうと思って…、うん、はい、はい、じゃ、そうする」

 智さんが「どうだった?」という顔で見ている。

「ちょうどいい機会だから、行ってらっしゃいと…、それでいつ行きます」

「そうだな、30日の朝、早いので行こうか。今ならまだ予約が取れるかもしれない。帰りは2日にしよう。学校の方はそれで大丈夫?」

「ええ、もう冬休みに入ってますから」

 智さんはもう一度、携帯電話を取り出して、実家に電話をする。

「ああ、母さん、30日のお昼頃帰ることにする。それで帰りは、2日の夕方ぐらいで。うん、新幹線の予約が取れればだけどね。それについては、また連絡するから」


 智さんの部屋にある、ノートPCで新幹線の予約をする。

 年末だからダメかなと思ったけど、どうにか二人分の席が予約できた。

 帰りの方は楽に予約ができたみたい。

「えへへ、智さんと二人で旅行か」

「旅行と言っても、名古屋の実家に行くだけだが」

「それでも旅行は旅行です。あっ、お母さんに連絡しとこ」

 私はスマホを取り出すと、母に連絡した。


 学校も休みになったので、12月23日の祭日も智さんの家に居る。

 そして、キッチンに立って朝食の準備をする事が、普通の行為になっている。

 今回は3日間泊るつもりだったので、荷物も多かった。

 少しは、この部屋に置いていこうかな。

 ジムに行く用意をして、エレベータ前で待っていると、同じ階の奥さんが来た。

「あら、杉山さん、今日も娘さんとお出かけ。仲のいい親子だこと」

「いえ、婚約者です」

 私が奥さんの言葉に返す。

「えっ、ええっー?!そうなの?それでこちらの方はおいくつ?」

「はい、21歳です。今後ともよろしくお願いします」

「ええ、ええ、こちらこそ、よろしく」

 エレベータが1階に到着すると、奥さんはそそくさと出ていった。

「へへ、言っちゃった。これで、大手を振って歩けます」


 ジムから帰って、遅い昼食を採る。

「智さん、明日着ていく服を見て下さい」

 智さんに、気に入って貰えそうな服をバッグの中から何着か取り出した。

 いくつか、智さんに見せるけど、違いが分からないみたい。

「どうです?」

「寒くないか?」

 ちゃんと裏地があるからさほど寒くない。それにコートも着るし。

「この上にセーターとコートも持っていくので、大丈夫です」


「あっ、そうだ、明日はホテルを予約してあるから、着替えも持って行った方がいい」

「えっ、ほんとですか?どこのホテルですか?」

「テーマパークの近くのホテルで、たまたまキャンセルが出たので、会社の福利厚生システムで押えたんだ。かなりいいホテルだぞ」

「えー、嬉しい」

「じゃ、今日は風呂に入って早く寝るとしようか、明日は早く出ないとな」

「はい、お風呂、お先にどうぞ」

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